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戦場からこんにちは Side.B  作者: Aa_おにぎり
二章 君は誰だ?

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Cace.32

「そのジョージ・ルメイ自体、まず偽名なのは間違い無いんだ」

「そうだな。今の軍は東洋の呪術を警戒して優秀な魔術師には必ず偽名を与え、写真に写らせない」


まだ魔術師の力が直接軍事力とも密接している今の時代、国際化によってより多くの魔法が境中から流れている。

その中でも東洋の呪術は、名前と写真と、本人の髪の毛があり、それを釘で打ち付けることで相手に呪いを授けることができ、それを使ってかつて新聞に写真が使われ始めた頃に呪われて殺害されたことがあった。故に今の共和国含めた国々は、優秀な魔術師は姿を隠される。


「で、そのジュール・ファブールっていうやつ自体、強硬派の人間以前に、魔術師関係で色々と実験を指揮して来た奴なんだ」

「…なるほど」


戦時中、彼は魔法の研究を行う責任者と聞き、タバレは推察を重ねる。


「で、その中で色々と禁術の実験をやってたって噂がある」

「…禁術か」


途端にタバレは頭が痛くなってくる。


禁術。


元は共和国の南東で国境を察する教国が定めた使用してはならない魔法の総称である。

名前の通り、この魔法を使うと世界が破滅する事となる危険な魔法であり、あるいは倫理的な観点から禁止されている魔法である。


まだこの世界に蒸気の音が聞こえる遥か昔、この大陸を全て支配した超大国が作り上げた魔法という力。その中には『転生』や『不老不死』をなすことができる魔法があったという。

しかし、その超大国最後の王が自らを永遠の王になる為に不老不死の魔法を行使した際に、国民全てを生贄にして魔法を展開したが、その後に彼は禍々しい怪物に変貌をして、この大陸を一度破滅させたという。


「WMOは動かなかったのか?」

「証拠はねえんだ。あくまで噂だよ」


モリスはタバレにそう言うと、タバレは住所を記したメモ用紙を持って席を立つ。


「悪いな。感謝するよ」

「なに、また今度色々と記事になりそうな話でもしてくれ」


微笑んでモリスは答えると、タバレはそのままカフェを後にした。


「…ジョージ・ルメイか」


そして残ったモリスは、その名前を聞いたタバレに少し深刻げなため息を吐く。


「タバレ、面倒な相手を作るんじゃねえぞ」


その目には多分に警戒が含まれていた。






カフェを後にした彼は、そこで次にある場所に向かう。


「…ジョージ・ルメイ」


それはこの紋様事件で浮かび上がって来た重要人物である。

メメント・モリは言った『あるべきモノをあるべき場所に返す』と。


「(あれはどう言う意味で言ったのだ?)」


その時の彼の雰囲気は『慈愛』そのものだった。人殺しがするようなものでは無のは当たり前である。


「(彼の行動は一貫して『731部隊の抹殺』を中心に動いている)」


タバレはそこで考えを巡らせる。今までにあった七名の殺害のほかに、四名の殺害を仄めかした彼は、今までに十一名を殺害している。


「(写真の三分の一を既に始末しているのか…)」


集合写真に写っている彼等の顔を振り返りながらタバレは手紙に書いてある通りの場所に向かう。

場所はサン・ドミニク街のブリエント館。そこには一つの省庁が設置されている。


軍務省。


この共和国の大陸軍(グランダルメ)を統括する組織である。


「わざわざ呼び出されるとはね」


そこまで有名になっていたのかな?などと思いながら裏口の小さな受付に手紙を渡すと、事前の通りに受付の女性は電話をかける。


「はい、お客様です」


短く確認を終わらせると、受付嬢は電話を切ってタバレを見上げる。


「間も無く係のものが来ますので、ここでお待ちください」


事務的に彼女は伝えると、タバレはそこで軽く周りを見回す。軍務省の内部はさすがの中央官庁で、綺麗に埃一つなく清掃されている。


「お待たせしました。タバレさんですね?」


すると一人の制服を着た軍人が近づいて話しかけて来た。タバレは頷くと、お待ちしておりましたと言って案内を始める。


「…(少々、気が立っているな)」


案内される中、軍務省の時折通り過ぎる軍人から感じる雰囲気というのは不安そのものである。

この前のデモでは南部の都市で死傷者が出る乱闘騒ぎまで発生しており、国家憲兵隊まで駆り出されていた。

政府が帝国と結んだ新たな協定は、国民感情を逆撫でしており、政権打倒も時間の問題であると言われている。


「こちらです」


そして自分を案内した士官はある部屋のドアを開けて中にタバレを通す。


「…(暗いな)」


部屋は分厚い遮光カーテンが降ろされており、昼間であるにも関わらず顔が見えなくなるほど暗かった。

だが、それが一種の対策であるのだろうと察して、部屋のソファに座る。


「この部屋は禁煙となっておりますので、ご注意を」


士官はそう言い残して部屋を出ると、残ったタバレは部屋の奥に座っていた一人から話しかけられた。


「いきなりこのような場所にお呼び立てして申し訳ありません」

「いえいえ、私はいつも暇ですから」


その人物はそこで椅子を回してソファに座っていたタバレを見る。


「初めまして、タバレ・ガバリオさん」

「初めまして。ジョージ・ルメイ陸軍大佐」


タバレはこの部屋の主である人物に挨拶をする。


「しかし随分と暗い部屋ですね」

「用心のためです。顔を覚えられる訳にもいきませんので」


タバレはジョージからそんな返答をもらうと、同時にその教科書のような独特な話し方が気になる。


「(この声はカタコンベの時に聞こえたのと同じだ)」


そして同時に、聞き覚えがある声がすぐに過去の記憶と結びつく。するとジョージは何かに気がついた様子で立ち上がった。


「…失礼」


その直後、軽く彼は指を鳴らすと、タバレの髪からガラスが割れるような音が聞こえてソファにコロリと一匹の虫が落ちた。


「これは…!?」

「傀儡を使っていましたか。何処かで仕掛けられていた様子で」

「…」


魔法の痕跡を異能で探知してみると、とても微弱な盗聴用に改良された魔法がかけられてた。時間はおおよそ三日前、あのホールでのチェスをしていた時に入れられたのだろう。


「タバレ探偵、これを気に日頃から風呂に入る習慣をつけられた方がよろしいでしょう」


盗聴にも驚いたが、何よりもこの盗聴の魔法に入った瞬間に気がつくジョージの魔術師としての実力にも驚愕する。


「さて、これで安心して話ができるというもの」


彼はそこでタバレとは反対の席に座る。


「早速で申し訳ありませんがタバレ探偵、貴方にお願いしたいことがございます」


彼は単刀直入にタバレに呼び出した理由を話す。


「現在、我々軍部はある事件に頭を悩ませています」

「…紋様事件ですか?」


顔を隠しているジョージは頷く。

部屋を見てみると、カーテンが僅かに開いており、そこから察するに直前まであのカーテンは開いていたことになる。そして机の上には複数の資料が並べられ、また話す彼の口調も少々早口で焦っている様子が見受けられた。


「ええ、もはや警察の力ではどうにもならないところまで来ています。既に事件は国外にまで波及した重大事件となっている」


詭弁だ、とタバレは思った。

そもそもの話、この事件ここまで長引いた理由の一つに軍部の妨害と介入が挙げられる。

現在の被害者は発覚しているのは七人、自供四人。計十一人の被害者が出ている。


「(そして軍部は三日前の時点であの場にいたことに気がついていない…?)」


目の前の軍人の反応からして素で知らないのだろう。でなければ、あの盗聴の傀儡に気がついた時点で何か言ってくるはずだ。


「(だとしたら好都合だ)」


タバレは穴場にいたことを知られていないということは、あの部隊についても知らないと思われているだろう。


「生憎と、私は一介の探偵で大した情報は持ち合わせていません」

「警察の方々と仲がよろしいとお聞きしておりますが?」

「単に友人なだけです。昔馴染みですから」


タバレはそう答えると、ジョージは聞いた。


「ですが、事件現場に何度も貴方の姿を見たという報告もありますのですが?」

「…」


情報のネタは国家憲兵隊だろう。この国の片割れの警察組織は軍から人員が派遣されている。無論、軍の情報網も張り巡らされている。


「警察以外の人間がそう簡単に事件現場には入れませんので、少々不思議でして。…ああ、すみません。脅しに聞こえてしまったのなら謝します」

「いえ、それほど気にするほどでもありませんので」


タバレは少し警戒してジョージを見る。少なくともジェブロール達と行動していたという事実は筒抜けであると推測し、同時に三日前に尾行を撒いたことに関して分かっていなくとも勘ぐられている可能性を考慮して話を続ける必要がありそうだ。


「(しかし若いな)」


タバレはジョージに警戒すると同時に、その声の若々しさに驚く。多分、二〇前半の声である。


「(しかし被害者が十九や二〇ばかりと考えるとそうか…)」


彼等の終戦時の年齢は十七や十八と言った若い年齢。一般的にこの国で魔術師の徴兵年齢は十六からである。元々が一般兵よりも少ない人数であるがために、徴兵年齢も普通よりも枠が大きく設定されており、被害者の中にいた戦災孤児のように金のために軍に志願することが多々戦時中はあった。


「ですが、依頼をされたのであれば引き受けましょう」

「ありがとうございます」


タバレの返事にジョージは安堵する仕草を見せると、彼に続けていう。


「契約書は後ほどお送りいたします。必要な情報があればこちらに連絡を」


ジョージはそう言ってタバレに電話番号を記した紙を手渡す。


「分かりました」


タバレは紙を受け取ると、部屋を出て行った。

そして出て行って静かになった所で部屋の扉が開いてカーテンが開けられる。


「終わったか」

「ええ、取り敢えず彼に近づく理由ができました」


窓から強い光が差し込み、ルテティアの街が広がる。


「良かったのか?奴は相当なキツネだぞ?」

「これ以上殺されて困るのは貴方でしょう?」

「…」


カーテンを開けたジュールは黙り込むと、軍務省から出ていくタバレを見下ろす。


「残った兵士の方は?」

「手紙で集合をするように言いました。一箇所に集まれば奴も動くでしょう」

「どうだかな。奴の動きはまるで霧だぞ?」

「霧はいずれ晴れるもの。必ず奴なら動くでしょう」


ジュールの懸念にジョージは確信をしたような眼差しを向けた。

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