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戦場からこんにちは Side.B  作者: Aa_おにぎり
三章 君のしんいは?

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Cace.36

「…」


そして帰っていくタバレを見送ると、ヘディはそのまま歩いて街を歩き、時折後ろを確認しながら彼女は街の一角にあった公衆電話で電話をかける。


「…あぁ、もしもし?ヘディです」


彼女はそこで先ほど訪れたタバレのことを伝える。


「ええ、私のところにタバレ・ガボリオが来たの。ええ、私が外人部隊にいたことも彼は言ってた」


すると電話の相手の言った一言に彼女は驚く。


「…え?でもそれだと…分かった。気をつけておく…じゃあ」


そこで電話を切った彼女はそのまま静かに公衆電話を出ると、そのまま自宅までの帰路につく。

彼女の家はルテティア市内にあるため、このままメトロに乗って帰宅する。

改札で駅員に定期券を見せて地下鉄駅に入ってホームで待つ。周りには他にも乗客の姿があり、最近は痴漢も多いと言う広告を目にしながらホームにやってきた列車を見る。


「…」


彼女は列車に乗り込んで自宅近くの駅まで列車での移動を始めると、走り出してトンネルの暗さで列車全体が車内灯に照らされ、窓ガラスに反射して自分の顔が映る。

列車に揺らされ、吊り革を握っていた彼女はふと窓ガラスに反射して見えた黒い影を見た。


『貴女は満足した生活を送れているかい?』


その瞬間、脳に直接響く。と言う表現が正しいだろう、耳で聞こえたわけではない明らかに異質な声が彼女の脳に聞こえた。


「っ!?」


その声に驚愕し、聞き覚えのない声色に目を見開いて窓の映った黒い影の立っていた横を見ると、そこには見知らぬ私服を着た男が立っていた。


「っ?っ?」


ヘディは困惑した様子で左右を見回すが、先ほど窓に映っていたような漆黒の人影はどこにもいなかった。


「っ…!?」


そして唐突に吐き気がせり上がり、息がだんだんと荒れてくる。そして列車は駅に到着をしたので、慌てて駅に降りる。


「はぁ…はぁ…」


ドアが閉まり、列車が走り出して行ったことで彼女は段々と荒れていた息が収まって吐き気も同時に霧散していく。


「今のは…何?」


彼女の脳裏には今まで新聞に名前が載っていた被害者達の名前が過っていく。


「…」


そして今日起こった二人の殺人事件を前に彼女の脳は処理崩壊寸前にまで達していた。


「い、急がないと…!」


彼女はそこですぐに駅を出て小走りでルテティアの道路を歩いていく。

今の時刻は太陽が沈みかけた夕刻。街には灯りがつき始める頃で、人通りもまだ多い時間帯。そんな中をヘディは人を時折押し除けながら早歩きをする。本当は精一杯走りたいが、体が先ほどの声で恐怖に支配されており、足がすくんでいるのが分かった。


「えっと…け、警察か…ぐ、軍務省に近い駅は…」


混乱と恐怖で埋め尽くされた頭を必死に回転させながら彼女は緊急で守ってくれる場所に向かおうとする。


「(やっぱり、あの時いなかった子は全員…)」


彼女はそこで以前に仲間達と集まった時に不自然に開いていた空席についての引っ掛かりを内心で吐露する。

薄々察してはいた事だったが、こうもあからさまに立て続けに殺されていくとなると、流石に彼女でも推察できてしまう。


「(みんな殺されているんだ。あの時、四人来なかったってことは…)」


彼女の脳裏には呼び出しを受けて他の面々と共に集会を開いた時のあの光景を思い出す。


「(あの時、彼は知っていた。だけどそれを言ったら…)」


彼女は市内の地図を確認した後、最短距離で警察署に行ける人通りの少ない路地を通って小走りで移動すると、アーチを通って建物に囲まれた中庭に出る。


「っ!?」


その瞬間、彼女は不意に後ろから手を掴まれた。


「誰…!?」


それに大声をあげて振り返ろうとしたが、掴んだのは先ほど別れたタバレだった。


「なっ…!!」

「失礼。ヘディさん」

「どうしてここに…?!」

「つい見かけたもので。それに…」


タバレはそこで片手に持っていた煙草を指で弾いて中庭の通路に投げ入れると、


ピシャ「!?」


地面から電流と耳に響く音が流れ、地面に埋め込まれていた魔法陣が起動をしていた。


「い、今のは…?」

「地雷型の魔法です。魔導レーダーにも映らないほどに微弱ですが、人一人を気絶させる分なら十分な威力です」


タバレは自ら持つ異能で魔法がここに設置されていることを把握しており、このタイプの魔法が敷設されていると言うことで咄嗟に周囲を見回すが、人の気配はない。


「設置されたのはつい数分前。また新しいですね」

「…つけていたんですか?」


ヘディは腕を掴んできたタバレに聞くと、彼は首を横に振った。


「いえ、帰った後に私は犯人が次にどう言う手を打ってくるかを考えていました」


彼はそう言うと、ここに来た訳を話す。


「あの後、貴女をもし犯人が狙うなら帰宅途中に接触を行うことでしょう。

貴女の荷物は少なく。汚れを嫌い、見た目を気にしていない貴女がズボンではなくスカートを履いていることから、帰りには鉄道かバスを使っている。しかしあそこの花屋で最も近い公共交通機関はメトロ(地下鉄)のみ」


タバレは魔法で黒焦げになった煙草を掴みながら言う。


「私が犯人なら自宅ではない場所で襲う」

「…なぜですか?」

「ここまで事態が大きくなると自宅周りには必ず監視員か護衛がいるからです」

「え…?」


そして黒焦げになった自分の煙草は掴んだ瞬間にボロボロと崩れてしまう。


「しかし貴女には知らされていない。なぜなら護衛がいると貴女に知られると犯人が釣り出されなくなるから」

「…」


護衛と監視がいると推察したタバレにヘディは驚いた様子を見せた。


「私の推察では、この事件に犯人はあらかじめに計画を綿密に計算してから犯行を犯す慎重な性格を持ちつつ、現場の変化に合わせて対応が可能な頭脳も持ち合わせている」

「…」

「そして意図的な目的から、貴女達のような若くて有能な砲兵を授与された軍人を狙っている。

私がそのような性格を持った人間なら犯行を行うために取る行動としては、貴女を警察に急いで向かわせることだ」

「!?」


タバレの推測にヘディは目を見開いて驚く。


「そし人を襲いやすくさせるために人気の無い場所を通るルートを選択させる。見ての通り、犯人は市内で監視を行っている魔導レーダーにも映らないほど小さくて効率的な魔法を設置できる高い能力を有している。とすると…」


そして風に流されて消えてしまう前に、灰になった煙草を指につけて軽く香りを嗅ぐタバレ。


「そしてこの付近の警察署で、地下鉄駅から最短で行くために人気の少ない路地を使わなければならないルート。あの路線の各駅からそれを想定してたどり着いたのがここと言う訳です」


彼はQ.E.D.を済ませると、立ち上がってヘディを見た。


「今日の事件で犯人は夜以外にも活動をするようになった。そして今の仕掛け。追撃をしてこないと言うことは犯人はすでに逃亡したでしょう。まあ犯人は極端に見られることを嫌っているので、私と言う余所者がいるからこれ以上は無理と判断したのでしょう」


タバレはそう答えると、中庭を囲んでいる建物の上を見上げる。


「恐ろしく撤退の判断が早いです。おそらく犯人は先ほどの魔法で貴女を気絶させた後に何処かに運ぶ予定だったか、ここで殺害をしていた」

「…」


ヘディはタバレの冷淡な解説に顔を青くする。


「あ、あの…タバレさん」

「何か?」


ヘディはそこでタバレに先ほど地下鉄であった事を話した。


「ふむ、その魔法はテレパシーに近い魔法でしょうな」

「テレパシー…」

「精神干渉魔法に近しい魔法です。ちょっと失礼、頭をお借りしても?」

「は、はい…」


タバレはそこでヘディのデコに手を当てて自分の異能を用いて魔法の使用痕跡を確かめる。


「…」


タバレは人の脳という、魔法を発動する上で最も重要な部位かつ、繊細な場所から慎重に魔法の履歴を探っていく。


「…なるほど」


そして彼は呟くと、ヘディが聞いてきた。


「何かわかりましたか?」

「ええ、弱小な介入があります。イメージで言えばテープレコーダーの音声を流している感じですね」


彼はそういうと、ヘディから手を離して彼女に言う。


「とりあえず今日は帰っても問題ないでしょう。ただし陽が上るまで家を出ないこと」

「は、はい…」


タバレの忠告に、今までの推理を散々聞かされて、恐ろしいほどまでに的中させてきたことで信用をしたヘディは恐る恐る頷く。


「大丈夫ですか?」

「は、はい…」


そうは答えるものの、ヘディの手は震えている。目の前に死を感じたことによるシェルショックの症状が出ていた。


「良ければお送りいたしましょうか?」

「え?で、ですが…」

「問題ないようでしたら、私はすぐに帰ります」


タバレはそう言って帰ろうとした時、ヘディは彼の裾を掴んだ。その時の彼女の表情は警戒と恐怖が混ざり合った複雑な表情をしていた。そして搾り出すように彼女はタバレに頼んだ。


「い、家の前まで…お願いしてもよろしいですか?」

「構いませんよ?マドモアゼルの護衛は喜んでお引き受けいたします」


彼は和かに頷くと、ヘディは苦笑気味に彼を見上げた。




ヘディの護衛をしながら彼女の家に帰る途中、タバレは先ほどの襲撃未遂のことに関して警視庁に電報を送っておいた。


「(これで警察も彼女に護衛として監視員を出せるだろう)」


国家警察総局では次々と集められていく証拠を頼りに被害者となり得る人物のリストを纏めて捜査関係者に渡している。公開捜査になって久しいが、犯人につながる証拠は警察が収集したもの以外にほとんど無い。


「(だが問題は、おそらく軍が監視員を遣していると言うことだな)」


前のロンデニオンの際に軍の誰かが先に狙撃を行ったことで犯人の釣り出しを行っていたが、この前の出会いで彼は確信していた。


「(まさか狙撃をした本人に会うとは思っていなかったが…)」


ジョージ・ルメイ。あのカタコンベで聞こえた声が彼の声であると確信している。犯人のように変声魔法を使っていなかったので、彼は聞き覚えがあった。軍の目的はすでにわかった今、敢えてそれを聞くことはなかったが、向こうはその事を知っていて自分との接触を図ったのだろう。


「あの、ここが家なので。私はここで」

「ああ、そうですか」


するとヘディの声で思考の渦から現実に引き戻された彼は、そこで市内のアパートを見上げる。


「窓のカーテンは常に閉めてください。それから宅配物や郵便が来た際は先に名前を聞いてからドアを開け、拳銃を玄関かベッドの横に置いておくと良いでしょう」

「わ、分かりました」


タバレの忠告に、ヘディは頷くと一礼をしてからアパートに消えて行った。

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