第23話 地図、タダで出してるんで
装備を強化に出した。戻ってくるまで、何日かかかるらしい。それまでは、深いところには潜れない。
だから最近は、ウロボロス大迷宮の浅い階を、のんびり埋め直してる。マスとしては埋めてあっても、隠し部屋までは探してない。配信も、いつも通りつけていた。
……いや、いつも通り、でもないのかもしれない。
最近、コメントの流れが前より速い。知らない名前が、どんどん増えている。
「えーと。今日は、のんびりです。コモル旧坑道経由で、ウロボロスの浅いとこ埋め直してます。泊まりになりますので、のんびり見てもらえれば……って。……なんか、人、増えました?」
〔だんちょー〕そりゃ増えるだろ
〔ねむ〕あちこちで名前見るよ
〔名無し〕例の地図の人でしょ?来た
〔名無し〕ようやく本人つかまえた
〔名無しがWatching〕7階で世話になった地図ってここですか
〔名無し〕初見です噂の人見にきました
〔名無し〕いつも地図ありがとう助かってる
〔通りすがり〕思ったより静かな配信で草
〔名無し〕作業用に常駐しにきた
〔名無し〕この淡々としたの逆に癖になる
「あー。……見てくれるの、ありがたいですけど。ちょっと、そわそわしますね」
〔ワンモア〕そろぼっちさーん、こないだはどうもっす
〔だんちょー〕ワンモアだ!?
〔名無し〕は?ワンモア!?
〔名無し〕大手降臨うおおおお
〔ワンモア民〕大将ーーー!
〔名無し〕なんで本人おるんだよ
〔ワンモア民〕うちの大将がすんません、ちょっと通りますよ
〔名無し〕同接跳ねてて草
〔通りすがり〕コラボ以来か、これは見る
〔名無し〕ワンモアきたなら残るわ
「あ、ワンモアさん。この前のあれ、すごかったです。……何回も死んでてハラハラします、ほんとに」
〔ワンモア〕死ぬのは趣味兼仕事なんで♡ そろぼっちさんの地図、いつもガチで助かってるっす。装備戻ったら、こんど深層いっしょに行きましょ
「……はは、お手柔らかに」
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〔名無し〕てかその地図、タダで全部公開してるけど儲かるの?
〔通りすがり〕高く売れるだろ普通に
儲かる、って言われても、ぴんとこない。配信で出してるぶんは、タダだ。隠す理由もないし、見たい人が見ればいい。それだけのことだと思ってた。
「あー。……配信のは、タダなんですけど」
少し考えて、付け足す。
「ギルドに登録するやつには、ちょっとメモ付けてて。危ない床とか、崩れやすい壁とか。そっちは、買い取ってもらえるんで。……まあ、食うぶんくらいは」
〔ねむ〕メモ代で生きてる
〔だんちょー〕世界一やすい戦略物資
〔名無し〕商売っ気なさすぎて心配になる
〔通りすがり〕もう見てられん、こっちが払う
……と思ったら。
ぴこん、ぴこん、ぴこん。投げ銭の音が、続けざまに鳴りだした。いつもの、比じゃない。
〔だんちょー〕メモ代だ、黙って受け取れ
〔名無し〕タダより高いものを払わせてくれ
〔ワンモア民〕大将の分も投げとくっす
〔ねむ〕いつも地図ありがとう
〔名無し〕この人に稼がせる会、本日発足
〔通りすがり〕投げ銭フィーバーで草
「え、あの。待って。……こんな、いいですよ。埋めてるだけなんで」
止めようとしても、音は鳴りやまない。俺はちょっと困って、それから、小さく頭を下げた。
損、か。よく言われる。でも、地図で損した気になったことは、今まで一度もない。埋めた分だけ、ちゃんと形になって返ってくる。だから大丈夫だと思う。
ただ、ひとつだけ。最近、気になることがある。
問い合わせっていうのが、ギルド経由で、たまに来るようになった。俺の地図をまとめて買い取れないか、とか。どこそこの国の、なんとか機関から、とか。しかも、ソルナだけじゃないらしい。ミナさんが、困った顔で伝えてくる。
……よく分からない。俺は、ただ埋めてるだけなのに。
「まあ、難しいことは、ミナさんに任せてます。俺は、埋めるだけなんで」
〔名無し〕マッパー一筋すぎる
〔ねむ〕そういうとこが好きだよ
〔名無しがWatching〕この鈍感さが、いつか心配ではある
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「ンキュ!」
「お、この声は」
コモルを寝ぐらにしてる謎のモンスター。そいつが走ってきて、俺の肩まで駆け上がってきた。
〔だんちょー〕ころぼ!!!
〔名無し〕ころぼだああああぁぁ
〔ねむ〕癒しきた
〔名無しがWatching〕尊死
「久しぶりだな。……あれ、なんかまた更にでかくなったか?」
肩の上で、ころぼがンキュ、と鳴いた。前よりずっしり重い。手持ちの茹で肉を分けてやる。
「お前、よく食うなあ。……重いぞ」
「ンキュ!」
「聞いちゃいないな」
〔だんちょー〕ころぼ元気そうでなにより
〔ねむ〕無理はしないでね、二人とも
二人とも、か。ころぼと、俺。
いつのまにか一人じゃなくなってる気がして、ちょっと、くすぐったい。
ウロボロス大迷宮の浅い層でも、油断はできない。それでもずいぶん余裕を持って回れるようになってきた。
埋めて、モンスターと戦って、変動を眺めて、埋めて、ギミックを見つけて……を繰り返す。
「ンキュ〜」
「……お前、そういえば勝手についてきてるのはいいけど、これ俺がまた、コモルまで送らなきゃならないんじゃないの」
「ンキュ!」
「自分で歩きなさいよ」
〔だんちょー〕かわいいねぇ
〔名無し〕足にされるそろぼっちwww
〔ねむ〕掛け合い最高
〔名無しがWatching〕賢いwww
歩いて埋めて、安全が確認できてる小部屋へと入る。ここなら変動が無いはずだ。
「じゃあ、ちょっと早いけど、そろそろ寝床確保していきますね。一旦ここらで区切ります」
〔だんちょー〕おやすみー
〔ねむ〕まだ見るよ〜
〔ワンモア〕次は下で会いましょ!
〔通りすがり〕おつかれ
配信を区切って寝床の準備。だんだんとチャットもいつも通り静かになる。食事をしながら、寝袋を用意しながら、考えるのはウロボロスの深層のことばかりだった。
「ンキュ」
「ん。おやすみ、ころぼ」
装備が強化されれば、また、いちばん下へ行ける。
……まだ、うんと空白だ。それだけが、今は楽しみだった。




