第12話 ヲタク少女、集団モンスターを蹴散らす
あたしとユイたんさんは遺跡の森を駆け抜ける。
「コトネちゃん、魔力の反応があった場所はもうすぐ……!?」
「この辺りです、どうか警戒をば!」
やがて、
少し開けた場所に出ると、その正体が分かりました。
あれは……!
「ダンジョンスパイダー……!」
ダンジョンスパイダー。
人間の大きさを超えた巨大な蜘蛛のモンスター、ダンジョン内を集団で活動し、群れで襲いかかってくる厄介な存在です。
目の前のダンジョンスパイダーは、森の木々に大きな蜘蛛の巣を張り巡らせ、1人の探索者の女の子が捕らわれていました。
「誰か、誰か助けてぇ……!」
キシャアアアアア!!
"ダンジョンスパイダーかよ!?"
"しかもデカい、あんなサイズ見たことねぇぞ"
"しばらく狩られてない個体は成長するって聞いたことがある"
"あの女の子ヤバいぞ、今にも喰われる!"
"早く助けないと……!"
ダンジョンスパイダーの巣に捕まったら最後、自力での脱出は不可能と言われています。
ですが……それは自力での話。
「――やろうコトネちゃん、私たちなら助けられる!」
「――承知!」
あたしはデュランダルを抜いたユイたんさんと共に駆け出す。
すると、樹々の影から新たなダンジョンスパイダーたちが姿を現す。
どれも、蜘蛛の巣の個体と比べて小さいので、恐らく子分なのでしょう。
キシャア!!
腹の先から糸を吹き出し、我々の動きを止めようとします。
「ディバイン・スラッシュ!」
華麗なる剣技で糸を斬り裂き、前へと進んでいくユイたんさん。
ふおお、やはり絵になりますなぁ!
思わず見惚れてしまいます!
シュルルル!!
「あ」
1匹のダンジョンスパイダーの糸が、あたしの身体に巻き付く。
そして、2、3、4匹と糸を浴びせられ、身体中に糸がギッチリ巻き付いてしまいました。
"何やってんだああああ!?!?"
"今絶対ユイたん見てたろ……!!"
"完全によそ見じゃねぇか!"
"自慢の腕が封じられちまった"
"俺見たぞ、コトねるユイたん見てニヤけてた!"
キシャア!
身動きの取れないあたしに、ダンジョンスパイダーたちが飛びかかる。
「コトネちゃん!!」
「ふんっ!」
ブチブチッ!
あたしは力を込め、身体に巻き付いた糸を引き千切る。
"""へ!?"""
「せぇい!」
ドガガガガッ!!
あたしは飛びかかってきたダンジョンスパイダーを拳で蹴散らす。
「いけないいけない、集中しなければ……!」
"何じゃそりゃあああ!?"
"ダンジョンスパイダーの糸って、物理的な切断は不可能なはずだよな……?"
"ユイたんみたいに属性を付与するか、本体を倒さないと消えることはない"
"純粋な力で引き千切ったのかよ……"
"ゴリラ過ぎる"
その時、
シュルルル!
更なるダンジョンスパイダーの糸が、あたしの右腕に巻き付きました。
キシャアアアアア!!
今度の主は、蜘蛛の巣の大型ダンジョンスパイダー。
ビッグダンジョンスパイダーとでも呼びましょうか。
あたしは右腕に巻き付いた糸を、軽く引っ張ってみる。
「……なるほど」
他のダンジョンスパイダーの糸に比べて、多少は丈夫なようですね。
これならば。
「――そう簡単には切れませんね!」
ぐぐっ!
あたしは後ろを向きながら、右腕に力を込め、糸を引っ張り上げる。
糸を切るのではなく、繋がれた反対側を持ち上げるイメージ!
ビッグダンジョンスパイダーは蜘蛛の巣から離れまいと、必死にしがみつく。
「往生際が、悪い……!」
ぐんっっ!
ビッグダンジョンスパイダーは、まるで一本釣りのように宙を舞う。
その勢いのまま、反対の地面に叩きつける。
「でえええいっ!!」
ドオオオオオオオンッ!!
土煙が舞い、頭が潰れたビッグダンジョンスパイダーは魔石へと変わりました。
同時に、蜘蛛の巣は光になって消え、捕らわれた探索者の女の子を、ユイたんさんがお姫様抱っこでキャッチ。
そして、静かに着地、無事に事なきを得ました。
いいなぁ、あたしもユイたんさんにお姫様抱っこされたい……!
「もう大丈夫ですよ!」
「ありがとうございます……って、如月ユイ!?」
女の子はユイたんさんを見て驚きました。
分かりみが深い……急に超有名Dライバーちゃんと遭遇したらそうなりますよね。
今日の出来事を機に、貴女もユイたんさんのファンとして歩むことになるのでしょう、あたしは嬉しくてたまりません。
あたしは後方腕組みでウンウンと頷く。
「ありがとうございます、もし如月ユイさんが来てなかったらどうなってたか……」
「私は何も、ダンジョンスパイダーを倒したのは、ここにいる田中コトネちゃんですから♪」
「田中、コトネちゃん……?」
女の子と目が合う。
「――まさか、この前のイレギュラーを止めた茶髪ベレー帽の娘!?」
ふえ!?!?
「すごい、ホンモノ! 田中コトネさんって言うんですね、私、あの配信からコトネさんの大ファンなんです! 握手して下さい!」
「ふえ、はは、どうも……」
あたしは渋々握手に応じる。
違うのです、あたしじゃないのです。
隣にもっと輝くスターがいます。
綺麗な星空の下、地面の石ころを見て喜んでるような物です。
"コトねる目が死んでるw"
"ファンって言われてこの顔である"
"そこは喜ぶとこだろwww"
「もしかして……お2人は配信中だったんですか?」
「そうです! コトネちゃんのことを色んな人に知ってもらいたくて♪」
「ってことは、コラボ配信ってこと……!? やっぱりコトネさんってDライバーだったんですね!」
ひいいいいいいいい!?!?
早く誤解を解かなければ……!
「いや、あの、あたしはDライバーちゃんでは無いのでして……」
「へ、そうなんですか? 始めたりとかは」
「今のところ、全く」
「そうですか……」
「すみません、ご期待に添えず」
「……」
「……」
「あの……私、コトネさんの配信観てみたいです、やっぱり考え直したりとかは」
「それは、その……難しいかもしれません」
「……」
「……」
「……ぐすっ」
目に涙を溜める女の子、ユイたんさんは肩に手を添え、静かに頷く。
"こんな地獄みたいな空気あるのか"
"もう見てられないんだが"
"最低で草"
"大邪神を名乗るだけある"
"あーあ泣かせた"
"責任とってDライバー始めろ"
うぐおおっ……!
罪悪感の刃が身体に突き刺さる。
じゃあどうしたらいいんですか、あたしだって辛いんですよ!
「ごめんなさい……私が絶対コトネちゃんを説得してみせます」
「はい、どうかよろしくお願いします……!」
ややあって。
「それにしても……かなり大型のダンジョンスパイダーだったね、私でもあのサイズは初めて見たよ」
「実は……見たんです、この先に魔結晶があるのを」
魔結晶、ダンジョンに滞留している魔力が一部に集まり、結晶化することで出来る物体。
魔結晶から漏れ出る魔力の影響で、周辺に強いモンスターが生み出される傾向があります。
そんな理由もあって、魔結晶はなるべく除去するべき……とされています。
「ついさっき遺跡で偶然見つけて、危険だと思って離れたらダンジョンスパイダーに遭遇してしまって……後はお2人が知っての通りです」
「あのダンジョンスパイダーを見るに、魔結晶も相当大きいはずですね」
「もしかしたら……この前のイレギュラーもその魔結晶の影響かも」
魔結晶は放置すると大きくなっていき、ダンジョン内の環境も変わってしまいます。
過去に魔結晶の影響で、凶悪なモンスターが増えたせいで封鎖されたダンジョンもあります。
女の子は頭を下げました。
「お願いです、お2人で魔結晶を何とかしてくれませんか……この秋葉原ダンジョンは……友達との思い出がいっぱい詰まってるんです! 無くなるなんて嫌なんです!」
魔結晶の除去。
それはつまり、危険度の高いモンスターとの戦闘をするということ。
ユイたんさんは、意を決したように言いました。
「――分かりました、任せて下さい」
「あ、ありがとうございます……!」
「……ユイたんさん」
そうなのです。
ユイたんさん、いえ。
Dライバー、『戦乙女の1番星』如月ユイは……困っている人を見捨てない、必ず手を差し伸べ、その想いを背負ってくれる人。
無鉄砲で、自分のことなんて顧みず、常に他者を優先する。
そんな貴女だからこそ、皆が慕い、応援するのです。
「やろうコトネちゃん、私たちで秋葉原ダンジョンを救おう……!」
「ふえ?」
"頼む、ユイたんを助けてくれ!"
"これはお前にしか出来ない!"
"コトねるがいれば百人力だ!"
"これほど頼りになるヤツもいない……!"
"ワイからも頼む、秋葉原ダンジョンを救ってくれ!"
そうでした。
今までは配信越しにユイたんさんの活躍を見守るだけでした。
しかし、
この場には、田中コトネもいる。
つまり、ユイたんさんの想いを実現する、その一助が出来るのです……!
「――お任せ下さい、このあたし、田中コトネが貴女の振るう剣となり、貴女を守る盾となりましょう!」
あたしはユイたんの足元に跪く。
目標は、魔結晶。
あたしとユイたんさんは、遺跡の森を進むのだった……。




