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第35話 カナタの中には街がある

 巨大な門を抜けた瞬間だった。


〈どいてどいてー!〉


「何?」


 アレクシスが振り返る。


 ドドドドドドッ!!


 光る袋を山積みにした巨大な荷台が、こちらへ突っ込んできた。


「おい!?」


 レイナがアレクシスの襟を掴む。


 ぐいっ。


 三人が道の端へ飛び退いた直後。


 荷台が目の前を猛スピードで通過した。


〈第七区画へ栄養便! 急げー!〉


〈道の真ん中に立たないでー!〉


「……俺が怒られるのか?」


 アレクシスが呆然と見送る。


「邪魔だったからじゃない?」


「俺は今初めてここへ来たんだぞ!」


 その横を。


 今度は白い糸の束を抱えた住民たちが駆け抜ける。


〈修復材足りないぞー!〉


〈東側の壁、また裂けたって!〉


〈急げ急げー!〉


 反対側からは、大きな袋を背負った住民。


〈撤去物通るよー!〉


「忙しいな……」


 アレクシスが周囲を見回す。


 柔らかく脈打つ地面。


 光る道。


 頭上を走る、巨木のような管。


 その間を。


 無数の住民たちが走り回っている。


 レイナが目を細めた。


「……細胞が人になっているのか?」


「いや」


 ノヴァが携帯解析機を眺めながら答える。


「《運ぶ》《直す》《守る》みたいな、身体の仕事が形になってるんだと思う」


「仕事が?」


「たぶんね」


「たぶんで済ませるな」


「僕の知ってる人体には街なんてないからね」


「世界最高峰の医者だろう!」


「だから困ってるんだよ」


 ノヴァは楽しそうだった。


 アレクシスが額を押さえる。


「……本人より元気だな、こいつら」


「カナタだからな」


 レイナが真顔で言う。


「どういう意味だ」


「行くぞ」


「説明しろ!」


 レイナはすでに歩き出していた。


 ◇


 街を少し進んだところで。


 突然。


 前方から甲高い音が鳴った。


 ピピッ――!!


 三人が足を止める。


 そこには。


 大量の光る荷物が次々と運び込まれる、大きな検問所があった。


〈糖質、問題なし!〉


〈脂質、通してー!〉


〈次!〉


 次々と荷物が流れていく。


 その中に。


 黄色い光を帯びた荷物が入ってきた。


 ピピピピピッ!!


《卵由来成分検出》


 ぴたり。


 住民全員が止まった。


〈……卵?〉


 一人が呟く。


 次の瞬間。


〈卵だぁぁぁぁ!!〉


「っ!?」


〈止めろー!〉


〈近づけるな!〉


〈防衛区へ回せー!〉


〈誰か扉閉めてー!〉


 ガコン!!


 巨大な扉が落ちた。


「待て待て待て」


 アレクシスが目を丸くする。


「ただの栄養だろう!?」


「本来ならね」


 ノヴァが壁を指した。


 黒い文字が浮かんでいる。


《警戒対象――卵》


《全域警戒――卵由来物質》


 レイナの表情が変わる。


「……これか」


「たぶん」


 ノヴァが黒い表示へ近づいた。


「僕が言ってた『身体に嘘をついてる』っていうのは」


 指先で表示を示す。


「こういうことみたいだね」


「卵を、敵だと思い込んでいるのか」


「うん」


 その時。


 ウウウウウウウウ――ッ!!


 今度は。


 街中に警報が鳴り響いた。


「また卵か!?」


「いや」


 ノヴァが上を見る。


 頭上。


 赤い文字が次々と浮かんだ。


《警告》


《外来異物――三体》


「……三体?」


 アレクシスがゆっくり三人を見回した。


「まさか」


 レイナが短く答える。


「私たちだ」


「だろうな!!」


 ガコン!!


 背後の道が閉じた。


 ガコン!!


 右。


 ガコン!!


 左。


「おい!」


 次々と巨大な壁がせり上がる。


〈異物だー!〉


〈外から入ってきたぞー!〉


〈白衛隊を呼べー!!〉


 さっきまで働いていた住民たちが。


 一斉に逃げ出した。


「白衛隊?」


 アレクシスが呟く。


 ズズズズズズ……。


 遠く。


 建物の向こうから。


 白いものが見えた。


 一つ。


 二つ。


 十。


「……なんだ、あれは」


 姿を現したのは。


 全身を丸い白装甲で覆った集団だった。


 表面には細かなひび模様。


 巨大な卵の殻を、そのまま鎧にしたような姿。


 剣も槍もない。


 代わりに。


 腕や背中から、白い膜が垂れている。


〈外来異物三体、確認!〉


〈壊すな!〉


〈包め!〉


〈外へ出せ!〉


 アレクシスが大剣へ手を伸ばす。


「敵か?」


「待って」


「何だ!」


 ノヴァが白い集団を見る。


「たぶん、カナタ君の免疫だよ」


「……」


 アレクシスの手が止まった。


「つまり?」


「斬るとカナタ君が困る」


「……」


 白い集団が一斉に前へ出る。


〈第一班、前へ!〉


〈周りを壊すな!〉


〈本体保護を最優先!〉


〈今回は本体が無茶して作った傷じゃないぞ!〉


〈珍しい!〉


〈感心してる場合か!〉


「……待て」


 アレクシスが眉をひそめる。


「今、何と言った?」


 ノヴァが爽やかに答える。


「カナタ君が自分で傷を作る方が多いみたいだね」


「そんな身体あるか!」


「カナタだからな」


 レイナが頷く。


「お前まで納得するな!!」


 その時。


 白衛隊が一斉に構えた。


〈第一班――殻開き!〉


 パカッ!!


「……は?」


 白い装甲が。


 本当に殻のように開いた。


 その内側から。


 ぶわっ!!


 大量の白い膜が膨れ上がる。


〈捕縛膜、展開!〉


 アレクシスの顔が引きつる。


「嫌な予感がするぞ」


「奇遇だね」


「お前は楽しそうに言うな!」


〈――包め!〉


 バシュッ!!


 白い膜が一斉に飛んだ。


「散れ!」


 三人が左右へ跳ぶ。


 バンッ!!


 直前まで立っていた地面が、白い膜で覆われた。


 さらに。


 上。


「来るぞ!」


 レイナが叫ぶ。


 頭上から。


 二枚目。


 三枚目。


 巨大な白い膜が重なって落ちてくる。


「ノヴァ!」


「何?」


「こいつらを斬れないなら!」


 アレクシスが迫る白膜を見上げる。


「どうしろと言うんだ!?」


 ノヴァが即答した。


「逃げよう」


「またそれかぁぁぁ!!」


 世界第二位の絶叫とともに。


 巨大な捕縛膜が。


 三人へ降りかかった。


(第35話・完)

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