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戦場からこんにちは Side.B  作者: Aa_おにぎり
三章 君のしんいは?

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Cace.35

「そもそも奴はどうやって国を渡った?」


ルテティア警視庁でジェブロールは頭を抱えた。


「今回の二件で上層部は大騒ぎだ」


刑事部では職員達が右に左に大騒ぎで走り回っていた。一日に発生した二つの殺人事件に追われてその情報の収集と、後始末に追われていた。

ジェブロールはその中、ジュリー・ジュネストの要請で連合王国への出入国者の照会を行うように言われていた。


「公開捜査とはいえ、まともな顔がわかっていない上に名前も分かっちゃあ居ない。あるのは…」


彼はそこで机の上に置かれた名簿表を見る。


「被害者だけか」


その名簿表はタバレの推理でワードだけを中心に集められた名簿表。


「ですが収穫はありました。今日殺された二人は名簿に載っています」

「で、以前に殺された被害者も含まれているか…」


事件解決に光明が差したような気持ちになりながら彼は煙草に火を付ける。


「現在、国家警察局が名簿表を参考に照会作業を行っています」

「こっちよりも人数が多い。多分…」


するとジェブロールの机の電話がなって、彼は受話器を取る。


「ジェブロールだ。…ああ、分かった」


そして電話の向こうからの情報に彼は数回頷くと、その後の受話器を置く。


「照会が終わった。今まで被害に遭った九人の他、四人の行方が取れていない」

「それは…」


現在、警視庁から捜査会議に出向しているジュリーからの電話に、ルコックは思わず息を呑む。


「全員に行方不明届が出ていない。何も植民地人か戦災孤児だそうだ」

「またですか…」


ルコックはそこでため息を吐いて被害者の出生をまとめたものを見る。


「被害者は全員植民地人か戦災孤児、年齢は十九〜二〇。全員が従軍経験ありの砲兵勲章授与者…ここまで一致しているとこの条件で狙っていることは確定しましたね」

「若い砲兵を狙った連続殺人と見ていい。被害が十三人と推定すると…恐ろしいまでに殺しに手慣れている」


そう言い、ジュリーから好意で渡された捜査資料を見る。


「一個目は階段へ突き落とし、二個目は車内で絞殺か」

「タバレ探偵の推測では犯人体力に自信がない可能性が高く、同時に恐ろしく慎重で行動心理学に長けた人物だそうです」

「…この前のあれだな」


ジェブロールはそこで不満顔でこの前ジュリーから知らされた犯人とチェスを行った話を思い出す。

そもそもの話、犯人とチェスをすると言う時点で色々と不可解な話である。そしてもっと恐ろしいのは、犯人はタバレが何時ごろ来るかをあらかじめ予測できていたと言う点である。

犯人の身長は一七〇ほど。年齢不明、おそらく男性。今までに判明した犯人の容姿とは大きくかけ離れており、ジェブロールは犯人が二人いると推察する。シークレットシューズの類もないと言うことで、容姿はこれでほぼ確定だろう。捜査本部には『民間人からの聞き込み』と言う形で報告書の中に混ぜて提出を行った。幸いにもその報告書は会議で報告にあげられて、複数人での犯行と推定して改めて捜査体制の見直しを行うと言う。


「タバレが言うには、犯人はFN-49を使用しているそうだ。今、ベルジャンのメーカーに所有不明の銃が無いかを調べてもらっている」

「まだ出て来ないんですか?」


ルコックはロンデニオンでの一件からかなり経っている気がすると首を傾げたが、ジェブロールは言う。


「馬鹿、FN-49はベルジャン陸軍の正式装備品だ。出荷されただけで数万。しかも最近きな臭いアルジェンティナでも使われているんだ」

「…じゃあ無理ですね。あそこは今この国と独立戦争の真っ最中だ。誰かが横流しをしていても分かりやしない」

「おまけに、銃殺で死体から出てきた拳銃弾も.380ACP。今までで大量に粗製濫造された拳銃じゃあ追跡も不可能だ」


ジェブロールはそう言い、現場から薬莢すら出て来ない事実に頭を抱えたくなる。


「しかし名簿に載った犯人が狙っている人物は特定できました。あとは彼らを監視、もしくは護衛を派遣して犯人を釣り出しましょう。一気にコチラが主導権を握りましたよ」

「そうだといいが…」


ルコックは自身を持った様子でジェブロールに言う。


「…今、政権内ではこの事件解決の暁に国家憲兵隊を内務省管轄にすると言う話もあったな」

「ええ、我々としては両手をあげて喜ぶべき話ですよ」

「だが、軍との軋轢は生まれるな…」


そんな話、軍部が許す筈もない。しかし警察としては、軍と同程度の装備品を持った武装組織が内務省に来る上に捜査権限の一括化によって楽になると良いことずくめであった。

しかし軍においては戦力は削がれるは、国内への捜査権限は無くなるわで悪いことづくめである。実際、すでに陸軍内部は猛烈に反対していると聞いていた。


「だから公安部が軍を監視しないといけなくなるんですよ」

「面倒だな…」


そんな他部署の話を小耳に挟みながら彼はタバレから受け取った情報を参考に犯人の次の狙いを想定する。






====






「どうしてタバレさんが来るの?」

「さ、さぁ…?」


片付けの途中、同僚にそんなことを聞かれた。彼女はタバレのことを知っていた。


「お気に入りになったとか?」

「そんな馬鹿な…」


同僚の冗談混じりの話に呆れてため息をつく。少なくともこの店に初めて来ている時点でお気に入りもクソもない。


「あとで何話したか、教えて頂戴ね」

「えぇ…」


すこし引き気味に彼女は答えると、片付けと着替えを終え、店仕舞いを済ませてから彼女は店を出る。


「お待たせして申し訳ありません。タバレさん」


彼女の視線の先には一人の男性。店仕舞い直前に私を訪ねてきたタバレ・ガバリオと言う男。


「は、初め…」ピピーッ!「っ!?」


挨拶をしようとした時、道路に響いた笛の音に体を一瞬震わせて驚くと、警察官が笛を吹き鳴らして喧嘩の仲裁に走っていた。


「す、すみません」

「いえいえ、お気になさらず」


その男性は私にそう答えて目を見てきた。同僚の話によると彼はルテティアで探偵をしており、新聞に彼専用の記事が書かれることもある有名人だという。


「いえいえ、お話に応じてくださって感謝するばかりです」


タバレはそう言い、花屋で働くヘディ・ストリープと言う女性と話す。


「あの…どのような御用で…?」

「ええ、少々この近くで気になる噂をお聞きしましてね」

「…」


タバレの一言一言にまだ警戒の色を漏らしている彼女。この感じだと、おそらく彼女も分かっているに違いない。その証拠に彼女の右足は僅かに震えている。もうこの際、隠す必要もないだろう。


「失礼、私は紋様事件の犯人が次に狙っていると予測を立ててお尋ねいたしました」

「…どうしてですか?私は花屋の店員ですが?」

「ええ、ですが貴女は退役軍人だ。それも砲兵隊のね」

「!?」


そう言い、彼は彼女の震えている右足を見る。


「貴女の右足は震えているが、店じまいを手伝えているからまず障害ではない。警察官の笛の音にも驚いていたことから、おそらく砲弾病(PTSD)の患者。砲弾病は戦場でしか発病しない病だ。

手の人差し指の関節に真新しいタコが出来ている。それは貴女が最近はずっと射撃場に移動して銃を撃っている証拠。両手に似たような痕があり、花屋ではしないはずのガンオイルの香り。

肩や腕を痛めている様子はないので拳銃を使っており、扱いに慣れている。そして拳銃をメインで使う兵科はこの国では砲兵だけ」


タバレは次々と彼女に話していく。


「そして歩く時や話しかけられる際に一々貴女は怯えるように反応をしていた上に、歩き方が一定のリズムだ。

短く整えられた飾りっ気のない髪型は、細々とした作業の多い軍隊では作業中に巻き込まれる可能性を考慮して禁止されているから。そして背筋を伸ばして胸を張る姿勢」

「…」


最後にタバレはヘディの右腕につけられている腕時計を指差す。


「腕時計の文字盤が内側になるように取り付けている。見た目に気を使う若い女性でアクセサリーの扱いの時計ではなく、軍用時計を使い続けている。貴女はその年齢で化粧や諸々の行為を行なっていないと言うことは、もともと飾り気のない女性で、尚且つ結婚にも興味がないと見える。どうですか?」

「…飛んだ変態ですね」


ヘディはタバレの追求を聞き、呆れたようにため息をついて毒を吐く。


「これは失礼。ご気分を悪くされてしまいましたか?生憎、気になってしまうのが私の性分ですので…」

「いえ、お噂通りの人間ですね」


ややジト目でヘディはタバレを見ると、彼女はため息を吐いた後に言う。


「タバレさんの推測は当たっていますよ。私は退役軍人。第46砲兵大隊所属の…」

「いえ、貴女の砲兵隊はまた違いますね」

「…なぜです?」


一瞬で否定をしたタバレに首を傾げる。


「まずは話し方。共和国語を話していますが、まるで教科書通りの話し方。まだこの国での生活に慣れていない証拠。そして顔立ちは東方に居る人らしく、凹凸の少ない顔立ち。貴女は見た目に気にしてないと言うことか独り暮らしだ。華僑である場合は必ずそのコミュニティーで家族や親戚単位で暮らしている。つまり貴女は親戚もいない」


タバレはヘディに言うと、彼女は目を揺らして動揺していた。


「そして軍人ということは必ず共和国軍人は外人部隊に編成される。軍隊の規則上、外人部隊は本国部隊との混成を一切禁じられている。故に貴女は嘘をついている」

「…はぁ、流石ですね」


ヘディは次々と推察を言われ、呆れたため息を吐いてしまう。


「私からもう言えることはありません」

「ええ、そんな外人部隊なのに本国部隊と報告する時点で、何かしらの事情があることは察せます」


タバレはそこであの部隊のことを口にはしなかった。

彼女は恐ろしく警戒心が高く、雰囲気からして誰かに言われて自分が接触に来るかもしれないと言われているのだろう。


「(ジュール・ファブールか、ジョージ・ルメイのどっちか…ともかく彼女の警戒心は解けないだろうな)」


彼女の所属していたと思われる部隊はまず間違いなく第731外人砲兵隊だ。ジュリーからまだ連絡はないが、恐らく彼女達の経歴は見事に隠蔽されているだろう。


「ですがヘディさんが狙われていることは事実です。なぜ狙われているのか、もしかすると犯人に繋がるかもしれませんのでお話しして頂けませんか?」

「それはちょっと…ごめんなさい。難しいです」

「そうですか…」


タバレはヘディの返答を聞き、これは無理だなと直感的に理解する。


「失礼。ご迷惑をおかけしました」


彼はそう言うとヘディの前から去って行った。

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