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今世もぼっちなのでソロでダンジョン全踏破します〜【スキル:孤独】持ちの配信者、ボス部屋も埋めたいので失礼しますね〜  作者: 絹田屋


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第24話 変動するマス


 支度をして、戻ってきた。

 ウロボロス中層の、いちばん奥。底の見えない縦穴。下から、冷たい風が吹き上げてくる。


 金の心配は、なかった。前回の配信の投げ銭もかなり助けにはなったけど。中層の地図五十枚をギルドにぜんぶ登録したら、報酬がまとまって出た。それと、低層から中層まで安全に抜けるルートのメモ。あれが、別格だったらしい。大手の攻略勢が、こぞって買っていったって、ミナさんが言ってた。……俺はただ、いつものメモを付けただけなんだけど。


 おかげで、装備はちゃんと揃えられた。グレードを二つも上げてしまったし、補給も積んだ。ロープも灯りも、予備の予備まで。背負った荷が、いつもより重い。

 その荷の隙間から、ころぼがンキュ、と鳴いて顔を出した。


 こいつは元々、コモル坑道で出会った白い黒ぶちの毛玉だ。短い脚に、黒いつぶらな目。住処はあっちのはずなのに、いつからか俺の行く先々に現れるようになった。


 今朝も中層到着してすぐに荷物確認をしたら、いつのまにか補給袋に収まってた。出てけと言っても、ンキュ、と鳴くだけ。

 置いていこうとしても、気づけばまた潜り込んでる。何度かやって、諦めた。見た目のわりに頑丈みたいだし、危なくなると自分で奥に引っ込む。結局こいつが何の生き物なのかは分からないままだけど、それくらいは、いっしょにいて分かってきた。まあ、いいか。


「えー、今日から深層、行きます。一応、準備してきたんで。……あ、こいつも付いてきてます。ころぼです。勝手に荷物入ってて」

「ンキュ〜!」


 〔ねむ〕ころぼも深層デビュー

 〔だんちょー〕ついてきちゃったのかわいい

 〔名無し〕密航で草

 〔通りすがり〕無事に帰ってきてくれよ


 ころぼを、荷の奥にそっと押し戻した。ンキュ、と不満げな声がする。

 まあ、どうせまた出てくる。

 俺は、足元の縦穴に向き直った。底の見えない、まっくらな穴だ。


「……で。その、深層なんですけど。ここの奥、まだ誰も埋めてないんですよ」


 〔だんちょー〕きたあああ

 〔ねむ〕ついに深層

 〔名無し〕まってた

 〔名無し〕うおおお

 〔通りすがり〕世界で何人目なんだこれ


「で、今日はぽん酢さん……ええと、ロウさんと一緒です。よろしくお願いします」


 隣にぽん酢さん。もちろん、チャット上ではなくリアルでだ。


「同行する。下は、洒落にならん」

「はい。お願いします」


 〔だんちょー〕ぽん酢さん同行きたー

 〔ねむ〕S級斥候のロウさんだ

 〔名無し〕S級の戦い見られるのすごくね?

 〔名無し〕深層で罠師タッグとか勝ち確やん

 〔通りすがり〕公式コラボありがとうございます


 降りる前に、ぽん酢さんが縁から何かを二つ三つ、暗がりの奥へ放った。


「番人の気を引く。音が鳴ってるうちに、降りるぞ」


 例の、アイアンゴーレム。底の狙撃手だ。この人は、囮の使い方まで手慣れてる。

 縦穴にロープを通して、一気に降りていく。

 風の音が、だんだん変わっていく。重く低くなる。遠くで、岩弾が囮を潰す音が、二度響いた。

 しばらくして、底に足がついた。

 顔を上げる。


 ……うわ。

 目の前が、ぐにゃぐにゃ動いてる。


-----


 中層の変動は、たまにだった。ぱた、と畳まれて、入れ替わる。だまし船の、あれ。

 でも、ここは違う。

 壁がずっと動いてる。通路が伸びて、縮んで、別の通路に化ける。一つじゃない。あっちもこっちも、同時にだ。


 これは、だまし船じゃない。例えるなら、ルービックキューブ。


 面ごと、ごっそり回ってる。しかも一回転が、隣の層まで巻き込んでる気がする。壁の色や質感が明らかに異なるマスがまばらに見える。


 中層でやった、層ごとに分けて覚えるやり方が、ここでは通用しない。

 埋めたそばから、地図が崩れる。さっきのマスが、もう違う場所になってる。


 〔名無し〕地図ぐちゃぐちゃで草

 〔だんちょー〕えこれどうやって埋めんの

 〔ねむ〕見てるだけで酔いそう

 〔通りすがり〕人類には早すぎる


 ……最高じゃん。

 崩れるってことは、変わり方がある。ただ、覚え切れる数じゃない。なら、覚えなくていい。回るその瞬間を、目で追えばいい。

 口元がゆるむ。たぶん、笑ってる。


「いやー、これは埋めがいがありますね」


 〔だんちょー〕楽しそうで草

 〔名無し〕情緒

 〔名無し〕この状況で笑うなwww


 ふと、視聴者数が目に入った。

 桁がまた増えてる。

 いつもの十倍、いや、もっとだ。コメントがどっと押し寄せて、もう一個ずつ読めない。


 〔名無し〕は

 〔名無し〕www

 〔名無し〕↑

 〔名無しがWatching〕やば

 〔名無し〕すご

 〔通りすがり〕初見です

 〔名無し〕草草草


 文字が、ほとんど線になってる。何が書いてあるのか、追いつかない。

 まあ、いい。いつも通り、埋めるだけだ。


-----


 ぽん酢さんが、ふっと足を止めた。


「……増えたな」

「えっ、同接がですか」

「客だよ。あんたの後ろ、ずっと誰かいる」


 言われて振り返る。誰もいない。でも、ぽん酢さんの目は、暗がりの一点を見ていた。


「軍の斥候。あっちの岩陰に、企業の観測機。他国の冒険者も何人か。みんな、あんたの地図を横で写してる」


 ええと。

 軍とか、企業とか。またその話か、というより。


「……俺、何か注意した方がいいんですか?」


 ぽん酢さんは、少し考えて、首を振った。


「いや。あんたは、いつも通りでいい。気にすんのは、こっちの仕事だ」

「……分かりました。俺も、ぽん酢さんの仕事の邪魔はしないようにします」


 俺の見てるのは、目の前の空白のマスだ。


-----


 ぽん酢さんが、低く付け足した。


「いいか。ここの地図はな。一時間で腐る」

「腐る?」

「変動が速すぎる。あんたが今描いた図も、一時間後にはもう使えん。昨日のスクショなんざ、ただの紙だ」


 〔ねむ〕しれっと「あんた」呼びされてるそろぼっち

 〔名無し〕ロウさんのあんた呼び、わたしも言われたい

 〔名無し〕分かる

 〔名無し〕そろぼっちがずっと「ぽん酢さん」呼びなのじわる

 〔だんちょー〕急に治安乱れて草

 〔通りすがり〕みんなロウさん好きすぎだろ


 なるほど、と思った。それはそうだ。さっき埋めたとこ、もう変わってるし。


「だからな。"今この瞬間、ここがどうなってるか"を描けるのは——」


 ぽん酢さんが、俺を指でさした。


「世界で、あんた一人だ。だから、みんな張りつく」


 よく分かんないけど。たぶん、褒められてる。


「ええと、ありがとうございます?」


 〔ねむ〕さらっとすごいこと言われてる

 〔だんちょー〕世界に一人て

 〔名無し〕本人の温度www

 〔通りすがり〕この人それ分かってんのかな


-----


 歩き出す。背中で、ころぼがンキュ、と鳴いた。

 壁がまた書き換わる。埋めたばかりのマスが、ひとつ、すうっと消えた。

 

 消えたなら、また埋めればいい。

 ゆっくり、次のマスに足を踏み出した。


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