表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今世もぼっちなのでソロでダンジョン全踏破します〜【スキル:孤独】持ちの配信者、ボス部屋も埋めたいので失礼しますね〜  作者: 絹田屋


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
27/37

第27話 公開情報ってだけなんです


 ウロボロス大迷宮深層に今日もトライしていた。存分に埋めまくった。外壁すらも果てがないくらい広いし、罠は見たこともないものばかり。古典的な大岩のつぶてが毒ガスをまとっていたり、石弓の矢がなんと石化させる魔力を持っていたり。基本的なものに見せかけて、油断すると命取りになるものばかりだ。


 配信を締める。


「えーと、今日は罠のレパートリーがすごかったですね。ではこの辺で。見てくれて、どうも」


 〔だんちょー〕おつー

 〔ねむ〕今日もころぼ尊かった

 〔名無し〕深層やばすぎ

 〔通りすがり〕作業用のはずだったのに見入ってたわ

 〔名無し〕おつおつ


 配信を切る。

 地上に戻って、ギルドに顔を出す。ついでに昨日見かけた門の傷について報告しよう。

 ……なんか、外まで、ざわついてた。


-----


 扉を開けて、固まった。

 ギルドの中が、人で埋まってた。それも、ただの人じゃない。

 ソルナの紋章をつけた役人。見るからにお金のかかった、企業っぽい一団。受付の前で、みんなして押し合いへし合いしてる。

 その真ん中で、ミナさんが揉みくちゃになってた。涙目だ。


「あっ、トー……そろぼっちさん! た、助——」

 トールさん、と言いかけて。ミナさんは、とっさに俺のハンドルへ言い直した。

 ……そこまでして隠すってことは。この人たちは、俺の本名を知られたら、まずい相手なんだろうか。ミナさんの必死さで、なんとなく、そう思った。


「いたぞ!」

「ご本人だ」


 ざっ、と全員がこっちを向いた。

 ……帰りたい。


 なんか立派そうな面子が、よりによって全員俺に用事らしい。……いや、偶然じゃないのかもしれない。俺は顔も名前も出さないし、配信の外じゃまともに喋れない。普段はずっと深層にこもってる。こうして人前に出るのは、ギルドに立ち寄るくらい……そういう人たちが、この日を狙って張ってた。みたいな感じかもしれない。……ただの憶測だけど。


 配信は切ったあとだ。ミナさん相手なら、ぽつぽつくらいは喋れる。でも、知らない大人がこれだけ集まると、駄目だ。喉に蓋がされたみたいに、声が出ない。

 役人らしき男とその一団が、詰め寄ってくる。


「そろぼ……いや、トール殿。ソルナ政府として、正式にお話が」

「お待ちを。弊社が先にお約束を」

「マッパー職の管轄は国にある。お引き取り願おう」

「ご本人の同意が最優先のはずでは?」


 俺を間に挟んで、言い合いが始まった。すごい剣幕だ。

 声が出ない。何も言えない。ただ、突っ立ってるだけだ。手のひらに汗がにじむ。心臓だけがやたらとうるさくて、まわりの背が壁みたいにせり出してくる。逃げ場が、どんどん埋まっていく気がした。

 ……どうしよう。


-----


 考えて。

 俺は、ゴーグルに手をやって配信をつけた。


「……えーと。今、緊急で動画回してるというか……。俺、配信つけないと喋れないので。ちょっと力をください……」


 なんとか声が出た。配信してると喋れる。いつもの俺になる。

 画面の向こうで、コメントが、どっと噴き出した。


 〔だんちょー〕は???ここどこ

 〔ねむ〕ギルド?なんでこんな人いるの

 〔名無し〕スーツの集団なに

 〔名無し〕人口密度おかしくねwww

 〔通りすがり〕そろぼっち配信つけないと喋れないとかいってたもんな

 〔名無し〕配信を盾にするなwww

 〔名無し〕受付のお姉さん揉みくちゃで草


 役人も企業の人も、配信に気づいて、ちょっとだけ声を抑えた。さすがに、世界中に流れてるとなると。

 企業の一団から、スーツの女の人がすっと前に出た。


「お久しぶりです、そろぼっちさん。先日の独占のお話、覚えていますか」


 あの人だ。スポンサー契約を持ちかけてきた、仕事ができそうなお姉さん。


「……あの、お断りさせていただいた件ですかね?」

「ええ。あれは取り下げます。——あなたを囲うのは、やめました」


 〔名無し〕誰あの人

 〔だんちょー〕企業の偉い人っぽい

 〔ねむ〕独占断られたのに笑顔こわい

 〔通りすがり〕なんか含みある


「方針を変えたんです。あなたのやり方に、こちらが合わせることにしました」

「……それ、儲かるんですか」

「いいえ。今は、ぜんぜん」


 きっぱり言われた。なのに楽しそうだった。よく分からない人だ。


 〔だんちょー〕きっぱりwww

 〔名無し〕儲からないのに方針転換?

 〔ねむ〕この人だけ別の絵を見てる感じ


「ギルドとソルナの間で取り決めがある。彼はギルド所属のマッパーなのだろう。ならばこちらが優先されるはずだ」

「あら、彼はわたくしどものプラットフォームで配信する配信者の一人です。個人が挙げた成果を国が巻き上げると仰るので?」


 役人と企業の人が、また言い合いを始めようとした。

 その時。

 ふっと、空気が変わった。

 壁際に、いつのまにか、もう一人立ってた。黒っぽい外套の、知らない男。笑ってない。目だけが、こっちを測ってた。

 言い合ってた二人が、口をつぐむ。


 〔名無し〕急に静かになった

 〔ねむ〕なんか怖い人いる

 〔通りすがり〕空気変わったな


 男は、配信中の俺を、ちらっと見た。ゴーグルのカメラのことも、その向こうの何万の目のことも、ぜんぶ承知の上で——それでも眉ひとつ動かさない。むしろ、こんな衆目のある場に自分が映ることを、鬱陶しがってる目だった。

 それから、ほんの少しだけ、口の端を上げた。


「……話は、正式な場で。カメラのないところで、な」


 名乗りもしない。役人にも企業の人にも、目もくれない。誰なのか、どこの誰なのか。何ひとつ明かさないまま、それだけ言って、男は人混みに紛れて消えた。

 配信を、嫌ったみたいだった。


 〔だんちょー〕カメラのないところでとか怖すぎ

 〔名無し〕誰だあいつ、名前も言わずに消えた

 〔ねむ〕あの人だけ、空気が違った

 〔通りすがり〕配信つけといてよかったやつでは


-----


 その隙に、俺は、ミナさんを人混みから引っぱり出した。

 まだ何か言いたそうな立派そうな人たちに、地図を見せて頭を下げた。


「あの。俺、ほんとに地図を埋めたいだけなんで。……こんなに人が来るってことは、俺の地図、価値あるものなんですかね。よく分かんないですけどなんとなく、分かりました。話は、ちゃんと聞きます。書面をいただければ、落ち着いて確認できるので……そうしてもらえませんか」


 〔名無し〕今さら価値に気づくなwww

 〔だんちょー〕国と企業まとめて「書面で」あしらったぞ今

 〔名無し〕草

 〔ねむ〕今日はいつもの十倍疲れてそう

 〔通りすがり〕大物の扱いが雑で最高

 〔名無し〕国も企業も謎の人も全部「また今度」で草

 〔名無し〕配信を盾にしたの伝説だろ

 〔名無し〕そろぼっち世界一忙しいぼっち

 〔名無し〕同接えぐいことになってる


 ギルドの裏口から、こっそり出た。

 外は、いつも通りの夕方だった。


「……えーと。今日は、こんなところで。バタバタして、すいません。また、ゆっくり埋めます」


 配信を締める。


 国の役所。企業のスーツの人。北の知らない男。

 みんなして、俺の地図をほしがってる。

 ……みんなして、地図ほしがるなあ。

 声に出すと、ちょっとおかしかった。

 俺は、ただ埋めたいだけなのに。


 と、荷の中のころぼがンキュ、と鳴いた。

 ……あ。

 こいつ、コモルに帰してない。深層から、そのまま連れてきちゃった。

「……やべ」

 俺は、ゴーグルにまた手をやった。配信をつけ直す。


「えーと、すいません。こいつ、住みかに戻してから帰るので。このまま連れてったら俺、密輸犯になっちゃうし色んなものに違反するので。速やかに行きます。……もうちょっとだけ、いいですか」


 〔だんちょー〕結局また配信つけてて草

 〔名無し〕放送事故じゃねえかwww

 〔ねむ〕ころぼまだいたの!?かわいい

 〔名無し〕密航犯の護送はじまった

 〔通りすがり〕今日の主役ころぼだろ

 〔名無し〕そろぼっち配信ないと生きていけない説


 荷から、ころぼがぴょこっと顔を出した。


「ンキュ!」

「イェイ! みたいなこと言うんじゃないよ」


 〔ねむ〕ころぼご機嫌で草

 〔だんちょー〕送還されるのにノリノリなのかわいい

 〔通りすがり〕いい最終回だった(最終回ではない)


 まったく。

 俺は、コモルのほうへ歩き出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ