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戦場からこんにちは Side.B  作者: Aa_おにぎり
二章 君は誰だ?

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Cace.31

「えっ!?犯人に出会った?!それにチェスをしたぁ?!」


翌る日のルテティアのアパート。そこにジュリーの声が響き渡る。


「お静かに」

「あっ」


耳を塞ぐ仕草をしたタバレに指摘され、ジュリーはハッとなってしおらしく肩を縮める。

あの施設での出来事から三日後。あの後、すぐに列車に乗ってルテティアに蜻蛉返りしたタバレは、そこで仕入れた情報の整理と精査のために数日を要していた。


「なんで教えてくれなかったんですか」

「できればやっていましたよ」


鋭い視線を向けるジュリーにタバレは事情を話す。


「ちょうど、この写真の植生と軍用地を照らし合わして調べました」


そこで彼は写真背後のクスノキの森を指差す。


「珍しい広葉樹林ですから、すぐに場所は目的できましたので…それでいくつか回って調べたんです」

 

彼はそう言い、ここ一週間ほど家を空けていた理由を白状する。


「いきなりウチ(刑事部)に来て色々と注文をつけて行ったのはそう言う理由ですか…」


彼はそこでジュリー達に幾つかの調べ物を依頼してから出て行った。タバレは警察官ではないので、首都を離れても独自に(完全自費だが)調査に赴くことができた。


「取り敢えず…」


ジュリーはそこでガサガサと持って来た鞄からファイルを取り出してタバレに手渡す。


「タバレさんの言われた通りの資料です」

「すまないね」


タバレはジェブロール達にお願いをして調べてもらった多くの情報を見ていく。


「砲兵勲章を授与された現在十九/二〇の戦災孤児や植民地人。理由は分かりますけど、何故植民地人を追加したのですか?」


それは名前、性別、生年月日と現在の住所が記された一覧表であった。


「あの砲兵隊の写真があるでしょう?」

「はい。あの狙われている人々が写っている写真ですね?この前、捜査会議でも話されていました」

「ええ、あれは植民地から派遣された外人部隊だと……ん?」


その時、名簿表を見ていたタバレは手が止まって顔を上げた。


「失礼、今何と?」

「え?あぁ、写真に写っている人が…「その直後」…えぇ、捜査会議で話されていた…」


ジュリーはそこで『あれ?』と首を傾げた。自分から口にして疑問に感じており、タバレはそのままジュリーに聞いた。


「ジュリー、何故捜査会議にその写真が出ている?」

「あっ。え、えっと…この前のロンデニオンで殺害されたグレース・パトリアさんの家から証拠品として提出されて…」

「…なるほど」


タバレはそこでジュリーから聞いたあの写真についての話を聞き、考え始める。


「あの…タバレさん?」

「…ジュリーさん」

「はい!」


肩を掴まれ、変な驚き声が出てしまったジュリー。


「ありがとう。色々とわかったよ」

「へ?」


いきなりどうしたと首を傾げるジュリー。その直後にタバレは上着を手に取って外に行く準備を始める。


「すまないが急用だ。今から私は…」


その時、部屋の扉がノックされた。


『タバレ先生。私です』

「ルコックか」


誰だと聞こうとした時、先にノックをした本人が言った。おそらく中々帰ってこないジュリーに、ジェブロールが寄越したのだろう。


「鍵は空いてるぞ」

『失礼します』


タバレが言って直後にドアが開くと、部屋にルコックが入ってくる。


「先生、ジュリーはいますか?」

「ああ、私に報告書を届けてくれている」

「あっ、ルコック刑事」


そこでルコックは部屋の中で珈琲を飲んでいたジュリーを見た。おそらく、ヴァレリー夫人から貰ったものだろう。


「全く…」


ルコックは呆れて合法的に休憩をしているジュリーに近づく。


「刑事部はこの前のデモ活動の後始末があるんですから。ほら、行きますよ」

「えぇ…」


ルコックはそこで明らかに嫌そうにするジュリーを見る。


「ルコック刑事も休みませんか?」

「それで怒られるの僕なんです。ほら」


そこで仕事を抜け出していたジュリーを引っ張って部屋を出るルコック。


「ではルコック君。私はこれで」

「はい、先生」


タバレはすでに着替えており、そのままアパートを出ていく。


「タバレさん、お手紙です」

「ありがとう」


家を出る時、タバレはヴァレリー夫人から彼宛の手紙を受け取り、ルコックとジュリーはその後にアパートを出ていく。


「やれやれ、まさか休憩するとは」

「いやですよ。また家に帰れなくなるなんて勘弁してください。もう一週間は帰れてないんですよ?」


ルテティア・メトロに乗って二人は地獄の仕事場(ルテティア警視庁)に帰る。


「仕方ないでしょう。こっちは紋様事件に振り回されるわ、デモの後始末に駆り出されるわ、先生の要望に応えなきゃならないわで忙しいんですから」


一応、相手は警部補。自分は警部。階級が違うのでルコックは敬語でジュリーと接している。

今年の春に配属された頃とは違い、彼女は終日の忙しい日々で鍛え上げられた実践スキルは『理由をつけての逃亡』を彼女の中に育んだ。


「デモの後始末にどれだけ時間がかかるのか…」

「帰ったら司法局に提出する書類を作ってくださいね」

「うへぇ…」


グッタリと肩を落とした彼女は、ふと地下鉄で新聞を読んでいる男性が目に入る。


「だから新聞なんて嫌いなんですよ」

「仕事増やしますからね」


新聞を見てつぶやいた彼女にルコックも数回頷いて理解を示すと、二人は駅に到着をして仕事場に戻る道を歩く。


「タバレ探偵もそうですよ。何で犯人とチェスなんてするのかなぁ…」

「え!?先生が?」


ボソッとこぼしたジュリーの話にルコックは目を見開いて驚く。


「ええ、この前出て行った時に出会したとかで」

「ああ、あの時か。警部補が疲労で倒れて大変だったんですからね?」


その時、ジュリーは連勤が祟って体調を崩して休みを申請していたことをルコックは思い出す。


「アレから体調はどうですか?」

「大丈夫…だと思いますよ?」

「また倒れられたら面倒ですからね。あっ、あとで警部にそのことも言わないとなぁ…」


きっと頭を抱えることとになるに違いないと確信をしており、ジュリーもそれにその後のことも考えると不思議と頭痛を感じた。






アパートを出たタバレは、家を出る際にヴァレリー夫人から受け取った手紙を開ける。


「…」


自慢のつもりは毛頭ないが、自分に手紙が来ることはよくある話だ。軽い相談事、夫婦間の問題解決、たまに事件解決の為の捜査協力。


「…なるほど」


手紙を読み終えた彼は、そこで軽く頷いてから手紙をしまってメトロに乗り込む。手紙の内容は、タバレのこの後の予定を変更させるのには十分なものであった。


「(メメント・モリ。そもそも男か女がが変装をした場合も考えられるか…)」


そこで彼は二度出会した犯人(メメント・モリ)の事を振り返る。


「(あの後、彼は複数の魔法を同時に展開して逃げた。だが逃げるなら自分と同じ逃走路かと思ったが…)」


これから彼はモリスの所に行って聞いてこようと思っていた。


「(731外人砲兵隊…なるほど、情報が集まって来たな)」


彼は今の手元にある情報の数々を考える。

今の犯人は、おそらくもっと攻撃的な犯行を犯す事だろう。そして確実に抹殺する事に執着している。しかし、証拠品に関して一切手が触れられていないので強盗の類でないことは確信していた。


三日前の出来事で彼は『人を殺すこと』が目的であることに確信し、同時に植民地人であると推定する。故に帰りに電報で元植民地人も条件付け加えて調べてもらった。


「今の所、候補はこれだけか…」


カフェで資料を見ながらタバレは呟く。ここでモリスと待ち合わせる予定であった。彼の目の前にはジュリーから寄せられたら一覧表が並べられている。より細かく検索条件を加えたことで、人数は大幅に減って二〇名まで減った。


「ジェブロール達には後で感謝しなければな…」


この前のデモの後始末がまだ残っている中で血反吐を吐きそうな勢いで仕事をしてくれた…何ならジュリーは疲労で倒れた地獄絵図を想像して、後で何か贈った方が今後の為にもいいだろうと推測する。


「よぅ、タバレ探偵」

「ああ、悪いな。仕事中に」

「何、紋様事件もゴシップの仲間入りで暇していたんだ」


呼ばれたモリスは、そこでタバレとは反対の席に座る。すると早速モリスは聞いた。


「で、珍しく呼び出したのはなぜだ?」

「ああ、至急で会いたい人物がいる」

「ほう?誰だ」


モリスはタバレに聞く。


「ジョージ・ルメイを知っているな?」

「ああ、戦争中のすげぇ兵士だろ?」

「たしか、君のところで特集記事を書いた記者がいたはずだ」


タバレは記憶の中で読んだ新聞を思い出すと、モリスは言われて頷く。


「ああ、俺の知り合いにいるな」

「会って話がしたい。調整できるか?」

「まかせろ。…ただそいつ、部長と喧嘩して一旦仕事場辞めてるんだ。家は知っているが…」


今の場所は分からないとモリスは言うと、彼は軽く首を横に振る。


「構わない。ジョージ・ルメイの特集記事を書いたと言うことは、彼の事を知っているんだろう?」

「そりゃあな。戦場記者で前線を走り回ってたんだ」


モリスは常に持ち歩いているメモ帳をサラサラと書き記すと、タバレに住所を教える。


「なあ、何で紋様事件で陸軍のエースが出てくるんだ?」

「詳しくは言えない。だが、紋様事件に関わってくるからな」

「そうか…」


するとモリスはタバレに軽く注意をする。


「気を付けろよ?ジョージ・ルメイは戦時中から色々と噂の絶えない人間だからな」

「…どう言う事だ?」


タバレはその時のモリスの表情を見て、明らかに『触れてはならないもの』を見るような妙な緊張感があった。


「他には言うなよ?」

「無論だ」


モリスは長年の信頼関係から信用をして、タバレに顔を近づけて囁くように話し始める。


「戦時中の話だ。ジョージ・ルメイは配下に三〇名の兵士を持つ砲兵小隊って言うんだが、全員が二級魔術師、悪くても三級魔術師で構成された部隊だったそうだ」

「…」


あり得ない。とタバレは思う。砲兵と言うのはこの時代では確実に狙われるので、魔術師を集中運用するなんてあり得ない。また同時に、二級・三級魔術師が三〇人も集められたとなれば戦線に大穴を開けることも可能だが、普通なら全滅のリスクを避ける為にそうした魔術師は必ず分散配置されるはずだ。


「…『砲兵隊の集結』」


タバレは明らかに共和国陸軍の教練から外れた部隊編成に、ある理論が思い起こされる。


「よく知ってるな。ジュール・ファブール中将…当時は少将だが、彼の意向で集められたって言うんだが…これがどうも黒い噂が絶えない」


モリスはそう話すと、その黒い噂を話してくれた。

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