第14話 ヲタク少女、ドラゴンをボコる
クリムゾンドラゴンは見た目に違わず、炎攻撃を多用してくるモンスター。
竜鱗から放たれる熱気、体内に溜め込まれた炎の強さは想像に難くありません。
加えてその大きさ、手を払うような少しの動作でも、人間にとっては致命的な一撃になりえます。
バオオオオオオ!!!!
クリムゾンドラゴンの巨大な左腕が、あたしの頭を目掛け襲いかかる。
「――コトネちゃんッッ!!」
ガシッ!
あたしは片手でクリムゾンドラゴンの左腕を受け止める。
「こんなもんですか」
クリムゾンドラゴンは左腕を上げようとしますが、それは叶いません。
あたしがその爪をガッチリ掴んだままなので。
ググググググッ!!
ドラゴンにとって、人間なんて蟻のようなもの。
ぷちっ、と潰してやるつもりだったのでしょう。
続けて、クリムゾンドラゴンの右腕が襲いかかる。
「あいにく最推しが見ていますので」
左腕を掴む手を離し、すぐさま右腕を迎え撃つ!
「――カッコ悪いとこ、見せられないのです!」
ボゴオオオン!!
右腕の爪が砕け散ると、クリムゾンドラゴンは大きく仰け反る。
何の変哲もない、ただのパンチ。
魔力強化なし、スキルの類い一切なし。
己の肉体のみで完結した、この比類なきパワー。
「つまり、力こそパワー! なのです!」
やってて良かった、日々のお布施稼ぎ!
それにしても、ドラゴンの爪の硬度はダイヤモンドを超えるみたいですが多分嘘ですね。
こんなに脆いのなら、手に取った時点で壊してしまいますよ。
「まぁ、買う予定なんてありませんが」
手に残った爪の破片を握り、パラパラと砂状にする。
そんな物にお金を使うくらいなら、スパチャやライブのS席予約に使うべきなのです。
バオオオオオ……!
続けて、クリムゾンドラゴンはその大顎を開ける。
牙が隙間なく並べられた口内が、見る見るうちに真っ赤になると、大きな炎塊が発射される。
火炎弾、クリムゾンドラゴンの定番ムーブの1つ。
膨大な魔力を持つクリムゾンドラゴンともなると、それは1発で止まることはありません。
ドカァン!
ドカァン!
ドカァン!
連続で放たれる火炎弾、あたしは最低限の動きでこれを避ける。
「よっ! はっ!」
無論、勘で避けている訳ではありません。
火炎弾も、元を辿れば魔力の塊。
魔力を察知出来るあたしにとって、軌道を読むことなど造作もないのです。
ドカァン!
ドカァン!
ドカァン!
尚も放たれる火炎弾。
しかし、その全てがあたしに当たることはありませんでした。
バオオオオオオ!!!!
痺れを切らしたクリムゾンドラゴンは、大きく息を吸い込む。
そして、それは巨大な炎として放たれました。
ドラゴンブレス、ドラゴン系モンスターの最強攻撃。
上下左右、逃げ場のない広範囲の炎が迫る。
「ならば」
あたしは拳を構え、ドラゴンブレスに対し……。
「せい!」
スパァン!
秘技・見様見真似の正拳突き!
それにより、ドラゴンブレスがぱっくりと2つに割れ、散り散りに消えていく。
バオオオ!?
流石のクリムゾンドラゴンも動揺しているようです。
無理もありません、今まで繰り出した攻撃が、ことごとく届いてないのですから。
「いけます、いけますよぉ……!」
あたしは悪い顔をしながら無傷の拳を見る。
クリムゾンドラゴンとは初めて戦いますが、実は……その行動パターン自体は頭に入っております。
そう、あれは……。
「――第132回、3大事務所コラボダンジョン配信!」
『戦乙女』『月女神』『世界樹』から1人ずつ選ばれた、精鋭Dライバーちゃんによる神回確定のダンジョン配信企画。
難関と言われた新宿ダンジョン最奥部、そこで彼女たちに立ちはだかったボスモンスターが……クリムゾンドラゴンだったのです!
今でもその勇姿はアーカイブとして残され、伝説として語り継がれています。
即席にも関わらず、お互いの強みを理解した立ち回り、連携、まるで芸術作品のようでした……。
確か、公式のアーカイブだけで500万回再生は超えてるはず。
「その半分は、あたしが観てるんですがね」
あたしの考えるクリムゾンドラゴン攻略法はただ1つ。
それは、過去の討伐記録の再現。
「――つまり……完コピでございます!」
バオオオオオオオオ!!!!
再び、クリムゾンドラゴンの口内が赤く光る。
この魔力……ドラゴンブレスがくる!
あたしは走りながら高くジャンプする。
「それはもう見ました!」
ドゴォンッ!
クリムゾンドラゴンの顎に目掛け、渾身のアッパーをかます。
ドカアアアン!!
放たれるはずのドラゴンブレスは口内に留まり、中で大きな爆発となった。
鼻、耳からは黒煙が上がり、口から僅かに炎がこぼれる。
クリムゾンドラゴンの巨体がぐらつく。
相当なダメージと見ました。
「あの合同配信でも、こうしてドラゴンブレスを防いでいました……!」
仲間の危機を救うため、『月女神』のDライバーちゃんが、その『魔導銃士』の最上級射撃スキルにより口を閉じさせたのです!
その後、クリムゾンドラゴンは逆上、我を失い、暴れ狂っていましたね。
バオオオオオオオオオオオ!!!!
目の前の個体も、同じように暴れ回っているではありませんか。
無策のまま、あたしに目掛けて突進してきます。
あたしは、手の形を刀のように薄く構える。
「てええええええええいい!!」
ズバッ!
縦振りの手刀、それは斜めにクリムゾンドラゴンの巨躯を捉え、大きな傷痕が刻み込まれる。
当時の『戦乙女』のDライバーちゃんも、持ち前の『聖騎士』の高火力の斬撃で、クリムゾンドラゴンの竜鱗を切り裂いてました。
バオオオオオ……!
致命傷を喰らったクリムゾンドラゴン。
流石に自由には動けないようです。
そして、いよいよ終幕。
瀕死のクリムゾンドラゴンに『世界樹』のDライバーちゃんが動き出すのです……!
彼女は『拳闘王』、格闘職の最高到達点。
クリムゾンドラゴンの隙を見逃さず、渾身の一撃を振るいました。
「こんな風に!」
あたしは思い切り振りかぶる。
ギリギリギリギリギリ……!
極限まで筋肉に力を溜めます!
「神様、この世界にDライバーちゃんを生み出してくれてありがとうございます」
もし、あたしがDライバーに出会っていなければ、生きる意味が分かっていなかったことでしょう。
まして最推しに、あたしの活躍を見ていただける機会まで下さるなんて……。
あたし、田中コトネは今、この瞬間のために生きていたのかも知れません。
まぁ、そんなわけで。
「クリムゾンドラゴン、お前は」
このダンジョン界隈。
いや……美しく、尊いDライバーちゃんの住まう世界の……!
「――礎になれえええええええええええええええええええ!!!!!!!!」
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンッッッ!!!!
クリムゾンドラゴンにめり込む拳。
その衝撃は巨体を浮かせ、後方に思い切り吹き飛ばされる。
そして、魔結晶に激突!
バリイイイイイイイン!!!!
魔結晶は粉々に砕かれ、雪のように降り注がれる。
それは光を反射し、キラキラと輝きを放ちました。
はわぁ……綺麗ですぅ……。
まるで、このダンジョンがユイたんさんとあたしを祝福してくださっているようです。
クリムゾンドラゴンは光となって消滅、魔力の光が再構築され、紅色の巨大な魔石となりました。
空中に浮かぶそれをジャンプでキャッチ!
すたたたっ!
それはそれは大事に抱え、ユイたんさんの元へ向かいます。
にゅへへへへ、きっといっぱい褒めてもらえますよぉぉぉ!!
「ユイたんさん、あたしの活躍……見ていただけましたか」
「すごい……すごすぎるよコトネちゃん! あのクリムゾンドラゴンをソロ討伐なんて前代未聞だよ! 私、ほんとびっくりしちゃったよ!」
「それは良かった……! ユイたんさん。こちら、あたしからのささやかなプレゼントでございます……!」
「ううん、それは貰えないよ、そのクリムゾンドラゴンの魔石は討伐したコトネちゃんの物だよ! みんなもそう思うよね?」
「いえ、どうか納めてくださいまs……ふえ?」
みんな……?
「あの、ユイたんさん、みんなというのは?」
「ふふ、さっきクリムゾンドラゴンが叫んだとき、ドローンの調子が悪くなっちゃったよね。でも、コトネちゃんがクリムゾンドラゴンと対峙したときにすぐ復旧したんだ♪」
え!?!?
「ほら見て! リスナーのみんなも、コトネちゃんの活躍にすごく興奮してるよ!!」
"やりやがったあああああ!!"
"【祝】田中コトネ、クリムゾンドラゴンソロ討伐!"
"リアタイしてよかった……激アツな配信をありがとう!!"
"マジですげぇよコトねる!!"
"¥50000:コトねるおめでとう!!"
"ダンジョン配信でこんな興奮したの初めてかも……!"
"¥50000:超 絶 神 回 ! !"
"¥30000:お2人に、少ないけどこれで美味しい物食べて!"
"Dライバー界に新星来たる!"
"¥40000:歴史的瞬間に立ち会えて嬉しい、今はただ感謝を"
今日イチの勢いでチャットが流れていました……!
「ということは……今の戦いは全て――」
「――うん、コトネちゃんの活躍は、私が責任を持ってみんなに届けたよ! だから安心して♪」
ふえええええええええええ!?!?!?
い、今の同接数は……!
「ひゃ……100万人!?」
何ですかこれ、登録者数でしか見たことない数字ですよ……!?
あたしは膝から崩れ落ちる。
ユイたんさんだけに見せるつもりの全力が……世界中に……!
「これでコトネちゃんの魅力が存分に伝わったね、私すっごく嬉しい♪」
屈託のない笑顔で言うユイたんさん。
止めどなく流れるチャット。
"これで未来のDライバー界は安泰だな!"
"次の配信が楽しみだわ……!"
"大型新人Dライバー、田中コトネ!!"
Dライバーちゃんになるつもりなんてないのに、何で、何で……。
「――何でこうなるんですかあああああ!?」
あたしの絶叫が、秋葉原ダンジョン中に響くのだった……。
◇
その頃、中野ブロードウェイダンジョンにて、とある少女が如月ユイの生配信を観ていた。
「いつもより同接が少ねぇとは思ってたが……そういうことか」
黒い特攻服を身に纏ったヤンキー姿、肩にはバットに荒々しく釘を打ち付けた超凶器――釘バットを担いでいる。
「田中コトネ、ねぇ」
スマホに映る茶髪のベレー帽の少女。
ついさっき、あのSランクモンスター、クリムゾンドラゴンをソロで討伐した実力者。
グルアアア!!
その時、牛頭のモンスターが角を突き出して突進してきた。
ミノタウロス、大人より一回り大きな図体を持ち、その破壊力は鋼鉄の鎧すら意味を成さないほど。
ガキィン!
ヤンキーの少女は、釘バットを持った右手一本で突進を受け止める。
そして、そのまま軽く突き飛ばし、
「邪魔なんだよ」
ボコオオオ!!
無慈悲に釘バットを振り下ろす。
それはミノタウロスの脳天に直撃し、魔石へと変わった。
「面白ぇヤツが出てきたな……」
ヤンキー少女はくるりと振り向き、ダンジョンの出口を目指す。
その特攻服の背中。
数々のスポンサー企業のロゴの中、一際目立つ『悪鬼羅刹』の文字。
「――田中コトネ、ヤツはオレのモンにしてやるよ」




