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第二章

 朝が、つらい。


 それに気づいたのは、装着された翌朝だった。


 目が覚める前から、身体が重い。


 ぼんやりした意識の底で、強い圧迫感だけが先にある。


 そして覚醒と同時に、朝人は気づく。


 身体は自然に反応しているのに、装具の中では大きくなりきれない。


 逃げ場を失った熱が、内側から押し返してくる。


「っ……」


 朝人は薄く息を漏らした。


 朝日がカーテン越しに差し込んでいる。


 身体は自然に反応しているのに、装具はそれを許さない。


 内側から押し返される感覚。


 熱を持ったまま行き場を失っている感覚。


 どうしようもなく落ち着かない。


 無意識に脚を閉じ、シーツを握る。


 苦しい。


 出したい。


 でも、出せない。


 最初の頃は、それだけで半ばパニックになっていた。


 鍵が欲しい。


 外したい。


 そんな考えばかり浮かんだ。


 けれど数日経つと、人間の感覚は少しずつ変わり始める。


 最近では、苦しさが来ること自体を身体が予測している。


 ――また朝か。


 そんな風に思ってしまう自分がいる。


 それが少し怖かった。


 大学へ向かう電車の中でも、装具の存在は消えない。


 座った瞬間に意識してしまう。


 歩き方が少しぎこちなくなる。


 講義中、ノートを書いていてもふと気になってしまう。


 誰にも知られていないはずなのに、見透かされている気分になる。


 その感覚は奇妙に孤独で、少し安心でもあった。


 夜はもっと静かだった。


 古い洋館は音が少ない。


 遠くの電車の音。


 廊下を抜ける風。


 時計の針。


 その静けさの中で、装具だけがやけに現実感を持つ。


 眠る前、どうしようもなく熱っぽくなることがある。


 出したい。


 でも、どうにもならない。


 結局、諦めて眠るしかない。


 そして朝、また苦しくなって目を覚ます。


 その繰り返しだった。


 ある朝、洗面所へ向かう途中で、管理人室の扉が半分開いていた。


 コーヒーの香りが漂ってくる。


「あ、おはよう」


 あきらさんが顔を上げた。


「……おはようございます」


「眠れた?」


 朝人は曖昧に頷く。


 彼女は少しだけ笑った。


「朝、つらかった?」


 心臓が跳ねた。


 見透かされたような気がした。


「……なんで」


「顔見ればわかるよ」


 あきらさんはマグカップを両手で包みながら言った。


「男の子って、朝は特に大変だもんね」


 恥ずかしかった。


 でも否定できない。


 朝人は黙ったまま視線を逸らす。


 あきらさんは、そんな反応を面白がるでもなく静かに続けた。


「でも、そのうち少し慣れる」


「……慣れたくないです」


「そう?」


 彼女は首を傾げた。


「もう少ししたら、朝起きて最初に確認するようになるよ。“ああ、今日も付いてる”って」


 朝人は返事ができなかった。


 実際、少しだけ心当たりがあったからだ。


 違和感はまだ強い。


 苦しい。


 不自由。


 なのに完全な異物ではなくなり始めている。


 お風呂で金属を洗うことも。


 寝返りを工夫することも。


 大学へ行く前に位置を気にすることも。


 少しずつ、“生活”になってきている。


 それが、一番怖かった。

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