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歪みの果てに君を呼ぶ  作者: ネネルネ
第1章 白鎌の少年
41/88

41話_月例実技測定

翌朝、学院の掲示板の前に人だかりができていた。


珍しいことではない。


授業予定。

実技場の使用割り当て。

寮の注意書き。

食堂の献立変更。


学院の掲示板には、毎朝何かしらの紙が増える。


ただ、今日の人だかりはいつもより大きかった。


戦闘科の生徒が多い。


上級生もいる。


ざわめきの質も、少し違っていた。


「来たぞ」


「今月もやるのか」


「延期になると思ってた」


「灰衣の件があったのに?」


「だからこそ、じゃないか」


カイルが背伸びして掲示板を見る。


「何だ?」


アーヴェルはすでに内容を読んでいた。


「月例実技測定だ」


「げ」


カイルが分かりやすく嫌そうな顔をする。


「げ、とは何だ」


「いや、嫌ってわけじゃないけどさ。最近ずっと濃かったから、もうちょっと普通に飯食って授業受ける期間が欲しかった」


「実技測定も普通の学院生活だ」


「普通って厳しいな」


俺は人の間から掲示を見た。


大きな紙に、整った文字で書かれている。


『戦闘科月例実技測定 実施通知』


日程は五日後。


一年から三年まで、戦闘科全体を対象とする。

基礎戦闘、魔力制御、模擬戦、班連携の四項目。

成績は暫定序列の更新に反映される。


その下に、赤い文字で追記があった。


『異常事案対応に関わった生徒についても、測定の免除は行わない。ただし、体調および監理局判断により一部制限を設ける場合がある』


カイルが俺を見る。


「リオン、出るのか?」


「たぶん」


「たぶん禁止」


「……出ると思う」


エルナが掲示を静かに見上げる。


「班連携もあるのですね」


「そこは悪くないな」


アーヴェルが言った。


「十二刻の合図や、昨日の通常連携がどこまで使えるか確認できる」


「普通の測定で使うのか?」


カイルが聞く。


「見えない灰色の線は出ないだろ」


「合図そのものは使える。方向、距離、対象。敵の位置共有や魔法弾の回避にも応用できる」


「なるほど」


カイルは少し考え、すぐに笑った。


「じゃあ、俺たち有利じゃね?」


「調子に乗るな」


アーヴェルが即座に返す。


「でも、ちょっとは有利だろ」


「使いこなせれば、だ」


エルナが小さく頷いた。


「合図だけでなく、動く側の判断も必要です。リオンの言葉を待ちすぎると遅れます」


「確かに」


カイルは腕を組んだ。


「見えない時はリオンに頼りすぎるな、ってことか」


「そうだ」


アーヴェルが言う。


「見える者がいることと、見えない者が考えなくていいことは違う」


その言葉は、昨日の訓練にも繋がっている。


俺の目は便利だ。


だが、それに頼りきれば危うい。


俺が見誤れば全員が崩れる。

俺が見すぎて止まれば、全員の動きも止まる。


班として戦うなら、それでは駄目だ。


「リオン」


エルナが言った。


「無理に全部を見ようとしない練習にもなりますね」


「うん」


「測定で無理をしたら、普通に怒ります」


「普通に」


「はい」


最近、エルナの言う「普通に」は少し怖い。


カイルが肩をすくめる。


「怒られる前に止まれよ」


「努力する」


「そこは約束しろよ」


「約束する」


「よし」


まるでカイルが教官みたいだった。


掲示板の前にいた生徒たちの視線が、少しずつこちらへ集まっている。


無理もない。


白鎌のリオン。

暫定四位。

アーヴェルと相打ち。

カイルに勝利。

灰衣事件に関わった第一基礎班。


噂の材料には困らないのだろう。


「四位、更新されるかな」


「いや、測定項目次第だろ」


「でもアーヴェルと相打ちだぞ」


「黒月禁止でそれなら……」


「見た目は本当に細いのにな」


「でも大鎌持つと雰囲気変わるよね」


聞こえている。


やはり聞こえている。


俺は掲示板だけを見る。


カイルが横で笑いを堪えていた。


「言わなくていい」


先に言う。


「まだ何も言ってない」


「顔に出てる」


「白鎌の――」


「言うな」


エルナが少しだけ横を向く。


アーヴェルは真面目な顔で言った。


「噂は放っておけ。測定で結果を出せば、また別の噂に変わる」


「それも嫌だ」


「なら目立たないことだ」


「できると思うか」


アーヴェルは俺を上から下まで見た。


黒髪。

青灰の目。

細身の体。

監理局推薦の姓なし。

白い大鎌。


彼は少し黙った。


「難しいな」


「正直だな」


「嘘を言う理由がない」


カイルがとうとう笑った。


「アーヴェルまで認めた」


「うるさい」


そうしていると、掲示板の反対側からバルドが歩いてきた。


まだ訓練禁止のはずだが、制服姿で木槍は持っていない。


俺たちを見ると、少しだけ気まずそうに眉を寄せる。


「お前らも見たか」


「月例測定ですか」


カイルが言う。


「見ましたよ」


バルドは掲示を顎で示した。


「俺は見学扱いだとさ。検査が終わるまで正式参加はなし」


「そうですか」


俺が答えると、バルドは少しだけ鼻を鳴らした。


「悔しくないわけじゃねえ」


「はい」


「でも、今回は見ておく。お前がどこまでやるのか」


彼は俺を見て言った。


「白鎌」


その呼び方に、少しだけ眉が動いた。


だが、以前のような挑発ではなかった。


ただの異名。


あるいは、距離のある呼び方。


「リオンでいいです」


俺が言うと、バルドは一瞬目を瞬かせた。


それから、少し気まずそうに視線を逸らす。


「……リオン」


名前を呼ばれた。


少しぎこちないが、ちゃんと俺の名前だった。


「測定、見てる」


「はい」


カイルがにやにやする。


「バルド先輩、ちょっと丸くなりました?」


「うるせえ」


「前より話しやすいです」


「お前は前から馴れ馴れしい」


「よく言われます」


「だろうな」


バルドはそう言って、掲示板の前を離れていった。


その背中には、まだ悔しさがある。


でも、灰色の線は見えなかった。


それだけで少し安心した。


アーヴェルが言う。


「測定まで五日。準備期間としては短い」


「短いのか?」


カイルが聞く。


「十分な対策を立てるには、だ」


「俺、五日もあれば結構変われる気がするけど」


「その根拠のなさは少し羨ましいな」


「褒めてる?」


「違う」


エルナが掲示の下の細かい注意書きを読んでいた。


「班連携項目は、四人一組の固定班で行うようです。第一基礎班はそのままですね」


「相手は?」


俺が聞く。


「当日発表、とあります」


当日発表。


それは少し厄介だ。


相手の能力や武器に合わせた準備ができない。


だが、逆に言えば、基礎が問われる。


グレン教官の言葉が頭に残る。


異常な力を持つ者ほど、基礎を失えば早く崩れる。


「午後の実技、測定対策になるんだろうな」


カイルが言う。


「なるでしょうね」


エルナが答える。


「じゃあ飯を多めに食っとくか」


「測定対策が飯から始まるのか」


アーヴェルが呆れたように言う。


「始まるだろ」


「否定しきれないのが腹立たしい」


朝の掲示板前は、少しだけ騒がしかった。


だが、灰衣の気配はない。


旧礼拝室の黒い線も、ここからは感じない。


学院の普通の予定。


序列。

測定。

噂。

悔しさ。

期待。


そういうものが、少しずつ戻ってきている。


もちろん、完全ではない。


掲示板の端には、小さく別の通知も貼られていた。


『創世廊一部封鎖継続』

『中央棟地下区画立入禁止』

『治癒棟周辺警備強化』


日常の横に、異常の痕跡がある。


それが今の学院だ。


午前の授業を終えたあと、第一基礎班は実技場へ向かった。


昨日と同じ第一実技場ではなく、少し小さめの第二演習場だ。


グレン教官が待っていた。


エイムもいる。


ただし、今日は記録板を持っているだけで、観測術式は展開していない。


「月例実技測定の通知は見たな」


グレン教官が言う。


「はい」


四人で答える。


「今日から五日間、通常実技を中心に調整する。灰衣への対応訓練は必要最低限だ」


カイルの顔が明るくなる。


「本当に?」


「本当だ」


「よし」


「ただし、通常実技が楽だとは言っていない」


「ですよね」


グレン教官は床に四つの円を描いた。


「今日は個人能力の確認と、制限の整理を行う」


「制限の整理?」


俺が聞く。


「ああ」


グレン教官は俺を見る。


「リオン、お前は現在、訓練時に多くの制限を受けている。大鎌の顕現許可、黒月禁止、術式干渉禁止、身体干渉禁止、偏軌の使用回数制限。理由は分かるな」


「危険だからです」


「そうだ」


当然のことだ。


自分でも分かっている。


使い方を誤れば、味方の術式まで壊す。

相手の身体の線へ触れれば、取り返しがつかない。

黒月も、まだ制御しきれていない。


だが、グレン教官はそこで言葉を切らなかった。


「だが、制限された状態だけを基準にするな」


俺は顔を上げる。


「どういう意味ですか」


「今のお前の戦績は、制限込みのものだ。カイルと戦い、アーヴェルと相打ちになった。だが、それはお前が多くの手札を封じた状態での結果だ」


演習場の空気が少し変わった。


カイルが黙る。

アーヴェルの目が細くなる。

エルナも、静かに俺を見る。


グレン教官は続けた。


「勘違いするな。制限を外せば無敵だと言っているわけではない。未熟な力は、使い手自身を壊す。だから制限する」


「はい」


「だが、緊急時には制限を解除する場合がある」


その言葉が、妙に重かった。


「その時、お前が自分の力を恐れて止まれば、誰かが死ぬ。逆に、考えずに振れば、誰かを壊す」


喉の奥が少し乾く。


出し惜しみするな。


そんな言葉が、いつか来るのかもしれない。


だが、それは今ではない。


今は、その前の話だ。


「だから今日から、制限の中身を理解しろ。何を禁止されているのか。なぜ禁止されているのか。どこまでなら許可できるのか」


グレン教官は木剣を床に置いた。


「まずは、黒月の発生条件を確認する」


エイムが記録板を開く。


「黒月は、白鎌の軌道に空間の傷跡を残す現象です。現在、発生条件はリオン君の感情、守る対象の危機、白鎌の実振り、大きな軌道変化が関与している可能性があります」


「つまり、普通に振っても出ない時は出ない」


カイルが言う。


「はい。逆に、出したくなくても出る危険があります」


「それが怖いな」


「怖いです」


エイムは真面目に頷いた。


グレン教官が俺に言った。


「大鎌を出せ」


「はい」


俺は右手を開く。


空間に黒い亀裂が入り、白い柄が現れる。


白い大鎌が手に戻る。


演習場の空気が、少し冷えた。


昨日より、感触は安定している。


手の中にあるのに、身体の中にもあるような感覚。


「黒月を出すな」


「はい」


「ただ振る。大きく三回。力を込めすぎるな」


俺は頷き、大鎌を構える。


一振り目。


白い刃が空を通る。


黒い弧は残らない。


二振り目。


少しだけ刃元の黒い紋様が揺れた。


だが、黒月は出ない。


三振り目。


大鎌の軌道に、ほんの一瞬だけ黒い細線が浮かびかける。


俺は力を抜いた。


黒線は消える。


「止めたか」


グレン教官が聞く。


「はい」


「何をした」


「刃を通す先を、最後まで決めませんでした」


「説明しろ」


俺は少し考える。


「黒月は、刃が通った場所に残る感じがあります。でも、今は刃が通る事実を最後まで固定しないようにしました」


エイムがすぐ記録する。


「黒月発生抑制。軌道事実の固定を避けることで抑制可能性」


「難しい言い方になったな」


カイルが小声で言う。


「俺もそう思う」


アーヴェルは真面目に考えている。


「つまり、リオンは大鎌の軌道をただ振るのではなく、通ったこととして空間へ残している。その確定を避ければ黒月を抑えられる、ということか」


「たぶん」


「たぶん禁止」


グレン教官が言った。


「可能性があります」


「よし」


少しだけ空気が緩む。


次に、グレン教官は訓練用の魔法標的を三つ浮かべた。


青い球。

赤い球。

白い球。


「青は通常魔力。赤は攻撃術式核。白は防護術式。リオン、見るだけだ。触れるな」


「はい」


何度もやった訓練に近い。


だが、今日は少し違った。


グレン教官は、俺だけでなく班全員へ言った。


「お前たちも見ろ。リオンの見ているものは見えない。だが、リオンの呼吸、目線、手の動きは見える。リオンが触れそうになる前兆を覚えろ」


カイルが真面目な顔になる。


「止めるためですか」


「そうだ」


エルナは短い杖を握る。


「私たちは、リオンの制限の一部になるのですね」


グレン教官は少しだけ頷いた。


「そう言ってもいい」


制限の一部。


それは嫌な言い方ではなかった。


縛るためではなく、壊れないための制限。


俺を止める人たち。


俺が戻る場所。


「始める」


球が動く。


青、赤、白。


それぞれに線がある。


青は単純。

赤は壊しやすい。

白は触れれば防護全体が乱れる。


俺は見る。


赤い球の術式核に、壊せる線がある。


触れたい、とは思わない。


ただ、そこに指をかければ崩せると分かる。


以前なら、その分かる感覚に引っ張られていた。


今は少し違う。


見えている。


でも、手は動かない。


「赤、攻撃術式核。中心より少し左。触れれば崩せます。触りません」


俺は声に出した。


グレン教官が頷く。


「続けろ」


「白、防護術式。外側に偽の継ぎ目があります。本当の弱点は内側。触りません」


エイムの筆が止まる。


「偽の継ぎ目?」


「はい。触らせるための線みたいに見えます」


グレン教官がエイムを見る。


エイムはすぐに標的を確認した。


「……防護術式に誘導用の外縁線があります。通常は観測されにくい部分です。リオン君、今までより区別が細かいですね」


区別が細かい。


自分ではよく分からない。


だが、確かに見え方が少し変わっている気がする。


灰衣の線ばかり見ていたせいか、普通の術式でも「本当の線」と「触らせる線」の違いが分かりやすくなっている。


少しだけ成長しているのかもしれない。


「青は?」


グレン教官が聞く。


「問題ありません。ただの魔力線です。触る必要なし」


「よし」


球が消える。


グレン教官は短く言った。


「成長はしている」


その言葉に、胸の奥が少しだけ熱くなった。


「だが、制御が追いついているとは限らない」


すぐに冷やされた。


「はい」


「今日分かったこと。黒月は抑制の入口が見えた。術式線は以前より細かく分類できる。だが、それは同時に、触れる場所が増えたということでもある」


「はい」


「よく見えるほど、危険も増える。忘れるな」


「分かりました」


アーヴェルが静かに言った。


「なら、測定ではどこまで使う」


グレン教官は答える。


「月例測定では、黒月は禁止。術式干渉も禁止。偏軌は申告制で一度まで。白鎌は許可する」


「昨日と近い条件ですね」


エルナが言う。


「ああ。測定は実力を見る場であって、暴走確認ではない」


「つまり、リオンはまた制限付きか」


カイルが言った。


グレン教官は頷いた。


「そうだ」


カイルは少し考え込んだ。


「じゃあ、周りはまた勘違いしそうですね」


「何を」


「リオンがその範囲の強さだって」


演習場が静かになる。


俺はカイルを見る。


カイルは珍しく、軽口ではない顔をしていた。


「だって、俺も昨日戦って思いましたよ。強いけど、届くかもしれないって。でも今日の話を聞くと、それは制限された範囲なんだなって」


アーヴェルは黙っていた。


その表情は少し硬い。


カイルの言葉は、彼にも刺さったのだと思う。


アーヴェルは昨日、俺と相打ちになった。


だが、それは黒月も術式干渉もなしの話だ。


もちろん、制限を外せば俺が必ず勝つという単純な話ではない。


未熟な力は危険だ。

使えば自分も壊れるかもしれない。


それでも、手札の数は違う。


「カイル」


グレン教官が言った。


「その認識は正しい。だが、届くかもしれないという感覚も捨てるな」


「え?」


「リオンが別格の可能性を持つことと、お前たちが成長できないことは別だ」


カイルの目が少し開く。


「制限付きのリオンに届く。まずはそれでいい。制限が外れたリオンに届く必要が出る時が来るなら、その時までに強くなれ」


かなり無茶なことを言っている。


だが、カイルは少し笑った。


「分かりました」


アーヴェルも静かに言う。


「なら、私も前提を改めます」


「前提?」


「リオンを四位ではないと言ってきた。だが、評価不能を無理やり順位に置いた結果が四位なのだと理解した」


「それ、褒めてるのか」


俺が聞くと、アーヴェルは真面目に答えた。


「褒めている。ついでに、苛立ってもいる」


「なぜ」


「測れない相手を測るのは、剣士として面倒だ」


カイルが笑った。


「お前らしいな」


エルナは俺を見ていた。


「リオン」


「何」


「制限が外れる時があっても、一人で遠くへ行かないでください」


その言葉は、他の誰の言葉より胸に残った。


一人で遠くへ。


それは、灰衣の線を追う時にも似ている。


見えるから進む。

届くから触れる。

できるから使う。


そうして、戻れなくなる。


「行かない」


俺は言った。


「たぶん、ではなく」


エルナが静かに言う。


「行かない」


言い直すと、彼女は頷いた。


グレン教官は最後に全員へ告げた。


「測定までは五日。灰衣の件は沈静化しているが、終わってはいない。月例測定も、ただの行事では終わらない可能性がある」


カイルが嫌そうな顔をした。


「不穏なこと言いますね」


「現実だ」


「現実、また怒ってきそうだな」


「怒られないよう備えろ」


グレン教官は実技場の扉へ向かう。


「今日はここまで。各自、測定へ向けて調整しろ。リオンは大鎌の抑制感覚を記録。エルナは未来視使用後の疲労記録。カイルとアーヴェルは通常連携の改善案を出せ」


「はい」


それぞれ返事をする。


訓練が終わると、カイルが大きく息を吐いた。


「月例測定か」


「楽しそうだな」


俺が言うと、彼は笑った。


「まあな。灰色のやつよりは、分かりやすくていい」


アーヴェルが言う。


「分かりやすい相手ばかりとは限らない」


「でも、戦闘科っぽいだろ」


「それはそうだ」


エルナも小さく頷いた。


「私も、班連携でできることを増やしたいです」


俺は自分の右手を見た。


白い大鎌の感触は、もう消えている。


でも、黒月を抑えた時の感覚が残っていた。


刃が通った事実を、最後まで固定しない。


そうすれば、黒い弧は残らない。


なら、逆に。


固定すれば、もっと明確に残せるのか。


そう考えた瞬間、右手の奥で大鎌が微かに反応した。


まだ。


そんな気がした。


今ではない。


でも、いつか。


グレン教官が言った緊急時。


制限を解除する時。


その時に、必要になるかもしれない。


俺は手を握る。


今はまだ、測定へ向けて基礎を積む。


普通の戦闘。

普通の連携。

普通の学院行事。


その中に、少しずつ物語が動いている。


月例実技測定。


次の舞台は、五日後だった。


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