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戦場からこんにちは Side.B  作者: Aa_おにぎり
二章 君は誰だ?

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Cace.28

「全員が十九または二〇の若い砲兵で、尚且つ砲兵勲章を授与された砲兵であるということ…か」


蒸気をあげて高速で走る列車の中、タバレはメモに記して考える。

彼は今までの被害者の家に残されていたあの集合写真を参考にクスノキの育つ砲兵演習場を探す。

乗っているのはルテティアを離れた共和国北西部のとある地方都市の郊外。


「(クスノキの分布図と、軍の訓練場を照らし合わせたが…)」


彼はそこで図書館にあった国内の植物分布図と、独自にモリスからもらった国内の軍事施設の一覧を照らし合わせて得た情報を頼りにその場所に向かっている。

家を出たあと、ジュリーたちに伝言で『砲兵勲章授与者で十九と二〇の砲兵』と言う条件で対象者を探して欲しいと言って他にも色々と調べて欲しいことを伝えてから列車に飛び乗った。


「しかし…」


タバレはそこでやや苦笑気味に傍に置いた新聞を一瞥する。


「世の中は紋様事件よりも、対帝国強硬論か…」


現在、共和国を賑わせている殺人事件は、新聞が掻き立てるのですっかり『紋様事件』と名前が定着している。

どこの誰が漏らしたのかは知らないが、遺体に残されているあの紋様のことまで書かれている。しかしその記事も『首都ルテティア並びに各都市のデモ行進』によって一面から追い出されている。


「まだ戦後二年目だぞ?戦争をするにしたって非経済的だ」


吐き捨てるように彼はいうと、新聞を開いてゴシック面に書かれた紋様事件の記事をみる。もはやこの連続殺人ですらゴシップ入りしており、タバレとしては複雑な思いを抱かざるを得ない。


「あのカタコンベで見たメメント・モリは優れた魔術師だった…」


彼はそこであの時に姿を隠して見た犯人の姿が脳裏をよぎる。

雨が降るビルの屋上、メメント・モリは銃を構えていた。


「魔術師が相手か…」


犯人は同時に多数の魔法を展開可能な常軌を逸した魔術師である。


「あれほどの実力の魔術なら、必ずどこかに記録があるはずなんだがな…」


基本的に植民地人であっても、我々共和国人であっても、優れた魔術師を集めるために必ずと言っていいほど適性検査を受けることとなる。あれほどの魔術師であれば、どの国に行っても特別待遇で迎えられる。しかし、タバレの記憶の中でここ数十年でそうした人物は一人も確認されていない。


多重展開によらないのであれば、帝国との戦争中に『魔砲の申し子』と呼ばれたジョージ・ルメイと言う軍人がいる。

戦争中、彼の放った一発の魔導砲撃は通常の砲撃の一〇〇発に匹敵すると言われている。東洋より齎された『呪術』対策で彼の姿は一切公開されておらず、ジョージ・ルメイという名前も偽名であると言われている。


「彼は黒魔術師だろうな…」


彼はだんだんと思考の沼に浸かりかけた時、列車が目的地の最寄駅に着いた事を認知した。


「おっと、これは行けない」


ローカル線を走っていた列車を飛び降りて彼は駅を出る。駅員に聞いて道を教えてもらい、その方に彼は歩き始める。


「共和国陸軍、第三演習場…」


鉄条網と金網の設置された柵の前でタバレは注意書きの看板を見上げる。

戦時中、ここでは徴兵された砲兵が訓練を行うための演習場として使われた場所である。戦後に一部施設は国有地として売却されたが、演習場としての機能は残されている。


「流石に入れないか…」


タバレは軍の施設を前にため息を付くと、そこで周りの森を見る。自生しているのはクスノキなのでまずここで間違いない。


「おーい、そこの若いの」

「?」


すると後ろの道を馬車が通過し、御者の老人が話しかけてきた。


「そこは軍の施設だ。あぶねえぞ」

「ああ、これは親切に」


話しかけた老人は見慣れないタバレと、彼が地図を片手に持っていることから旅人と推測した。


「道にでも迷ったか?」

「似たようなものです」

「どこに行きたいんだい?」


老人は聞くと、タバレはそこであの写真を老人に見せた。


「実はこの施設を探していまして」

「ほぉ…」


そこで写真を見せると、老人は見覚えがある反応をした。


「はははっ、こんな場所に用事かい?」

「ご存じで?」

「ああ、軍の演習場だった場所だろ?あんな場所に何の用事だい?」

「建物の購入を考えておりまして」

「ああ、確かに頑丈そうだもんな」


老人は見たことがあるようで、納得した様子だった。


「どこにありますか?」

「この先だ。途中まで送ってってやるよ」

「ありがとうございます」


タバレは老人の好意に感謝しながら馬車に乗せてもらう。ちょうど農作物を市場にお卸した帰りだったという。


「二年前まではここも軍の演習場になっちまったもんで、遠回りするしかなったんだ」

「そうなんですか」


タバレはそこでその老人と話す。


「戦争中はずっと砲声だ。魔導砲撃も恐ろしく強力でね。ほら…何だったか、あの有名な砲兵」

「ジョージ・ルメイですか?」

「そうそう、そいつもここで訓練をしててね。アイツが撃ったのは一発で分かった」


地元住民の老人は頷きながら道を走ると、ある場所を指差す。


「ほらあのクレーター。ありゃあアイツが撃った痕だよ」

「…」


老人が指差したのは深さ数メートル、直径五〇メートルはある巨大な窪み。砲撃でできた痕であるという。

その威力と言ったら文字通り『桁違い』の一言であった。タバレはその威力を見てその威力の高さに戦慄をする。こんなものが帝国に向けて撃たれていたと思うとゾッとする話である。


「凄まじいですね」

「ああ、地面が揺れるんだ。文字通りな」


老人はそう言うと続けてこんなことも言った。


「外人部隊からよくここまで出世したもんだよ」

「彼は外人部隊なんですか?」


老人にタバレはやや驚いた様子で聞き返すと、彼は頷く。


「ああ、村に軍人さんがよく飲みにきていてね。『植民地から第731外人砲兵隊って言うすごい砲兵隊が集められた』とか言っていたよ」


老人はそう言うと道路からそれた砂利道の前で馬車を止めた。


「この先の道だよ」

「ありがとうございます」


老人に指を差され、会釈で答えたタバレは馬車を見送ると草が禿げた砂利道を歩く。


「そうか、ここはジョージ・ルメイが訓練した場所なのか」


優秀な砲兵であるとよく聞くその名に、説得力のある証拠を見て彼がなぜここまで顔も見えないのに囃し立てられるのか理解できた。

そして伸びて生い茂っている雑草をどかして歩き続けると、クスノキの森の中にある施設を見つける。


「…あった」


タバレはそこで、森の中で開けた場所に放置されてた煉瓦造りの施設を見つける。

終戦から二年が経ち、元々車寄せだった場所は雑草が生い茂っており、全体的に施設は埃っぽかった。


「手付かずか…」


施設を見て逆にこれは好都合だと思った。

ここまで放置されているのなら中に入って色々と調べることができる。

正直、軍が事件と密接な関わりがある可能性がある以上、国有地であるこの場所を不動産に通せば監視が入るだろう。実際、タバレはルテティアで尾行されており、撒いた後に駅に向かったのだから。


「流石に国有地とはいえ、田舎だと柵は無いか」


余裕で雑草を踏み越え、施設の入り口の前に立って扉のノブに触れる。


「っ、開いている…」


施設の入り口は解錠されており、鍵穴を見てみると若干の傷がついている。ピッキングされた痕跡だ。


「…はぁ」


タバレは軽くため息をついて片手に拳銃を取り出してドアを開ける。

少なくともこんな木々の生え散らかした奥の施設の鍵をこじ開ける連中でまともな奴なんていない。そして今の自分は立派に不法侵入を行なっている犯罪者であるので、下手な戦闘になるかも知れないと想定していた。


「…」


ドアを静かに開け、そのまま扉を閉じて銃口を室内に向ける。施設の中は二階建てだが、一部が吹き抜けになっている構造で、一般的な軍の宿舎からベッドを全て掻っ攫っていった見た目をしていた。


「…?」


タバレは施設に入り、妙な違和感を感じて異能を使う。


「…近いな」


それは魔法の痕跡。異能で分かったのは昨日くらいか、下手すると数時間前に魔法が使われた痕跡があったことである。近くに魔術師がいる証である。


「(誘われているのか)」


少なくともタバレは、この魔法の痕跡が意図的なものであると推察する。

タバレの魔法使用の痕跡を辿れる異能は、一週間以内であれば事細かく知ることができる。そして基本的にこの国において、魔術師が独断で魔法を使った場合には法律違反で捕まる。そしてこの場所は施設の入り口であり、魔法使用の痕跡を隠すならもっと人のこないような施設の奥で行う。


「(覚えのある魔法だ)」


そして彼には、この魔法の組み方に見覚えがあった。

どんな魔法においても、『個人差』が存在することは今の魔法学ではよく知られた事実である。指紋や線条痕と同じく、魔法にも変えられない証拠というものは存在していた。


「…」


その痕跡を前にタバレは拳銃を持ったまま施設の中を進んでいく。

寂れた施設は全ての収容物を引き払ったあとで、一つずつ部屋を確認していくが、何も残されていない空っぽな部屋が続いていた。窓からは夕日の日差しが差し込み、オレンジ色が部屋を染め上げる。


タバレは一つずつ部屋を確認して、吸い寄せられるように吹き抜けのホールまで出てくると、そこには一つのテーブルと二つの椅子が用意されていた。


「…綺麗だ」


そのテーブルと椅子は埃一つ無く、テーブルの上にはチェス盤と駒が用意されている。これは一般市民でも買える安い工業品だが、綺麗に並べられたまま放置されていた。

床には埃が溜まっているのに、テーブルと椅子は綺麗なので、後から用意されたものだと推察できた。


「お待ちしておりました」

「っ!」


その時、後ろから声が聞こえて咄嗟に銃口を向けると、二階の階段上から一人の影が夕陽に照らされて姿を現す。

その影は黒一色で統一され、黒いトレンチコートに同色の中折れ帽、靴や手袋に至るまで黒に染められていた。


「タバレさん」


その人物は顔に認識阻害、喉に変声魔法をかけており、タバレには顔全体の像がぼやけて認識できなくなっていた。

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