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52. 魔力の交換

大きな力を感じる石を手に入れたことで素材探しは終了し、学園にゆっくりと戻り始める。


今日俺がここに来たのは素材集めが1番の理由ではあるけれども、実はもう一つ目的があった。

そのことを口にしようとした、その時。


「風祭さん」

紗良が声をかけてきたため、話そうとしたことをひっこめる。


「あの。これから大切な魔道具を作るので、この前先生が言っていた魔力の交換というのを先に試しておきたいです。より理解が深まった状態から魔道具作りを始めた方が良いと思います」


そのことか……うん、俺も、そうは思うよ……話題に出た以上は気になるよな……。

うーん……まあ、やった方がより繋がりは深まるのは確かなんだろうな……。


「外だし、周りに人もいないし。やってみるか……」

「はい」


「……あのな。なんというか。俺を嫌いになるなよ?」

「嫌いになるんですか?魔力の交換は嫌な感じになるんですか?」

「うーん。俺もやったことがないから予想なんだけど。ちょっと強引にお互いの魔力に干渉することになると思うんだ。そういうの、慣れてないだろ」

「強引に干渉?」

「うん。曖昧にしか言えないんだけど。もしそういうのが嫌そうだったら、やらなくても良いと思う」


曖昧な言い方になってしまうのでうまく伝わったかどうか。

紗良は考え込んでいたけれど、あまり想像ができなかったのだろう。


「とりあえず、試しましょう。後からやっておけば良かったとなって、魔道具の作りなおしになっても困りますから」

「うん。まあ、そうだよな……やめてくれって時はちゃんと言えよ?」

「はい」


さて。どうすれば良いかな。

……いや、番同士の魔力の交換方法なんて、最適なやり方は実際のところは分かってはいるんだけど。

でも俺達はそれをするわけにはいかないので。


結局、紋に触れるしかないのかなと思う。


「紗良、首元のとこ、ちょっとだけ服をずらせるか?悪いけど直接紋を触らせてもらう。嫌なら言えよ。必ず言え」


しつこく確認する。

嫌がる女子高生の肌に触るなんて、あまりにも犯罪者すぎる。


「紋を触るんですね。大丈夫です。風祭さんもお願いします」


紗良はさっさとパーカーの下のシャツをずらしたので、俺も胸のシャツのボタンを……ボタンを……どうして俺は今日Tシャツを着てきているんだ……。

夏で、会議に参加するわけでもなく裏山に行くだけだと思ってたからだよ。


仕方なくシャツの裾を引っ張った。

そこから手を入れてもらうしかない。

結果的に紗良が俺に近づかないと紋に触れられなくなり、だいぶ体同士が近くなってしまう。


……ここが裏山でほんっっっとうに良かった。

女子高生に自分の胸を触らせる男なんて、他人に見られたら通報される。


そんな俺の自虐的な思いなど気付きもせず、紗良は細い指で俺のシャツの裾を少しめくるとそっと手を入れてきた。


──互いの紋に指が触れる。


それだけで、紋が熱を持ってくるのが分かる。

紗良が触れている指の上の服に頭をスリ、と寄せてきた。

こいつは甘えたい時にいつもこうする。


もう魔力の交換をすると決めたんだから。

俺も我慢することなく、右手で紗良の首筋に触れながら左手で紗良の頭を抱きかかえた。


「俺の紋に魔力を送れ。俺もお前の紋に魔力を送る。……嫌だと思ったら言えよ。すぐにやめるから」

「はい……」


自分の胸元から生まれる魔力を意識して、それを右手の指先に……俺の、唯一の番の紋に魔力を送り込む。


自分の魔力が流れていくのを感じ、そして同時に胸の紋から入ってくる紗良の魔力を感じる。

 

心地よくて、あまりにも体に馴染んで。

体のすみずみまで癒し、まるで細胞が生き返るかのように、新しい息吹を与えていく。


これが、俺の唯一の番が与えてくれるもの……。


「───っ!」

か細い悲鳴と共に、紗良の身体から力が抜けるのを抱きとめる。

意識までは手放してないけれど、その瞳は潤んで息は乱れ、唇が震えていた。


互いの紋から指を離すと、俺は紗良を抱きかかえて近くの岩に座った。

そっと額を合わせる。


「大丈夫か?」

尋ねると、言葉はないもののコクリと頷く。

そして、クタリとしたまま俺に体を預けてくるので、改めてしっかりと抱きかかえる。


「……魔力、分かったか?」

「……はい。魔道具作りに活かせると思います……」

先ほど全身で味わった感覚を口にするのはあまりにも生々しくて、結局そういう会話しかできない。


目をつぶり自分の身体の中の魔力を意識する。

その質が劇的に変わっているとは思わない。

それでも腕に抱えた紗良に反応するのか、これまでよりも強い魔力が湧き上がってくるのを感じる。

それが身体を回るたびに、体の隅々の感覚が呼び覚まされていくのを感じるのだ。

そしてその感覚が紗良にも同時に起きていることを番の紋が教えてくれている。


その悦びは深くこの身に刻まれて。

もっとこの、唯一の番に触れたいと思わされてしまう。


──全く。番というのは本当に厄介なものだ……。


でも魔力の交換をしている最中も終わったその後も、俺達は互いに拒む気持ちになれなかった。

今も俺は紗良を腕の中に抱えて、紗良は腕の中でその身を任せている。


結果としてある一定の方向に関係が向かう可能性を身体に刻んだのかもな……。

そのことは、俺の心にとっても嫌なことではなかった。



魔力交換の余韻と互いへの執着に身をゆだねながら、ゆっくりと思考を切り替える。

今日は紗良に緊急で頼み事をしなければならない。


「紗良。頼みがある。大事な頼みだ」

腕の中でクタリとしている紗良の額に軽く口づけて囁くと、その目と身体に力が戻ってくる。

俺にまっすぐに焦点を合わせたその目を見つめ、改めて伝える。


「これから話すことは、お前に負担をかける。少なくとも体に。もしかしたら心にも。 

でも傍にいる。必ず守るから、どうかこれから言うことを聞いて、もし協力できるということであれば頼まれてほしい」


もし話をして紗良に拒絶されたなら決して無理強いせずに別の案を考えるよう上に言おうと決めながら、俺は口を開いた。

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