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今世もぼっちなのでソロでダンジョン全踏破します〜【スキル:孤独】持ちの配信者、ボス部屋も埋めたいので失礼しますね〜  作者: 絹田屋


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第25話 一番安全なところ


 ウロボロス大迷宮の深層を行ったり来たりして数日が過ぎていた。ぽん酢さんと組みながらだったけれど、S級をずっと独占することはできない。そういう時は、ソロでも行けそうな範囲で細かに埋めるか、養生施設配信にするかだった。


 ギルドの受付で、ミナさんに呼び止められた。配信は切ってある。


「トールさんに、正式なご依頼です」


 ミナさんが、書類を一枚こっちに向けた。ギルドの印が、でかでかと押してある。


「ギルド製のワープ装置を、ウロボロスに設置していただきたいんです。場所は——もっとも安全で、撤退がしやすいところに」


 中継門、というらしい。対になった門をくぐると、一瞬で行き来できる。片方は、街のギルドの脇に。もう片方を、迷宮の中のどこかに置く。


「深層に潜ろうとする人が、増えました。トールさんの配信の影響です。……でも、中で事故があった時、逃げ込める場所がありません。だから、撤退路を」

「はあ、なるほど……」

「置き場所も、トールさんに見つけて欲しいんです。変動する迷宮の中で『安全な場所』を選べるのは——ぜんぶ埋めた人だけですから」


 ミナさんが、ちょっと笑った。

 書類を見ると、報酬の欄に見たことない数字が並んでる。でも正直、報酬はどうでもよかった。

 場所なら、考えるまでもない。


「受けます。……ちょうど、いいとこがあるんで」


-----


 翌日。配信をつけて、中層へ。

 背中の荷が、いつもより重い。中継門の片割れ。畳むと棚くらいの大きさになる、マジテックの装置だ。ころぼは、その上を定位置にしたらしい。


「えー、今日はマス埋めじゃなくて。ギルドの依頼で、ワープ装置を置きに行きます」

「ンキュ」


 〔だんちょー〕依頼!?

 〔ねむ〕そろぼっちが仕事してる

 〔名無し〕いつも仕事では?

 〔通りすがり〕公共事業だ

 〔ぽん酢〕落とすなよ、高いぞ


「大丈夫です。筋力だけは、あるんで」


 歩きながら、続ける。


「で、置き場所なんですけど。もっとも安全で、撤退しやすいとこ、って依頼で。……それ、この中層だと、三つしかないんですよ」


 〔だんちょー〕三つ?

 〔名無し〕変動する層に安全な場所なんてあるの?


「あるんです。中層は一層につき、変動が五パターンって言いましたけど。その五個ぜんぶで入れ替わらないマスが、三つだけある」


 だまし船で言えば、あれだ。折っても折られても、根元になる胴のところ。そこだけは、船首にも帆にも関係なく、ずっと変わらない。


「十一層に一つ。十四層に一つ。十九層に一つ。五十枚の地図を、層ごとに重ねたら分かるんですけど、その三マスだけ一回も動いてなかった」


 〔名無し〕は?????

 〔だんちょー〕あの数の地図を重ねて動かないマスを探した??

 〔ねむ〕そのための五十枚だったのか…

 〔名無しがWatching〕考察班、仕事です

 〔通りすがり〕不動点って呼ぼうぜ


 不動点。いい名前だ。もらっておこう。


-----


「で、三つのうち、どれかって話なんですけど」


 地図を画面に出す。三つのマスに、印をつけて。


「十一層のは、縦穴から遠すぎます。八層ぶん歩くことになる。十四層のは、位置はいいんですけど。パターンによっては、まわりの通路が全部細くなる。怪我人を担いで通るには、狭い。十九層のだけ、どのパターンでも縦穴側に道が繋がってるんです。深層から逃げても中層で事故っても、たどり着ける。……だから、ここ」


 〔だんちょー〕完全に理解した(してない)

 〔ねむ〕つまり19層が最強の避難所

 〔ぽん酢〕大したもんだ

 〔名無し〕S級が唸ってる


 十九層。例の、不動のマス。

 着いてみれば、なんてことのない、少し広い通路の角だ。でも、この一角だけ、五つのパターンのどれになっても動かない。

 背中の荷を下ろすと、肩がふっと軽くなった。そこから組み立てにかかる。説明書は、ミナさんに三回読まされた。骨組みを立てて、芯の魔石をはめて、起動の紋に手を当てる。手のひらに魔石の熱がじんわり伝わってきた。


 ぽう、と門が灯った。


 ゴーグルに、ミナさんから連絡が入る。


『ギルド側と、繋がりました。中継門、開通です。……お疲れさまでした、そろぼっちさん』


 〔だんちょー〕開通きたああああ

 〔ねむ〕拍手

 〔名無し〕ギルド公認インフラを置く配信者

 〔通りすがり〕歴史的瞬間では


『それと、そろぼっちさん。登録の書類に、この門の名前が要るんです。設置者が決めていい決まりでして』

「え。名前」


 考えてなかった。名前をつけるのは、苦手だ。


 〔だんちょー〕命名タイムきた

 〔名無し〕そろぼっち門でいいだろ


「それは、やです」


 〔ねむ〕即答

 〔名無し〕じゃあ不動点の上にあるんだし、不動門は

 〔通りすがり〕不動門、いいな


「……不動門。あ、いいですね。動かないんで、そのまんまで」

『では、不動門で登録します』


 ミナさんの声が、ちょっと笑ってた。


 〔名無し〕てかこれ深層にも置けないの?


「あー。深層は、今は無理です」


 一拍おいて、正直に言った。


「まだ、入り口を齧っただけですけど。あそこ、見た範囲はぜんぶ動いてました。動かないマスが見つかったら——その時、また考えます」


 〔名無し〕こわ

 〔ねむ〕見た範囲ぜんぶ動いてるの、こわすぎる

 〔だんちょー〕深層の不動点、新たな攻略目標では

 〔通りすがり〕考察班に燃料が投下された


 振り返ると、ころぼが、さっそく門の台座の上で丸くなってた。あったかいらしい。


「おい、そこ寝床じゃないぞ」

「ンキュ……」


 返事だけして、動かない。

 ……ま、いいか。どのパターンでも動かない場所だし。お前にぴったりかもな。


 〔ねむ〕不動点にころぼ(不動)

 〔だんちょー〕主みたいな顔してる

 〔名無し〕不動門の守り神爆誕


「というわけで、早速くぐって帰りましょうか。ころぼは……なんか大丈夫みたいですね。じゃあね、ころぼ」

「ンキュ〜……」


 不動門をくぐると、光の膜みたいなものが見えた。

 一歩で、街のギルドの脇。ついさっきまで十九層にいたのに、外の光がまぶしい。

 ……便利だ。これから毎回、ここから潜れる。


 〔だんちょー〕通勤路の最適化、再び

 〔ねむ〕コモルの時も言ってた

 〔通りすがり〕この人、地図で世界を縮めていくな


「はい。じゃ、今日はマスを一個も埋めてないんですけど。……なんか、悪くない日でしたね。ではまた〜」


 配信を切って、管理所を出る。外の光がやけに眩しくて、目を細めた。

 埋めた地図が、誰かの撤退路になる。逃げ込む場所に、なる。ずっとひとりで黒いマスを白くしてきただけの作業が、いつのまにか誰かの帰り道になっていた。

 革ローブさんのことを、ちょっとだけ思い出した。先に歩いた誰かの跡が、後から来る人を迷わせない。


 ……俺の五十枚も、そういうものに、なれたんだろうか。

 胸の奥が、灯った門みたいにあたたかかった。

 なれたなら、いい。埋めた甲斐が、あったってもんだ。


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