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今世もぼっちなのでソロでダンジョン全踏破します〜【スキル:孤独】持ちの配信者、ボス部屋も埋めたいので失礼しますね〜  作者: 絹田屋


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第02話 よし、マス増えた


「はいどーも、そろぼっちでーす。今日もラーデン、潜っていきまーす」


 今日の目当ては、決まってる。昨日、地下三階の奥で見つけた、音の違う壁。あそこを、崩す。


 〔だんちょー〕お、昨日の壁か

 〔ねむ〕気になってた


「気になりますよね。俺も、昨日からずっと、あの壁のことばっか考えてて」


 正直に言うと、ゆうべはあんまり寝てない。壁の向こうの真っ黒なマスを考えてたら、目が冴えてしまった。


-----


 地下三階へ降りて、いつもの通路を進む。

 ……の前に。

 俺はその辺の壁を、片っ端から叩いていく。こんこん、こんこん。音の響きで、見落としたギミックがないかを確認する作業だ。


 〔だんちょー〕始まった、壁叩きタイム

 〔ねむ〕日課


 全マス埋めるってことは、見えてないところも埋めるってことだ。隠された罠だって埋めたい。壁の向こうにもし空間があるなら、そこにもマスがある。だから、叩く。全部。

 通路のいちばん奥、行き止まりの壁。こん——ごん。


「……あ、ここ」


 軽く押すと、壁がずずっと横にずれた。奥に、小さな部屋。埃をかぶった石の台座の上で、なにかがにぶく光ってる。


 〔だんちょー〕は!? 新しい隠し部屋!?

 〔ねむ〕宝箱ある!!

 〔通りすがり〕伝説の秘宝が眠ってたり?!!!

 〔名無し〕すごい引き当てたな!!


 俺は部屋に踏み込んで、まず壁沿いをぐるっと一周した。歩いた分だけ、方眼がぽぽっと埋まっていく。角まで踏んで、部屋の形が、ぴたりと閉じた。狭い部屋だったとしても満足度が高い。


「よし、マス増えた」


 〔だんちょー〕そこ!?!?


「え、なんかありました?」


 〔ねむ〕台座の上!!!


「ああ、これ。……たぶん、そこそこ良い指輪ですね。あとで売って、路銀にします」


 〔名無し〕装備せず売ること決定済みなの草


「あ〜……。職業柄、あんまり必要ないんですよね」


 秘宝かどうかは、知らない。売れれば、それでいい。それより、マスが増えた。そっちのほうが、大きい。


-----


 〔通りすがり〕てかなんでそんな隠し部屋わかるの?

 〔だんちょー〕それな。毎回ピンポイントすぎる


 いい質問だ。けど、答えはたぶん、つまんない。


「……一人だと、よく聞こえるんですよ」


 壁を叩いたときの、音の違い。床のわずかな傾き。空気のながれ。そういう細かいのは、まわりに誰もいないときの方が、ずっとよく分かる。

 誰かと組むと、その人がどこにいて何をしてて、っていうのに頭の半分を持っていかれる。そうなると、壁の音みたいな細かいのは、もう聞こえない。

 だから俺は、ずっと一人でやってる。寂しいとかじゃなくて、一人のほうが、ちゃんと見えるし聞こえる。それだけのことだ。


 〔ねむ〕わかる

 〔だんちょー〕いい話なのか? いい話なんだろうな


「いや、いい話じゃないです。ただのぼっちなんで」


 軽く言って、俺はまた歩きだす。


-----


 そして、いよいよ、あの壁の前に立った。

 昨日、音が違った場所。改めて叩く。こん、こん——ごん。やっぱり、奥が空いてる。


「……はい。じゃあ、崩します」


 〔だんちょー〕おお

 〔ねむ〕ドキドキ


 体重をかけて、目一杯の力をかけて肩で押す。足で踏ん張って全体重を掛けて押し続けると、固かった壁がある瞬間、ごそっと内側に崩れた。土埃が、ぶわっと舞う。


 その向こうに——通路が、あった。


 ラーデンの小綺麗な石壁とは、全然ちがう。ごつごつした、古い岩肌。木の支柱。錆びたレール。ずっと昔に誰かが掘って、そのまま忘れられた坑道だ。

 そして、視界の地図。壁の向こうが、どこまでも真っ黒。未踏破。一マスも、埋まってない。


「…………」


 声が、出なかった。こんなに広い空白、初めて見た。


 〔だんちょー〕え、なにここ

 〔通りすがり〕ラーデンにこんな道あったっけ?

 〔ねむ〕地図にない……

 〔名無し〕鳥肌立った

 〔名無しがWatching〕歴史の目撃者になってる


「……ないですね。ギルドの地図にも、たぶん載ってない」


 言いながら、崩れた壁の断面を、ちらっと見た。……ん。石の組み方が、妙に丁寧だ。自然に塞がったんじゃなくて、誰かが、内側を隠すみたいに積んだような。


 ……まあ、考えても分からないか。昔の人の事情なんて。


 誰も知らない。誰も歩いてない。まっさらな、真っ黒。

 俺は今、たぶんすごい顔で笑ってる。配信に顔は映らないけど。


 ……最高だ。


-----


「……ちょっと一回、深呼吸していいですか」


 〔だんちょー〕どうぞどうぞ

 〔ねむ〕落ち着いて


 すうっと息を吸って、吐く。それでも、指先が、かすかに震えてた。


「……こんなの、久々で。すみません、ちょっと震えてます」


 誰も知らない坑道。一マスも埋まってない、まっさらな真っ黒。こんな空白に出会えるのは、何年に一度あるかどうかだ。


 〔だんちょー〕いい震えだ

 〔ねむ〕一緒にドキドキしてる


「……はい。じゃあ、行きます。せっかくなんで、皆さんも見てってください」


 俺はリングの地図を確かめて、一歩、その暗い坑道へ踏み込んだ。

 足音が、古い岩肌に、こつんと響く。視界の隅で、真っ黒だった方眼が、ひとつぽっと色づいた。


「……お。一マス、埋まった」


 そこから先は、夢中だった。

 崩れかけた支柱をくぐり、錆びたレールをたどって、奥へ奥へ。一歩進むたびに、方眼が、ひとつまたひとつと埋まっていく。やがて通路が、ぐっと広い空間に出た。

 太い坑道が、左右に伸びている。さっきまでの細い連絡路とは、規模が違う。これが、坑道の本線。ここに、合流するのか。


 〔だんちょー〕うわ、まだ続くのこれ

 〔ねむ〕坑道、でかい……


「……ですね。これ、相当でかいやつだ」


 左も、右も、どこまでも真っ黒。一日やそこらじゃ、とても埋まらない。


 ……うん。今日は、いったん、ここまでにしよう。区切りとしては、ちょうどいい。本線に合流できたんだ。あとは、ここを起点に、少しずつ埋めていけばいい。


「すみません、今日はここで引き上げます。……続きは、また明日」


 〔だんちょー〕お疲れ! とんでもない回だった

 〔ねむ〕歴史的瞬間に立ち会った

 〔名無し〕このアーカイブ伝説になるわ


 まだまだ、ある。とんでもなく、ある。

 それが、たまらなく、嬉しい。

 俺は合流地点に小さく目印をつけて、来た道を引き返した。明日も、明後日も、その先も。当分、楽しみは尽きそうにない。


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