IF:部屋消滅
月光商社へ入社して半年。
朝人は忙しかった。
朝早く出社して。
夜遅く帰る。
そんな生活だった。
救いは、土日出勤はないことだ。
その日も。
疲れた身体を引きずるようにアパートへ帰ってきた。
最近はアパートへつくとすぐ、管理人室へ行くようになっていた。
「ただいまです」
「おかえり」
あきら様は嬉しそうに微笑んだ。
それだけで疲れが少し軽くなる。
「今日も遅かったね」
「はい」
「頑張ったんだ」
「はい」
頭を撫でられる。
嬉しかった。
「そういえば」
あきら様が言う。
「最近、朝人君、自分の部屋使ってる?」
「え?」
考える。
確かに。
平日はほとんど寝るだけだ。
休日も。
朝から管理人室にいる。
自分の部屋へ戻るのは着替えを取りに行く時くらいだった。
「そういえば、あまり使ってないです」
「でしょう?」
あきら様は満足そうに頷いた。
「もったいないと思わない?」
「もったいない……ですか?」
「うん」
「家賃だって払ってるんだし」
確かにそうだ。
でも。
必要だから借りている。
そう思った。
思ったのだが。
「朝人君」
「はい」
「本当に必要?」
言葉に詰まる。
必要。
だろうか。
最近。
家にいる時間のほとんどを管理人室で過ごしている。
休日も。
あきら様のそばにいる。
部屋へ帰る理由が思いつかなかった。
「それに」
あきら様は笑う。
「朝人君がいない時間は私も寂しいんだよ?」
どきりとした。
その言葉がうれしかった。
「だから」
「管理人室で暮らしたら?」
「え?」
「空いてるスペースあるでしょう?」
管理人室はほかの部屋と比べると結構広い。
部屋の隅を見る。
たしかに、一画が空いていた。
「でも……」
「でも?」
「その……」
朝人は困った。
何が問題なのか。
うまく説明できない。
「私と一緒にいるの嫌?」
「違います!」
思わず大きな声が出た。
「嫌じゃないです」
「むしろ……」
言いかけて黙る。
あきら様は笑った。
「うん」
「知ってる」
頭を撫でられる。
「じゃあ決まりね」
「今月で部屋は解約しましょう」
「携帯電話も新しいのを買ってあげるね」
「あ、ご家族が心配するといけないから」
「手紙も書いておこうか」
「新しい部屋に引っ越すことになったって」
そうか。
これからの生活はあきら様の部屋で過ごすんだから。
いろいろ整理するんだ。
朝人はいつものように答えた。
「はい。あきら様、ありがとうございます。」




