54. 職務停止 2
3人の部隊長達に囲まれた華岡隊長の姿が見えなくなった途端、私は完全に力が抜けてその場に膝をついて座り込んでしまいました。
疲れた……疲れました。
動き回った後の緊迫したやり取り。
「紗良、大丈夫か?」
覗き込んでくる風祭さんだって、絶対に疲れ切っているでしょうに。
「……ごめん、難癖をつけられるだろうとは思ってたんだけど……ああいう方向の侮辱をしてくるとは思っていなくて……こんなことを耐えさせて、悪かった……」
風祭さんは片膝をついて謝ってきました。
「いえ、聞いていましたから大丈夫です」
微笑んで答えます。
──そう。私は昨日裏山で、今日起きるだろうことを聞いていたのです。
* * *
『戦闘魔術師長の前で訓練、ですか?』
『ああ。でも魔術師長が見たいのは俺達じゃない。その時の華岡隊長の指導だ』
『華岡隊長の視野の狭さがこの頃顕著で……俺達だけじゃなく他の隊員への指導もあまりにも強引なんだ。もともと強大な敵に向けて厳しい訓練が課されているのに、更に無茶な量の訓練をどんどん課してくる。そんなんで風祭のサポートができると思ってるのかって言いながら。日々の祓いもあるのにさすがに無茶だと訴えても、根性論で解決させようとするんだ』
『それをやっぱり田野上副隊長も気にしてて。俺が田野上さんに話を振った時には、もう弓削戦闘魔術師長まで相談が上がってた』
『もう魔術師長まで話が行っていたのですか』
『ああ。それで、俺や他の隊員達にも聞き取りがあった。ただ魔術師長は伝聞で判断するつもりはないから、第6まで来て指導現場を見たいと。それで、特に指導が感情的になりがちな俺達への訓練の場を見たいらしい』
『……そうですね、見ていただくと分かりやすいかもしれないですね』
『それで、明日になるんだが。仕上がりを見るって形で、隊長3名と副隊長3名を相手に戦ってほしい』
『……隊長3名に副隊長3名……?』
『できそうか?あまりにも無理そうなら……』
『……頑張ります』
『それでもし華岡隊長から今の状況に適していない感情的な指導が出た場合は、隊長を第6からいったん退かせるそうだ』
『それは、第6部隊としては大変なことですよね……』
『ああ。だけど、正直なところ皆もう今とまどいがすごいんで、魔術師長の判断を待っている部分もある。田野上副隊長なら穴をきちんと埋められる人でもあるし』
『……分かりました。隊長3名副隊長3名を相手にして演技の戦闘ができるほどの力は、私には全くありません。真剣に立ち向かって、華岡隊長のご指導を待とうと思います』
『負担をかけてごめん……必ず傍にいるから』
『頑張りましょう!』
* * *
そういう経緯があり、予測と覚悟の上で、私は華岡隊長からの言葉を浴びたのでした。
……色々と、言われましたけれど。やっぱり心がざわつきはしましたけれど。
でも私は今日の状況ではあの戦い方しかできませんし、そして恥じるような行動ではなかったと思っています。
頑張って一人で攻撃を耐え抜いた。
風祭さんに魔力の供給もできた。
最後はちょっとだけど結界で風祭さんのことも守れた。
そして、少し前に作った魔道具を最後にちゃんと使ってもらえた。
風祭さんは一人で6人を倒さないといけない中で、魔力を補給しながら戦い抜いた。
最後は普段の戦い方では敵わないと判断して魔道具を召喚して、タイミングをずらすことなくそれを振るえた。
──うん。全く恥じるようなことではないと思います。
体を使って男を堕落させるとか、女を抱え込んでとか、そんな風に非難されてしまうものではなかったよね。
だから。
「大丈夫です。本当に平気。私達、頑張りましたね」
ちゃんと心から笑えます。
私の笑顔を見て、それまで心配そうに見ていた風祭さんの顔が驚きで固まりました。
そして安心したように、ふわっと和らいだのです。
「……強くなったな」
風祭さんは、私のおでこにコツンとおでこをくっつけて、褒めてくれました。
褒められて嬉しくて、眉がへにゃっとなってしまいます。
「風祭、秋月」
床に座ってなごんでいた私達に、上から声がかかりました。
──弓削戦闘魔術師長……!
2人共ものすごい速さで立ち上がり姿勢を正します。
「今日の戦闘ご苦労だった。2人共よく動けていた。俺としてはあの戦い方に異議はない。今後も精進しろ」
「はい!」
……良かった。自分では疑問に思っていなくても、やはり上の方からも認めてもらえると安心が違います。
「華岡はいつ第6に復帰させるか分からん。田野上の指示に従うように」
「はい」
「ただし」
魔術師長が少し声を潜めました。
「秋月。魔道具作りを急げ。戦闘の訓練よりそちらを優先しろ」
低く静かな声はとても真剣なものでした。
その言葉が聞こえていたのは、私と風祭さん、そして魔術師長のすぐ脇にいた田野上副隊長だけでしょう。
その副隊長は表情を動かさず静かに聞いています。
──これは、どういう意味なんだろう……。
頭の中でめまぐるしく考えながら私は「はい」と返事をして、踵を返す戦闘魔術師長に頭を下げて見送りました。
その場に残った田野上副隊長と風祭さんと私の3人を沈黙が覆います。
それを田野上副隊長の言葉が破りました。
「秋月。改めて今日はご苦労さん。よくやれていたよ。このあと第6は会議に入るので、今日はこのまま学園に帰ってくれ。
そして、早急に魔術師長の指示に従うように。」
──魔道具を、急いで作る。
「魔道具作りに風祭が必要であれば最優先でそちらに行かせる。」
「はい」
「秋月、ただしな」
田野上副隊長は改めて私の目を見つめてきました。
「華岡隊長の職務が停止されたこと、そしてこの魔道具作りを最優先にということは他言無用だ。学園の先生方にも。訓練に行かなくて良いのかと尋ねられても適当に誤魔化すんだ。良いな?」
「……はい」
田野上副隊長の声は落ち着いていて、かえって質問を許さないものを感じました。
色々、確認したい……でも今聞かせてもらえるのはきっとここまでなのです。
だから、今できることを頑張るだけです。
風祭さんを見上げると「急がせてしまって悪い……こまめに連絡を取り合おう」と言われました。
その言い方が、申し訳なさもあるけれど、その奥に考え込んでいるものがあるみたいな口調で。
これは帰り次第、本当に急いで魔道具を作り始めなければ……そう、思ったのでした。




