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今世もぼっちなのでソロでダンジョン全踏破します〜【スキル:孤独】持ちの配信者、ボス部屋も埋めたいので失礼しますね〜  作者: 絹田屋


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第16話 ぽん酢さん、ですよね?


 ウロボロス大迷宮、8層。その南側の罠が多い区画だ。配信をつけて、慎重に埋めていく。

 今日は、ぽん酢さんが静かだった。

 いつもなら、罠の手前でぴたっと警告をくれる人。だいたい、俺が気づくのと同じか、わずかに早い。今日は、まだ一度もチャットに出てない。


 まあ、そんな日もある。気にせず、進む。


 〔だんちょー〕今日も罠多いね

 〔ねむ〕そろぼっちの罠回避ほんと好き

 〔名無し〕てかぽん酢さん今日いなくない?

 〔通りすがり〕いつも罠アドバイスくれる人だっけ


 ふと気づく。

 少し先に、人がいた。

 ひとり。壁際で、じっとしてる。こんな区画でソロ? と訝しんだ。いやまぁ、俺もソロなんだけど。罠と変動で身動きが取れなくなった人かもしれない。


「あの、大丈夫ですか?」


 声をかけつつ次の一歩を踏み出そうとした、その時。


「そこ。右の床」


 その声に、とっさに足を引いた。

 その瞬間、右の床がすとんと抜けた。ぎりぎりだった。


「落とし穴ではなくピット……。下の層に落とされるやつだ。手動で埋めとけ」


 ……なんだろう、聞き覚えがある。言い回しというか、間合いというか。いつもチャットで俺を止めてくれる、あの感じ。


 声のほうを見る。

 身軽な装備の、男の人。年はたぶん上。背は同じくらいですこし細身だ。前髪がかかった鋭い目だけが、やけに静かだった。


 俺のチャット欄。ぽん酢さんは、まだ出てない。


「あの」


 口を開いた。素なのに、なぜかすっと言えた。


「ぽん酢さん、ですか?」


 男の人が固まった。

 たぶん、バレると思わなかったんだろう。


「……まいったな。言うんじゃなかった」


 観念したみたいに、その人は言った。


「ロウ、だ。ダンジョン攻略を中心に、斥候をやってる」


 チャットが、一気に爆発した。流れが速すぎて、もう文字が、目で追えない速さになってる。


 〔だんちょー〕ロウ!?

 〔ねむ〕生還のロウ!?!?

 〔名無し〕は????

 〔名無し〕S級斥候の!?

 〔名無し〕嘘だろ

 〔名無し〕wwwwwwww

 〔名無し〕死者ゼロの伝説やんけ

 〔通りすがり〕ぽん酢の正体が生還のロウwwwww

 〔名無し〕情報量


 すごい人、らしい。みんなが騒いでる。

 でも、俺はぴんとこなかった。


「へぇ……? そうなんですね」


 それしか、出てこなかった。

 ロウさんが、ぷっと噴き出した。


「『へえ』か。……いいな、それ」


 それから、ぽつぽつ、話してくれた。


「俺の仕事はな。一歩間違えたら、死ぬ。生きて還るために、ずっと罠を見続けてきた。気を抜いたことが、一度もない」


 それってすごい過酷なことなんじゃないか。伏した目の下に、うっすらと隈があるのが見えた。


「あんたの配信を、見つけてな。マスを埋めるしか考えてない。誰も死なない。危ない進み方をしない。気を抜いて見ていられる。……唯一の、時間なんだ。まぁ、端的に言えば。ファンだよ」


 〔だんちょー〕は????

 〔だんちょー〕何がにわかだテメェwwwww

 〔ねむ〕年単位でにわかのフリしてた人

 〔名無し〕生還のロウが養生施設の常連www

 〔通りすがり〕伝説の斥候がガチ恋勢並みで草

 〔名無しがWatching〕ぽん酢呼びが急に恐れ多い


 罠の警告をくれてたのは。たぶん、癖だ。見えちゃうから、つい言っちゃう。そういう人なんだ。


 なんとなく、分かった。

 ぽん酢さんは——ロウさんは、俺と似てるのかもしれない。

 人の輪が、しんどくて。画面のちょうどいい距離が楽で。


 ただ、ちょっとだけ変な感じもした。

 ずっと文字だった人に、顔がついた。声も、体もある。

 いつもの気楽な「ぽん酢さん」と、目の前のこの人が、すぐには重ならない。


 でも。

 似てるなら——もしかして、この人となら。

 俺は、思い切って言ってみた。


「あの。ぽん酢さんさえ、よければ。たまに、一緒に探索しませんか」


 ロウさんが、目を見開いた。


「俺のスキル、孤独って知ってますよね? けど、ごく少数の、息が合う人ならハマるらしくて。……まあ、ちゃんと確かめたことはないんですけど」


 言いながら、自分でも驚いてた。人を誘うなんて、初めてだ。


「だから、助言とかもらえたら。勉強、させてほしいです」


 ロウさんが、しばらく黙って。

 それから、ふっと口元を緩めた。


「……変なやつだな、あんた。みんな、俺を避けるか利用するかなのに」

「そう、なんですか?」

「……いいぜ。気が向いたら。罠だけは、見ててやる」


 〔だんちょー〕えっ「いいぜ」!?

 〔ねむ〕生還のロウがそろぼっちと組むの!?

 〔名無し〕歴史的瞬間に立ち会ってるんだが

 〔通りすがり〕養生施設からまさかの伝説タッグ

 〔名無しがWatching〕推しが推しに惚れられてて情緒が忙しい


-----


 ロウさんが立ち上がった。


「今日はもう行く。気が向いたら、また顔出す。画面でも、こっちでも」

「はい、ありがとうございました」


 さっと離れていく。気配が、遠くなる。

 ……うん。それくらいの距離が、ちょうどいい。

 俺は、また壁に手を当てた。

 ふっと、チャットにあの名前が浮かんだ。もう、丁寧な猫かぶりはしていなかった。


 〔ぽん酢〕さっきのピット、左角にもう一個あるぞ

 〔だんちょー〕敬語どこ行ったテメェwww

 〔ねむ〕素のほうが百倍こわい


 ……戻ってきた。


「ありがとうございます、ぽん酢さん」


 言葉が少なくてもやり取りできる人がそばにいるのは、悪くない。やっぱり、ロウさんというよりも、ぽん酢さんと呼ぶ方がしっくりくる。


 俺は、まだまだ進める気がした。


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