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今世もぼっちなのでソロでダンジョン全踏破します〜【スキル:孤独】持ちの配信者、ボス部屋も埋めたいので失礼しますね〜  作者: 絹田屋


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第29話 養生施設に、鍵


 ウロボロスの深層続きでちょっと疲れた。今日は浅いとこでのんびりしたい。

 久しぶりに、原点のラーデンあたりを、ゆっくり歩いて行こうかな……なんて思いつつ、まずはコモルへ足を向けた。

 ころぼの様子が、気になったからだ。この前、住みかに送り届けたばかりだけど。……ちゃんと、あそこにいるかな。


 配信はつけてる。


「えーと、今日はのんびり回です。コモルのころぼ見てから、久しぶりにラーデンのほう、のんびり埋め直そうかなと」


 〔だんちょー〕でた養生施設

 〔ねむ〕久々ののんびり回うれしい

 〔名無し〕深層で情緒やられたので助かる

 〔通りすがり〕ころぼ出てくるかな


-----


 坑道の入り口が、見えてきた。なんか、いつもと違う。

 入り口に鎖がかかってた。太い鉄の鎖に真新しい鍵。


「あれ、……?」


 脇に立て札。『立入制限区域 関係者以外立入禁止』。

 ソルナの、紋章が押してある。


「……閉まってる」


 〔だんちょー〕は?

 〔ねむ〕鍵かかってる?

 〔名無し〕なんで

 〔名無し〕公営じゃないのここ

 〔通りすがり〕封鎖って穏やかじゃないな


 鎖の掛かった入り口を、まじまじ見る。……この鎖と立て札のぶん、入り口のマスの描き込みが変わった。地図、直さないと。

 ——いや、今はそこじゃない。


「そろぼっちさん!」


 立て札を見てたら、横から声がした。ミナさんだった。息を切らしてる。

 たぶん、やってくるダンジョン攻略勢に声かけしてるんだと思えた。


「そろぼっちさん。すみません、私……止められなくて」

「これ、どうしたんですか」

「国の方針で。コモルとラーデンの一部が、当面は立入制限に。……安全管理のため、と」


 安全管理。

 ぴんとはこない。でも、頭の隅で、あの男の声がした。


 ——あなたの『いつも通り』は、もう長くは続かない。


 ……これか? ものすごい疑問を感じる一方で、確信もあった。たぶん、繋がってる。

 封鎖のことが伝わると、コメント欄の流れが急に変わった。


 〔だんちょー〕安全管理???

 〔名無し〕どう見てもそろぼっち狙い撃ちでは

 〔名無し〕陰謀論乙

 〔名無し〕↑信者こわ

 〔名無し〕は?普通に事実として考えられるだろ

 〔ねむ〕養生施設に鍵かけられた…

 〔名無し〕のんびり回返せ

 〔名無し〕いち配信者が調子乗った結果では

 〔名無し〕↑それな

 〔名無し〕国が悪いに決まってんだろ

 〔通りすがり〕急にギスギスしてて草も生えない


 養生施設に、鍵。

 ねむさんの言葉が、皮肉に響いた。みんなが、ぼーっと癒されてた場所。俺がただ埋めてた場所。

 ……坑道だけじゃないのかもしれない。いつも穏やかだったコメント欄まで、こんなに荒れてる。俺の知らないところで、なにかが、少しずつ変わりはじめてた。


「封鎖……」


 そしたら、ころぼともしばらく会えなくなる。

 そう思って見回した、その時。足元の草むらが、もそっと動いた。


「ンキュ!」


 ころぼだ。ぴょこっと出てきて、俺の足にぽふ、とぶつかる。


「ンキュ!」

「えっ、ころぼ! ……お前、閉め出されたのか」


 この前、住処まで送り届けたばかりなのに。


 ミナさんが、苦笑いした。

 この人、配信もこっそり見てるらしい。ころぼのことも、ちゃんと知ってた。


「封鎖のとき、私が来たらもう入り口が閉じられてて。……気づいたら、この子がそこにいたんです。私ではころぼ……仮にもモンスターをダンジョン内に送ることはできなくて……。そのまま締め出される形になってしまって、入り口の近くでずっと待ってたみたいなんです」


 なるほど。間が良かったのか、悪かったのか。

 とにかく、こいつは無事だ。

 でも、住みかは鍵の向こう。当分帰れない。

 しゃがんで、ころぼを持ち上げた。大人しく腕の中に収まる。

 ……なんか、また一回り膨れてないか? 初めて会った時は手のひらサイズだったよな……?

 ずっしりと前より重い。気のせいってことにしておく。


「……しょうがない。しばらく、預かるか」

「ンキュ!」


 ミナさんが、書類を一枚出してくれた。緊急時の保護預かりの届けだそうだ。ころぼが今までの観察から人への害がないことを確認済みでることが、備考欄にすでに書かれてあった。……これで俺も、密輸犯にならずに済む。


 〔ねむ〕ころぼ無事でよかった…

 〔だんちょー〕住むとこ追われてそろぼっちと旅に出るころぼ

 〔通りすがり〕地味につらい話だぞこれ


 ころぼをリュックの上に乗せて。鍵のかかった入り口を、もう一回見た。

 いつもなら、ここをすたすた入って行く。奥の端っこをこつこつ埋めて……、それで一日終わってた。


 気分が宙に浮いた。埋めるものがない。行き場をなくした指先が、リュックの肩紐を、意味もなく撫でていた。


 ……どうしよう。

 埋める以外のこと、なんて。考えたことなかった。


「えーと。今日は、ここまでにしときます。ウロボロスの浅いところ行けそうだったら、また付けますね」


 配信を締めた。締めるほかなかった。ミナさんはその様子を複雑そうな表情で見ていた。


-----


 帰り道。


 空はいつも通りだった。なのに、いつも通りの場所は、もう開かない。

 あの男の言ってたことは、確かに本当になった。

 ……いつも通りが、できなくなったら。

 俺は、何をすればいいんだろう。


 ころぼが、ンキュ、と鳴く。


「……そうだな。いったんお前の生活用品でも整えるか」


 これが正解かは分からないけど、ころぼ用の寝床とトイレと、こいつの好物を買って帰ろう。


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