第04話 パーティがほんと無理
次の日。昨日見つけた坑道の続きを埋めようと、ギルドに顔を出したら、受付のミナさんに呼び止められた。
「トールさん。実は、パーティ参加ご指名の依頼が来てまして」
「指名……俺に、ですか」
めったにない。マッパーに指名なんて。
「攻略パーティの方たちが。あのマッパーと組みたい、って。腕のいいマッパーがいるって、噂を聞いたみたいで」
噂。よく分からないけど、どこかで誰かが、俺の地図の話をしたらしい。
正直、気は乗らなかった。今日は昨日の坑道の続きを、一人でじっくり埋めたかった。
でも、ギルドを通した、ちゃんとした依頼だ。俺がパーティを組むときは、いつもギルドの紹介を通す。そうすれば、変な相手には当たらない。安心して、断れる。
……気は進まないけど、一回くらいは、いいか。路銀にもなる。
「分かりました。一回だけ、なら」
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待ち合わせの広間に、三人組がいた。
リーダーらしい剣士が、ぱっと立ち上がる。
「あんたがトール? 噂のマッパーの! いやー、会えて光栄だよ。俺はレント」
戦士のギル、盗賊のニケ、と紹介される。三人とも、目をきらきらさせてた。悪い人たちじゃ、なさそうだ。ただ、距離が近い。
「あんたの地図、すごいんだろ? 隠し通路とか、ぜんぶ見つけちゃうって」
「……まあ、一人のときは」
「一人の、とき?」
「いえ。なんでも……。あの、配信しても大丈夫ですか?」
「おお、いいぜ! 俺たちもフライ型のカメラ飛ばすからよろしくな」
俺はゴーグルのスイッチを入れて、いつもの調子で配信を始める。
〔だんちょー〕えっ、今日パーティ!?
〔ねむ〕そろぼっちが、人と……
〔名無し〕初めて見た
〔通りすがり〕大丈夫?(心配)
画面の向こうが、ざわついてた。だよな。俺も、自分でびっくりしてる。
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パーティで潜ったのは、隣町の、そこそこ歯ごたえのあるダンジョンだった。ハンプティダンジョン。財宝多めの小遣い稼ぎになるところだ。
そして、さっそく噛み合わなかった。
「よし、この先に財宝の気配がするぞ! 行こうぜ!」
レントが、剣を担いで先を指さす。目が、きらきらしてた。でも俺は、その逆方向の、まだ埋まってない通路のほうが気になってた。
「いや、レントさん。その手前の通路、まだ地図が埋まってないんで」
「え、財宝より地図?」
心底ふしぎそうな顔をされた。まあ、そうなるよな。
「はい。財宝より、地図です」
奥のほうで、ニケが宝箱を見つけて、目を輝かせた。
「見て、この宝箱! すごくない!」
すごいのかもしれない。でも俺の目は、宝箱じゃなくて、その下のマスにいってた。まだ色のついてない、まっさらな一マスに。
「……その箱の下のマス、踏んでいいですか」
「宝箱は!?」
〔だんちょー〕うーん、通常運転
〔名無し〕いや草
ニケの声が裏返る。悪気はないんだ。ただ、見てるものが、違うだけで。
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そして、やっぱり。俺、全然調子が出ない。
いつもなら、こういうのは全部分かる。壁の音の違いも、床のわずかな段差も、空気のながれも。なのに今日は、なんにも聞こえない。
レントがどこにいて、ギルが何を構えてて、ニケがどっちに動いたか。それを追ってるだけで、頭がいっぱいになる。三人ぶんの気配で、頭の中がぎゅうぎゅうだ。
壁を叩いても、音の違いが、分からない。
「あれ? トールさん、具合でも悪いですか?」
「……すみません。今日は、ちょっと」
具合が悪いわけじゃない。ただ、いつもなら聞こえるはずのものが、今日は何も聞こえないだけだ。でも、それを、うまく説明できない。
〔ねむ〕ソロのときのキレがない……辛そう
視聴者には、バレてる。だよな。俺が、一番分かってる。
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半日もしないうちに、俺は限界だった。
「すみません」
俺は、頭を下げた。
「俺、……スキルがちょっと変わってて。そのせいで、チームだと実力出せなくて。この先は足を引っ張ると思うので……お先に、失礼します」
レントたちは、きょとんとしてた。
「え、もう帰っちゃうの?」
「はい。ほんとに、すみません。二人までなら、まだいけるんですけど。……複数人は、ちょっと無理なんです」
うまく説明できない。体質、としか言いようがない。どうも、そういう風にできてるらしい。
スキル:孤独。複数人になるとパフォーマンスが著しく低下する。
「短い時間でも一緒に潜れてよかったよ! ありがとな、依頼引き受けてくれて」
「いえ、本当に申し訳ないです。……ここまでの地図は共有しますね」
悪いことした、とは思う。指名までしてくれたのに。でも、これ以上いても、迷惑をかけるだけだ。
ギルドに戻って、ミナさんに事情を話すと、ミナさんはちょっと笑った。
「やっぱり。……ソロのときが、一番いきいきしてますもんね」
「……本当にすみません。せっかく仕事を回してくださったのに」
……見られてたか。今後、指名があった時はスキル開示をしてOKであることを伝えて、ギルドを後にした。
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ゴーグルをかけ直す。配信は、まだ続いてる。
「はいどーも。すみません、お騒がせしました」
〔だんちょー〕ナイスファイト
〔名無し〕ぼっちにあの陽の者は辛いよな
「仕切り直して……あ、そうだ。昨日の坑道の話、まだしてなかったですよね」
〔だんちょー〕そうだよ! 気になってた
〔ねむ〕あの真っ黒なやつ
「あれ、隠しエリアではあったんですけど。……たぶん、コモル坑道じゃないかと思ってて」
〔だんちょー〕コモル坑道って、あの?
〔ねむ〕昔の、廃坑の?
「はい。記録だと、とっくに埋もれて場所も分からなくなった古い坑道です。たぶん、それ。まだ確証はないですけど」
ギルドには、まだ報告してない。隠しエリアを見つけたら届け出る決まりだけど、正直、まだ自分でもよく分かってないし。それに——届け出る前に、もう少し、自分の目で確かめたい。
「なので、これから確かめに行きます。……あの坑道が、ほんとにコモルなのか」
〔だんちょー〕生き生きしてる
〔ねむ〕さっきと別人
一人だ。ようやく、一人になれた。とたんに、世界がくっきりする。壁の音も、床の段差も、空気のながれも。ぜんぶ、戻ってきた。
……うん。これだ。これで、いい。
俺は軽い足取りで、あの坑道へ向かった。今日のぶんの真っ黒なマスと、確かめたいことが、待ってる。




