第20話 今日は見る専なんで
今日は、なんだか、体調がすぐれない。
熱がある、ってほどじゃない。ただ、朝から頭がぼんやりして、体が重い。こういうの、あんまりないんだけど。
潜って、途中でぼうっとするのは危ない。だから、今日はお休みにした。埋めない一日なんて、どうしていいか分からない。
ひとまず、連携してるSNSにポストする。
『体調が優れないので、大事をとって今日はダンジョン配信お休みします。ゆっくりさせてもらいますね〜』
たまに待機室にいる人が居るので、お休み連絡はしておいたほうがいいだろう。いくつか常連メンバーからコメントが付いた。リアクションのみでお礼を告げて、ベッドに寝転ぶ。
なんとなくゴーグルをつけた。でも、配信はつけない。喋る元気も出ない感じだった。
そういえば、と思い出す。このゴーグルは、人の配信を見ることもできる。メニューを切り替えて、誰かの配信を、ぼんやり眺めてみることにした。人の配信を見るなんて、初めてかもしれない。
いくつか流して、手が止まった。
やたら、うるさい配信があった。
〔ワンモア民〕大将ーーー!!!
〔名無し〕今日も元気だな
〔ワンモア民〕もう何回死んだんや
〔ワンモア民〕o7
〔名無し〕o7
ワンモアさんだ。あの、残機持ちの。
画面の中で、本人はいつも通り、げらげら笑ってる。今日は潜りながら、雑談してるみたいだった。たぶん、隣町の小遣い稼ぎできるダンジョンだ。
「――でね、そろぼっちさんの話なんすけど」
……え。
急に、俺の名前が出て、びくっとした。
〔ワンモア民〕出た推し語り
〔名無し〕本日三回目
〔ワンモア民〕大将そろぼっち好きすぎだろ
「好きなんすよマジで、あの人の配信。俺にも、癒されたい瞬間ってあるわけよ。切り抜きの編集してる時の作業用? あれ、ぜんぶそろぼっちさんの動画にしてっからね」
俺の配信が、他の配信者の、作業用の動画になってる。
……そんなふうに使われてるとは、思ってもみなくて。ちょっと、不思議な気持ちだった。
「俺の配信、毎回だれかっていうか、俺が死ぬわけ。それが売りだし、楽しいんすけど。……その真逆の、誰も死なない画がずーっと流れてんの、それはそれで楽しいな〜って。真逆の動画からしか得られない養分って、あるんすよ〜」
〔ワンモア民〕大将も養生施設の民だったの草
〔名無し〕真逆の民が推し合っててなんかいい
「そもそもさ。俺が死にゲーなんてできんの、スキルの『残機』のおかげなわけ。何回死んでも、ストックがあるかぎり戻ってこれる。……これ、長いことタネは秘密にしてたのよ。手品って、明かさないほうが面白いっしょ?」
〔ワンモア民〕仕組み謎だったもんな
〔名無し〕どうやって死にまくってんのかと
「なのに、こないだ。そろぼっちさんに、あっさりバレちゃってさぁ。俺の死体、ウロボロスで拾われて。ねぇ、ひどくない?w」
……拾った、っていうか。埋めてたら、あった、だけなんだけど。
「あ、で。そのバレたときの話が、本題」
ワンモアさんが、急に、カメラへ顔を寄せた。声のトーンが、ちょっとだけ変わる。
「そんとき、あの人が、俺の死体に手ぇ合わせてくれたんすよ」
覚えてる。
動かなくなった人がいたから、手を合わせた。ワンモアさんだと最初分からなかったけど。
「みんな『ワンモアまた死んでるwww』で終わり。当然だよ? そもそも、視聴者と一緒に『はい死んだーwwww』がしたいのよ、俺は」
でも、と、ワンモアさんは続けた。
「俺、生きてんのよ。ここに。ぴんぴんしてんの。……なのに、あの人は、死んだほうの俺にまでちゃんと丁寧なわけ。もう戻ってこない、使い捨てた一機に。……それ、まじ良くない? その時の配信、俺オフライン再生できるようにダウンロードしてっからねw」
どきっ、とした。
……見られてたのか。俺の、あれ。
「俺さ、自分の死、いちいち数えてないんだよね。数えたって、別に何か変わるわけでもねーし。……なんなら金欠のときは、あえて死ぬわけ。その死体から装備剥いで、売っぱらってたことあんのよw でも、そんな俺の分まで。あの人だけ、ちゃんと一回ずつ拾ってくれてる気がすんの。……なんかそれが、さ」
ワンモアさんは、言葉を探すみたいに、そこで止まった。
それから、いつもの、へらっとした顔に戻った。
「まぁ、だから! そろぼっちさんマジでファンよ、俺。戦友的な!」
〔ワンモア民〕急に照れんな大将
〔名無し〕てか今さらだけど「自分の死体から装備剥いで売ってた」って聞こえたんだが
〔ワンモア民〕o7
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なんて言えばいいのか、分からなかった。
でも、気づいたら、ワンモアさんの配信にコメントを打ちこんでた。
こういうのは、声より文字のほうが、まだましだから。
〔そろぼっち〕あの、お邪魔してます
ワンモアさんの配信のチャットが、一瞬、止まった。
それから、爆発した。
〔名無し〕は
〔ワンモア民〕本人!?
〔名無し〕そろぼっち降臨!?
〔ワンモア民〕大将、見られてたぞwww
「え。えっ、そろぼっちさん!? マジ!? 見てた!?!?」
ワンモアさんが、画面の中で、めちゃくちゃ慌ててる。ちょっと、面白い。
〔そろぼっち〕手を合わせるの、変だったらやめましょうか…?
「やめないで!!!」
即答だった。
それから、ワンモアさんは少し真面目な声で、付け足した。
「……やめないで。あれ、俺、けっこう嬉しかったんで。ほんとに」
俺は、少し考えて、また文字を打った。うまくは、言えないけど。
〔そろぼっち〕ワンモアさんの戦い方は、分かってるんですけど。やっぱり、俺、そういうのまだ慣れなくて
〔そろぼっち〕生きてる人だったら、できる限り助けます。死んでたら、マッピングとギルドへの報告はします。
〔そろぼっち〕またワンモアさんが死んでたら、手は合わせますね
「……あー、もう。そういうとこよ、そういうとこ」
ワンモアさんが、顔を、くしゃっとさせた。笑ってるような、そうじゃないような顔で。
〔ワンモア民〕大将泣いてる?
〔ワンモア民〕泣いてないが泣いてる
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「よし、決めた」
ワンモアさんが、ぐいっと、袖で目元を拭った。
「そろぼっちさん、いつか俺と、深いとこ行きましょ。俺が死んで露払いするから、あんたは後ろで、地図描いててよ。最強のコンビじゃない?」
深いとこ。……ウロボロス大迷宮の深層とか、だろうか。
俺は、あそこのまだまっくらな未踏破を、ちょっと想像した。
〔そろぼっち〕できれば、死なないで露払いできませんか
「それはムリ! 死ぬのだけは、得意なんで!」
〔ワンモア民〕威張るな
〔名無し〕そこ胸張るとこじゃないだろwwwwww
〔ワンモア民〕大将の唯一の特技が"死"
なんだか、変な人だ。
でも、嫌いじゃ、なかった。
この人は、いつか本気で、誰も戻れないような場所に笑いながら行く。その時に俺の地図が、ちょっとでも役に立つなら。……悪くない、かもしれない。
ゴーグルを、外した。
埋める場所は、まだ切れたままだ。
でも今日は、埋めた日と同じくらい、悪くない一日だった気がした。
……人の配信を見るのも、たまには、いいのかもしれない。




