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今世もぼっちなのでソロでダンジョン全踏破します〜【スキル:孤独】持ちの配信者、ボス部屋も埋めたいので失礼しますね〜  作者: 絹田屋


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第28話 個人のものじゃない、と言われても


 ころぼをコモルに送り届けた、翌日のこと。

 ギルドに報酬の手続きに行くところだった。いつもの道。いつもの夕方。帰りに何か美味しいものでも買おうかな、なんて考えてるような、呑気な時間。


 ——路地の角で、待っていたみたいに立っていた。

 あの黒外套の男だ。ギルドですっと消えた。


「……っ、えっと……?」


 背が高い。頭ひとつ違う。俺も大きめのほうなのに。

 今日は外套じゃない。地味だけど、隙のない身なり。ぱっと見は、ただの旅人で通る。ただ、その立ち方で、軍の人間だと分かった。

 俺の前に、すっと歩み出て道をふさいだ。


「少し、いいか。時間は取らせない」


 ……いいか、と訊かれても。

 断り方が分からない。配信してないとそれすら言えない。

 男は俺の返事を待たずに、口を開いた。


「単刀直入に言う。あなたの地図は、戦略物資だ」


 戦略物資。地図が?


「えっ、あ……」


 声が出ない。喉の奥がつかえて、言いたいことはあるのに言葉にならない。


「変動深層を読み切れるのは、今のところ世界であなただけだ。その地図は、国の防衛を左右する。もう、個人が好きにしていいものではない」


 男は、俺が固まってるのにお構いなしに続けた。


「無償での頒布は、今後やめてもらう。自由な配信も、我々の配下に。相応の管理下に置かせてもらう」


 ……え。

 頭の中がすっと冷えた。無料で配るな、以前のところで引っかかる。


 ここ、ソルナなんだけどな。俺の国……。

 この人はまるで当たり前みたいに、俺の配信を「管理下に置く」と言った。……軍の、それも——たぶん、よその国の。ぽん酢さんが言ってた、ノルドだろうか。


 名乗りもしなかった相手の輪郭がうっすら見えた気がして、背筋が冷えた。

 男は続けた。


「なに。配下に置くといったが、充分な対価は渡す。あなたの深層の地図を、これから我が国にだけ流してもらおうか」


 うちにだけ。

 配信で出すのを、やめて。国にだけ渡す。

 それは……。


「……それ、だと」


 言葉がうまく出ない。喉がいつもより重い。


 でも、これだけは言わなきゃ、と思った。

 汗ばんだ手を、ぐっと握る。息を無理やり押し出した。


「……俺、埋められなくなるので」


 男は、眉ひとつ動かさなかった。


「埋める? ……マスを、か」

「はい。配信で見せながらじゃないと。俺、ちゃんと埋められなくて」

「ならば、配信は我が国の管理下で続ければいい。公開範囲を、絞るだけだ」


 違う。違うだろ。うまく言えない。でも、違う。

 思わず足元に目を落とした。道の石畳。目地の線が、地図みたいに見える。欠けたところが埋めてない形みたいだ。


 ……現実逃避だ。分かってる。

 顔を上げる。当然だけど、男はまだそこにいる。

 いつもなら「はあ」で流せた。「また今度で」で、逃げられた。

 だけど、この人は。流しても逃げても、きっとこうして目の前に立ちはだかる人だ。押しても引かない。


 男は、それ以上、何も言わなかった。

 脅す必要も、ないとでもいうみたいに。俺の返事を、待つ気もないみたいに。

 ただ一度だけ、俺の首元のゴーグルへ目をやった。多分、そこに映る地図のことを見ているのだとわかった。


「これほどの地図を、誰でも覗ける場所に垂れ流す。……自分が何を野放しにしているのか、分かっていない」


 声が、ほんの少しだけ低くなった。苛立ちだけじゃない。地図に対しての愛着……みたいなものが、ちらっと覗いた気がした。


「私には、分かる。——だから、放っておくつもりはない」


 一歩下がって、背を向ける。


「今日は、伝えるだけだ。すぐに答えろとは言わない。——だが、あなたの『いつも通り』は、もう長くは続かない」


 それだけ言って、人混みに紛れて消えた。


 俺は、道のど真ん中に一人で残された。


 ……気づけば、背中がぐっしょり濡れてた。心臓はうるさく鳴ってる。膝も少しだけ笑ってた。あの人が消えてから、やっと身体が追いついてきたみたいだった。


 まわりを見る。

 通りはいつも通りだった。人が歩いてる。何人かが、突っ立ったままの俺を、ちらっと見た。不思議そうに、首をかしげて。すぐに興味をなくして、通り過ぎていく。

 今ここで、おそらく北の軍人に詰め寄られてた。……なんて、誰も思ってないみたいだった。たぶん、ただの立ち話。その程度にしか映ってない。


 ……そっか。

 助けを呼ぼうにも、脅されてることに、誰も気づきもしない。

 ソルナだって、北を警戒してないわけじゃない。なのに、この人はたった一人、素知らぬ顔で街に紛れ込んでる。そういうことが、できる相手なんだ。

 あの人が、わざわざ念を押さなかった理由が、分かった気がした。


 胸の奥に、流せなかったものがひとつ残ってた。埋めそこねたマスみたいに、そこだけ、黒い。

 あの人は、たぶん本気だ。


 ……俺の「いつも通り」が、長くは続かない?

 それがどうやってくるのか、見当もつかなかった。


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