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戦場からこんにちは Side.B  作者: Aa_おにぎり
二章 君は誰だ?

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Cace.29

「ロンデニオンではゆっくりとお話できませんでしたね」


黒に統一されたその人物はゆっくりと階段を降りてくる。タバレは拳銃を向けたまま警戒した視線を送り続けている。


「そう警戒しないで…と言って無駄でしょうね」


その人物は諦めた様子でタバレに近づくと、銃を向ける彼に言う。


「ですが取り敢えずその銃を片付けてもらえないでしょうか?私としても、個人的に貴方とお話をしたいと思っておりました」

「…」


話を聞き、異能で精神魔法による干渉がないことを確認し、相対する人物に敵意がないことも確認してそこでようやくタバレは銃をポケットの中にしまった。目の前の人物は歩き方に少し無理があるように感じ、また布が擦れる音ばかり聞こえ、金属の音は無い。ようは丸腰であるのだ。


「感謝します」


一礼をする人物にタバレは改めて確信した様子で聞く。


「では君がメメント・モリだね」

「左様に」


小さく頷くと、メメント・モリはタバレを見る。目深く被られた黒い中折れ帽と強力な認識阻害の魔法は、タバレも顔がないように見えた。少なくとも異能者は魔法が使えないので、タバレはされるがままに対応するしか無かった。


「こんな事は初めてだ」


犯人が直接挨拶をしに来たと言う時点で、彼にとってみれば前代未聞の大事件であった。少なくと今まで自分が関わってきた事件でもあり得ない話であった。


「そうですか」


しかしメメント・モリは淡白な反応を見せてタバレに答えると、彼に提案をする。


「いかがですか?お会いした記念に一戦」

「…」


メメント・モリはそこでタバレを席に促すと、先に座った。椅子に細工などしておらず、安全であると証明するためだろう。


「(メメント・モリは最初から来ることを予感していたのか)」


タバレは埃のないテーブルと椅子、用意されたチェス盤や比較的早い段階で残されていた魔法の痕跡から、メメント・モリは自分がこの場所の推察をしてここに来ることを時間まで予測していたと言うことになる。


「(彼は知っていた。私がルテティアを離れることを…)」


でなければ説明がつかない。だが、チェスの駒がこれほど綺麗に整えられていると言うことは、それだけ時間的に余裕があったと言うことになる。魔法で整えた痕跡も確認できないので、つまり慌てて用意したわけではないと言うことだ。


「(そこまで予測していたと言うことか…)」


たとえ犯人が二人いたとしても、電報が届くまで時間がかかる上に電話もここだと駅や街以外でそうそう繋がらない。つまりメメント・モリは予め自分がいつくらいにここに来るのかを計算して並べていたことになる。一応魔法という方法もあるが、それだと痕跡が残る。

こんな寸分狂わないようなまっすぐピッタリと並べられたチェスの駒を見てタバレは内心で驚愕しながら席に座る。


「私が後手ですか」


椅子に座ってタバレが言った。メメント・モリは服の色と違って白い駒を操作する。


「変わりますか」

「いえ、結構」


タバレはそう答えるとメメント・モリは頷いて最初にポーンをe4に、続いてタバレもポーンをe6に進める。


「フレンチ・ディフェンス…」

「チェスの定石ですね」


そして次々と駒を動かして競い合う二人。黙々と駒を動かして先を読みながらタバレは徐に口を開く。


「しかし不思議だ。七人も殺した犯罪者とチェスに興じるとは」

「ええ、まあ私としてはチェスに応じてくれたことが嬉しい限りですよ」


メメント・モリはそう話すと、タバレは聞く。


「何の為に事件を繰り返している?」

「目的があるからですよ」


その時の彼の目というのは『純粋な眼差し』をしていた。『自分のやる事は間違っていない』と言う、自信に満ち溢れた顔。一部の革命家などがする、最も狂気的で警察が一番困る顔をしていた。


「私はなすべきを成す。それだけです」

「…」


メメント・モリはそう断言すると、そこで徐にタバレに聞いた。


「タバレさん。水平思考ゲームというのをご存知で?」

「何だね?それは」


初めて聞く単語に首を傾げる彼、するとメメント・モリは簡単に説明をする。


「一人が問題を出し、回答者はOui(YES)Non(NO)で答える質問を行う。回答者はその返事を聞いて問題の答えを当てるのです」

「…推理ゲームということかな?」

「似たようなものですね」


そこでメメント・モリはタバレの駒を取って自分の駒を置く。


「どうです?なぜ私が砲兵を殺しているのか知りたくありませんか?」

「…生憎だが、僕は自分自身で事件を解決することを望んでいる」

「なるほど、答えを知っている司会者が目の前にいるのに?」

「ああ」


タバレは頷くと、メメント・モリはその返答にフッと笑った。


「天邪鬼なお方だ」


タバレもそこは自認しており、後でジェルロール達に言ったら怒られるんだろうなと内心で思った。


「君のやり方には心底驚かされた。どうしてそこまぜ自殺に偽装した?」

「まあ、本心として『ここまで騒ぎ立てるつもりは無かった』とお答えしましょう」


メメント・モリはそこで少々忌々しげな雰囲気を滲ませた。しかしすぐにスッとその雰囲気を霧散させる。


「失礼、私は個人的な理由で新聞が嫌いでしてね」

「気持ちは分からなくもない」


今の新聞の論調は皆が皆『帝国脅威論』を唱えており、辟易としていた。


「反戦主義者ですか?」

「いや、平和主義者だ」


昨今の新聞社は、新しいメディアであるテレビ・ラジオに激しい敵対心を見せており、故に過激な記事や論調で戦争を煽っていた。


「九年も戦争をしたこの国は死にかけた雄鶏だ。終戦協定から二年で戦争をしようとするなんて非経済にも程がある」


彼はそう断言すると、白い駒を持って黒い駒に変える。


「それに、これのおかげで君の起こした事件もゴシップ記事だ」

「人が死んでいるのにゴシップ(世間話)ですか」


そう言い、彼は軽く鼻で笑って次の一手を打つ。


「死んでいるのは軍人だけだからな。一部じゃあ、紋様も刺青(タトゥアージュ)と言われている」

「面白いですよね」

「あれは君が作ったものだろう?知り合いの魔法学者が頭を抱えていた」

「ええ、面白いでしょう?」


メメント・モリの打つ一手々々は恐ろしく慎重な駒の動かし方をしている。徹底した守りを固め、攻勢に出ることはない。おそらく彼の性格が表れている。また先ほど階段から降りて来た時に脚が分かりづらくしているが、少々無理に内股に見せている節があった。喉仏の有無は確認できず、『おそらく男』というのが正しいだろう。


「自殺に見せかけるのなら、あのような紋様を付ける必要ないのでは?」

「そうですね。必要だからこそやっています」

「…軍部へのメッセージだね?」


タバレに彼は頷く。


「私はすでに()()()の処置を完了しています」

「…」


タバレはそう聞き驚いた。彼はわかっている他にも四人にも同様に殺害をしていると告白したのだ。


「私の目的は一つだけ。『あるべきモノをあるべき場所に返す』」

「…(どういう意味だ?)」


タバレは彼の言葉に首を傾げる。


「この事件は軍が関わっていることは百も承知でしょう。彼らは同じ犯人を狙っているにも関わらず、軍は警察に異常とも取れる介入をしている」


ツバはほぼ飛んでおらず、話し方に優雅さを感じ取れる。歩き方や仕草も一つ一つが丁寧で、どこかのいい家の出身なのだろう。

そしてこれ程までに内部の情報を握っている時点で、確実に捜査本部の会議に出ている人間と言うことになる。


「(あやふやな言い方をする。やはり警戒されているか)」


タバレは確信をした。これだけの情報を知っているとなれば、警察関係者なのかも知れないが、内部の情報を詳しく話さないことからあの捜査会議に参加した人間から聞いた可能性もある。


「(協力者か、あるいは金をもらって漏らしたか)」


少なくとも容疑者は実質的に分からないも同義な状態になる。


「(やはり認識阻害と変声魔法が強すぎる。これでは感情が分かりづらい)」


メメント・モリが優秀な魔術師であることはロンデニオンで見せてくれた。おまけにカタコンベでは彼はタバレを守った。


「今までもそうだが、君は私を守ってくれる節がある。それは何故だ?」


相手は犯人である。普通こう言う事件を暴こうとする人間は庇おうとしない、と言うより普通はおかしいだろう。あの地下水道での銃撃やカタコンベでの障壁魔法、犯人の行動がここの部分に違和感があった。


「ふむ…なるほど、それですか」


メメント・モリはそんなタバレの疑問に数回頷く。


「そうですね…」


そして少し考える仕草を取ると、納得が行ったように口を開く。


「私は貴方にこの謎を解き明かしてほしいのですよ」

「…?」

「貴方は現に、私が既に四人を殺したことを知らない。それは軍部がひた隠しにしているからです」


タバレはそこで脳裏にあの砲兵隊の写真が過ぎる。そして同時に駒を置く。


「チェックメイト」

「おっと、負けてしまいましたか」


盤上に入り組むように並んだ駒、試合はタバレが勝った。


「流石は名探偵の頭脳ですね」


メメント・モリはそう言いながら徐に手に一枚の写真を取り出してチェス盤に置く。


「これは…」

「貴方も知っているでしょう?この桜を使った特別な部隊章を持つ砲兵隊のことは」


答え合わせをするように彼はタバレにその集合写真を見せる。


「もうお分かりでしょうが、私はこの写真に写る兵士たちを狙っています」

「…」


彼の持つ写真にはペンで印が打たれており、これが既に始末した人間と言うことになる。


「不思議な部隊でしょう?砲兵隊の集合写真というのは基本的に百人で撮るのに、この部隊はわずか三〇名ほどしかいない」

「明らかに人数は少ないが、小隊規模であれば撮るのではないか?」


顔がよく見えるように撮ったのではないかと返すと、彼は首を軽く横に振った。


「三〇名で運用できる大砲などたかが知れています。特に共和国軍の一五五ミリカノン砲(GPF 155mm)は十名で一門の運用が可能です。たった三門の大砲部隊のために写真家を呼ぶと?」

「…」


写真の質は高く、この様子からするとおそらく全員がこの写真を持っている。


「ではこの部隊は一体何なんだね?」


散々この写真の違和感について力説をして来たメメント・モリに聞くと、彼は教えた。


「…第731外人砲兵隊」

「っ…!?」


彼の口から出て来た名前に、タバレは聞き覚えがあった。

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