↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
38/39

第38話 卵は敵だ

 ドンドンドン!!


「開けろ!」


 アレクシスが重厚な扉を拳で叩く。


〈今それどころじゃない!〉


 扉の向こうから。


 住民の裏返った声が返ってきた。


「中で何が起きている!」


〈だから分からないんだよ!〉


 ガコン!


「!」


 扉の横。


 小さな搬送口が開いた。


〈うわぁぁぁ!!〉


〈早く出ろー!〉


 住民たちが。


 転がるように飛び出してくる。


「今だ」


 レイナが動いた。


 すれ違いざま。


 狭い搬送口へ滑り込む。


「勝手に入るのか!?」


「今さらだろう」


「……それもそうだな!」


 アレクシスとノヴァも続いた。


 ◇


 《判定区》。


 三人が中央へ飛び込む。


 まず。


 鼻を突いたのは。


 あの臭いだった。


「……濃いな」


 甘い。


 なのに。


 腐ったような臭い。


 頭上では。


 太いレーンが何本も走っていた。


 その上を。


 光る塊が次々と流れていく。


《糖質――栄養》


《脂質――栄養》


《タンパク質――栄養》


「ここで判定してるのか」


 アレクシスが表示板を見る。


 その時。


「来た」


 レイナが呟いた。


 レーンの奥。


 黄色い光。


《卵由来成分》


 三人の目が。


 同時にそこへ向く。


 黄色い塊が。


 判定位置へ入った。


 ピピッ。


《卵由来成分――判定:栄養》


「……」


 アレクシスが目を見開く。


「栄養……?」


 次の瞬間。


 ザザザザッ――!!


 黒い線が。


 表示板を横切った。


 緑の文字が。


 黒く染まる。


《卵由来成分――判定:栄養》


 ザザッ――。


《敵性物質》


「……!」


 ガコン!!


 警報が鳴り響いた。


 赤い光が。


 判定区全体を染める。


〈また変わった!〉


〈俺たちは《栄養》って出したぞ!〉


〈防衛区へ連絡!〉


〈卵を止めろー!〉


 住民たちが一斉に走り出す。


 だが。


 ノヴァは。


 表示板を見ていなかった。


「……見つけた」


「何がだ!」


 ノヴァが指さす。


 壁。


 さっきの黒い線が。


 そのまま奥へ伸びていた。


「追うよ」


「それだけでいいのか!?」


「十分だよ」


 レイナがすでに走り出す。


「発信源へ行く」


「お前たち決断が早すぎるぞ!」


 その時。


〈外来異物三体、確認!〉


「っ!」


 背後。


 聞き覚えのある声。


〈判定区へ侵入!〉


〈逃がすな!〉


〈――包め!〉


「また来たのか!!」


 白衛隊。


 パカッ!!


 白い殻が開く。


 バシュシュシュッ!!


 捕縛膜が飛んだ。


「散れ!」


 三人が跳ぶ。


 バンッ!!


 白い膜が床へ叩きつけられる。


〈第二班、回り込め!〉


〈第三班、先へ!〉


「急げ!」


 レイナが叫ぶ。


 三人は。


 黒い線を追った。


 右。


 左。


 細い通路。


 階段。


〈待てー!〉


「待つわけないだろう!」


 アレクシスが叫び返す。


「お前らは本当にカナタの一部なのか!?」


〈本体を守ってるんだ!〉


「俺たちも本体を助けに来たんだ!!」


〈知らん!〉


「少しは話を聞け!!」


 走る。


 さらに。


 走る。


 だが。


 進むにつれ。


 少しずつ。


 街が変わっていった。


「……?」


 レイナが周囲を見る。


 光が。


 減っている。


 道も細い。


 さっきまで並んでいた建物も。


 なくなっていた。


 そして。


「……誰もいないな」


 アレクシスが呟く。


 住民が。


 一人もいない。


 あれほど騒がしかった街が。


 静まり返っている。


 黒い線だけが。


 壁を這い。


 さらに奥へ進んでいく。


「まだ続いてる」


 ノヴァが言う。


「追うぞ」


 レイナは止まらない。


 背後からは。


 白衛隊の足音。


 前には。


 黒い線。


 それを頼りに。


 三人は。


 さらに身体の奥へ進んだ。


 やがて。


 通路が。


 途切れた。


「……行き止まりか?」


 アレクシスが足を止める。


 目の前。


 巨大な。


 真っ黒な壁。


「……」


 左右。


 上。


 どこまで続いているのかも分からない。


 光さえ。


 吸い込んでいるように見えた。


 そして。


 黒い線だけが。


 その壁へ伸びている。


 するり。


 壁の中へ。


 消えた。


「……入ったぞ」


「ああ」


 レイナが黒い壁を見上げる。


 ノヴァも。


 解析機を向けた。


 ピピピピッ――。


《生体反応――なし》


《測定不能》


「……」


 ノヴァの眉が。


 わずかに動く。


「何だ?」


 アレクシスが訊く。


 だが。


 ノヴァは答えない。


 もう一度。


 解析機を向ける。


 ピピピピッ――。


《生体反応――なし》


《測定不能》


「ノヴァ」


「……おかしい」


「何がだ」


 その時。


 背後。


 ドドドドドドッ!!


〈いたぞ!〉


〈追い詰めた!〉


〈逃がすな!〉


 白衛隊が迫ってくる。


「まずいぞ」


 アレクシスが振り返る。


 レイナは。


 黒い壁を見たまま。


 剣の柄へ手を置いた。


「進むしかない」


「あの中へか?」


「黒い線は入った」


 一歩。


 前へ。


「なら、私たちも行く」


「待って」


 ノヴァの声だった。


 レイナが止まる。


「何だ」


 ノヴァは。


 黒い壁を見つめていた。


 さっきまでの。


 楽しそうな笑みはない。


 足元から。


 ずっと感じていた鼓動も。


 この場所では。


 ひどく遠い。


 ノヴァが。


 静かに呟いた。


「……この先」


 一拍。


「僕の知っている人体じゃないよ」


(第38話・完)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。