55.紋の痛みが知らせるもの
私の番──風祭彬さん。
身長、高い。
体重、軽そう。細いし。
髪の毛、ふわふわ。パーマかな。
ピアスをいっぱいつけてる。
なんだかいい香りがする。
体は鍛えてる。細いけど筋肉質。
手は大きい。ゴツゴツしてる。
でも指は細い。掌の厚さはそんなでもない。
戦闘中は強い力で肩を抱き寄せるけれど、私が落ち込んでる時に指先を繋いでくれる時は、そっと優しい。
パッと見は簡単になんでもできそうに見えるけど、実はすごく努力している。
それを外には見せないようにしながら、目標に向かってひたむきに頑張る人──。
風祭さんが見つけた岩を前に、私は風祭さんのことを目をつぶって静かに考えていました。
風祭さんが杖を振る時、その杖はどんな長さで、どれくらいの軽さにすれば良いだろう。
一般的なデータをもとに作るんじゃなくて、私が知っている風祭さんが馴染む杖を作るんだ……。
私は目を開けると、風祭さんから預かっている岩の上に両手をそっと乗せました。
あなたはきっと風祭さんに惹かれて、見つけてほしかったんだよね?
力になりたいんだよね?
岩に語りかけます。
私も一緒なんだ。
だから、あなたの力を私に引き出させて。
そう祈って、私は深呼吸します。
この岩は大きく、そして軽い。
だから1本の杖を作れる。でもそう何本も適当に作るものではありません。
そんな素材に対して失礼な真似は許されません。
ここだ、という核になる場所を探りあてて、そこを魔道具として切り出していかなければ。
失敗は許されないのです。
深呼吸して、指に、掌に、腕に神経を集中して──。
私は岩の削り出しを始めました。
カチリ、という感覚が来ました。
核になる部分の削り出しに成功した──確かな感覚に、安堵で力が抜けそうです。良かった……!
3cm角の石の棒。それを両手に持って陽にかざしました。
核を削りださせてくれてありがとう。
良い杖になろうね……。
これから慎重に、私が知る風祭さんの魔力と手の情報を伝えながら形を整えていくのです。
魔力の交換をしたことで私の中の風祭さんへの理解は今までよりも更に深まっているはずです。
それを余すことなく杖に込めていくんだ──。
そう思いながら、私はその杖をそっと撫でました。
* * *
少しずつ、慎重に石の棒を研いでなめらかにしていきます。
これまでの私と風祭さんの間のことを思いながら魔力を注いで。
そろそろ一度見てもらおうかな……数日かけてそう思えるところまで磨くことができました。
そんなある日のお昼前。
「──っ……痛……っ!!!」
番の紋が急激に熱く、痛くなりました。
「紗良!?」
「秋月、どうした…!?」
工房にいた弥生ちゃんや里中くんが駆け寄って来ましたが、余りの痛みに咄嗟に声が出ません。
これはきっと、私じゃなくて風祭さんの痛みです。
でも普段とは違って、少しストレスを感じたくらいの軽い痛みではありません。
作業の手が止まり、紋を押さえて息が止まるくらい激しい。
痛みに耐えながら彼を案じる思いを紋に乗せてみたけれど、痛みは収まりません。
風祭さんに何かあったんだ……!
ここまでの痛みを感じたことは今までありません。
どうしよう、電話をかけてみようか……でも風祭さんは仕事中です。
それよりもまずは第6部隊本部に行ってみようか……。
心配そうに見つめる友達に礼を言って、急いで机を片付けて工房を飛び出したところに風祭さんからメッセージが届きました。
『緊急で話がある。頼みたいことがある。すぐに会えないか?』
いつもは風祭さんのメッセージは柔らかい言葉で送られてきます。
でもこの言葉は随分と直接的で要件のみが書かれていました。
やっぱり何かあったんだ……。
事情がよく分かりませんが、とりあえずメッセージを送れる状況ではあるようなので安心はしました。
『大丈夫です。今、学園です』
返事に紋の痛みのことを書いて良いかまでは分からず、私からの返事も簡潔になってしまいました。
返事を送った途端に
『じゃあこれからそっちに行くから』
と返事が来たので、急いで転移の魔道装置がある中央棟へ向かいます。
そこで私は、厳しい空気を纏った風祭さんを迎えることになるのでした。
「人に聞かれないところで話がしたい。裏山に行こう」
挨拶も何もなしにそう言われ、手を引っ張られて早足で裏山に向かうことになりました。
その時視線を感じ振り返ると、2階の窓から学園長先生がこちらを見ていました。
何か大変なことが起きている──。
薄々それは分かっていましたが、その後に聞くことになった内容は私の指先を冷やすほどの衝撃をもたらしたのです。




