第15話 スポンサーって何ですか
配信を切って、ギルドに寄った。装備を路銀に換えるためだ。
いつもの買い取りカウンター。財布は相変わらずやや寂しい。装備のメンテもぼちぼちしてるので、金に余裕はあんまりない。埋められれば、それでいいんだけど。
「トールさん。ちょうどよかった」
ミナさんが受付から手招きした。
「あの。トールさんに、面会希望の連絡が来てて。……アウレリアの、事務所から」
「事務所?」
「配信の、大手事務所です。たぶん、スポンサーの話かと」
スポンサー。
「スポンサー……って、何ですか?」
ミナさんが苦笑いした。
「お金を出して、応援してくれる企業のことです。……知らずに、ここまで来たんですか」
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数日後。ギルドの応接室に俺はいた。配信は切ってある。
向かいに座ったのは、ぴしっとしたスーツの女の人。アウレリアの事務所の人らしい。名刺をすっと出してくる。
「はじめまして。リーザと申します。そろぼっちさんの、大ファンで」
そこからは、立て板に水だった。
登録者の伸び。再生数。広告単価。クロスプラットフォーム展開。……半分も、分からない。
「単刀直入に。うちと、マネジメント契約を。今のスタイルは、そのままで構いません。案件やグッズ、収益化はこちらで回します。機材も、最新のを用意します」
マネジメント。案件。よく分からない単語が、次々に滑っていく。とりあえず、頷いておいた。
「お顔を拝見して、確信しました。素朴で愚直な配信が、魅力的で。華ではなく、落ち着きがある。もし顔出しに踏み切れば、男女ともに一気に取れますよ。……まあ、そこは追々で」
顔。そういえば、この人は俺の素顔を見てる。配信じゃ、絶対に映さないやつを。
「そして、肝はやっぱり地図です。あなたのウロボロスの地図は、変動を追える唯一のもの。本来なら、とんでもない値がつく情報です。これを、うちのプラットフォームに集約させてください」
お金に変える。集約する。
……うちのプラットフォーム、か。
そういえば、アウレリアってのは、ひとつの国じゃない。いくつもの会社が寄り集まった、でっかい企業連合だ。〝アウレリア連邦企業連合〟なんて、大層な名前で呼ばれてる。国みたいに聞こえるけど、中身は企業の集まり。……で、俺がいつも配信してるこの土台も、元はそこが握ってる。世界中の配信の、大半がそうだ。みんなが当たり前に使ってるから、意識したこともなかったけど。
界隈のことは、さっぱりだ。でも、地図と配信のことなら、分かる。
「今のスタイルのまま、って言いましたけど。それって……俺の地図を、アウレリアさんにだけ渡すってことですよね?」
「鋭いですね。そこだけは、独占でお願いしたくて」
「じゃあ、配信で地図を埋めながら歩くのも。……できなくなります?」
リーザさんが、一瞬言葉に詰まった。
「……無料で全部流されると、さすがに商品にならないので。配信の見せ方は、一緒に調整しましょう」
「はあ」
口では、それしか言えない。でも、引っかかりだけは、残った。
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話を整理すると、こうだ。
金は出る。今の投げ銭が、ぜんぶ束になっても届かない額。機材も最新になる。
でも、その代わり。
顔を出す。配信の時間を決められる。コラボを入れる。そして、地図はアウレリアにだけ。もう、ただでは流せない。
いちばん引っかかるのは、そこだった。
俺の配信は、ただマスを埋めてるだけだ。それを、たまたま誰かが見てる。地図は、勝手に画面に映ってるだけ。
それに鍵をかけたら、あの配信はたぶん、なくなる。
金は欲しい。正直、欲しい。路銀があれば、もっと遠くまで埋めにいける。
……でも。
「あの……ですね」
俺はたどたどしく口を開いた。素だと、ほんと上手く喋れない。
「お金は、すごくありがたいです。でも」
「でも?」
「……マップを埋めることが、生きがいみたいなものなので。せっかくのお話ですが、お断りさせてください」
リーザさんが固まった。
たぶん、断られると思ってなかったんだろう。
「……本当に、よろしいんですか。これだけの価値を、タダで配り続けるのは。正直、もったいないですよ」
「はい。それが、好きなんで」
リーザさんはしばらく俺を見て——それから、ふっと笑った。
「……名刺は、置いていきます。気が変わったら。それか、こっちがあなたのやり方に合わせる日が来たら」
よく分からなかった。とりあえず、頭を下げておいた。
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その日の夜。なんとなく、雑談配信をつけた。
昼の話をぽろっとした。スポンサーの話が来て、断ったこと。
「まあ、そんな感じで。今まで通り、ゆるくやります。地図は、いつも通り配信で出しながら進みますし。埋まったらギルドに登録して、マッパーとして報酬もらうんで」
〔だんちょー〕えっ大手の話断ったの!?
〔名無し〕は? 金もらえばよくない?
〔ねむ〕そろぼっちらしすぎる
〔名無し〕顔出し拒否は分かるけど独占の何がダメなん
〔通りすがり〕綺麗事じゃ食ってけんぞ
〔名無し〕↑その地図タダだからここまで伸びたんだが
〔だんちょー〕養生施設を守れ
〔名無し〕投げ銭で支えるわ
ぴこん、ぴこん、と投げ銭の音が鳴り始めた。いつもより、ずっと多い。
……あ。
なんか、じんときた。
顔も知らない。名前も、ハンドルしか知らない。
でも、この人たちが——たぶん、俺のスポンサーだ。
「……どうも。じゃあ、明日からも続きいきますね」
今日も埋めにいく。タダで。好きなように。




