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51. 素材探し

朝7時の学園。

転移したそこにはほっそりしたパンツ姿の紗良がカゴをいくつか持って立っていた。

笑顔で「おはようございます」と挨拶してくれる少女に、俺も「おはよう」と挨拶する。


よく晴れた夏の朝。

素材探しは早朝がお勧めです!という紗良の言葉で、こんなにも朝早いスタートになった。

今日は魔道具の素材探しの日だ。



学園の裏から山に分け入ると、深い木々が作る陰で山道はうっすらと暗い。

しかしまだ残る明け方の気配がだんだんと薄れていき、木々の合間からは明るい日差しがチラチラと漏れてくる。

そこに水の流れる音や木々のぶつかる音、そして鳥のさえずりが聞こえていた。


「朝の山の中ってこんなに気持ち良いんだな」

「そうなんです。山は同じ季節でも時間帯によって全然雰囲気が違うんですよ」


学生の頃、戦闘魔術科だった俺は学園の訓練場の中で過ごすことがほとんどで裏山の散策なんてしなかった。

それを勿体なかったなと後悔するほどに夏の山の朝は気持ちが良い。


「これは自分の問題かもしれませんけれど、寝て感覚がリセットされるせいか朝は自然からエネルギーを受け取る力が冴えてる気がして。そのせいか、素材を見つけやすいんです」


学園の結界のおかげでこの裏山には不審者が入ることもないため、紗良はこの5年あまり好きな時に森に入っては素材を集め続けているという。


「魔道具に向いている素材は私には光って見えます。風祭さんにも感じられるとして、どういう風にそれを風祭さんが認知できるかは分かりません。何か気になるなというものがあったら手に取ってみてください」


なるほど。必ずしも光っている訳じゃないかもしれないんだな。


「風祭さん、素材センサーを高めるために手を繋ぎましょう」

「はいはい」 


この前 観察された時のように手を預ける。

素材を見つけるための役割として、装置としての手つなぎだ。

たまに指を繋ぐ時はもっと特別な感情を持っているのだというのが改めて分かったりもして、手を繋ぐというのにも色々意味があるのだなと思った。


紗良はコンスタントに素材を見つけているようで、「すごい、今日はすごいです」と言いながら俺にはただの石に見えるものをカゴに入れていく。

その度に一つ一つ掲げて、静かに何かを唱えている。

素材を与えてもらえたことへの感謝を述べているらしい。なるほど。


「見た感じは普通な石に見えるけど、紗良にはこれが光って見えるのか?」

「はい。今日はキラキラしてます。風祭さん効果、すごいです」

「そうなのか」

「こうしてカゴに入れて並べていると相性みたいなものを感じる時もあるんです。そういうのは相乗効果があったりするので、研究科の先生にも相談したりしながら、同じ魔道具に使ったりもします」

「ほー」


在学中は治癒科の生徒とはよく話したが、魔道具科や研究科とはそこまでは接点がなかった。

もっと色々と話してみればよかったなと後悔する。


そんなことを思いながら歩いていると……足元から何かこう、エネルギーのような……ズウウゥン……としたものを感じる気がする……。


「風祭さん?」

急に立ち止まった俺を紗良が振り返る。


「紗良。……なんか、足元にある気がする」

そう言うと紗良の顔がパアアッと明るくなった。


「それは何かあるかもしれませんね!」

いそいそとカゴからシャベルと軍手を2人分出す。


「足元ですね?掘りましょう!どの辺ですか?」

「ここかな……」


エネルギーを感じた場所を掘っていくと、ますます何か湧き上がってくるものを予感する。

そして。


「あっ」

「これだ……」

紗良が声を上げるのと、俺が呟いたのはほぼ同時だった。


湿った土の中、大きな石……いや、もう小さな岩とでもいうくらいの塊。

想像していたよりも大きいけれど、土まみれの普通な岩だ。

でも確実にその岩から強い力を感じる。


「掘り出しましょう」

紗良の言葉にスコップで周りを掘っていく。


掘り始めてみるけれど、なかなか動かせるところまで掘り出せない。

これは相当大きいんじゃないか?持って帰れるか?と思ったけれど。

周囲の土から掘り出して抱えてみると、それは見た目から想像するよりかなり軽かった。

拍子抜けするほどだ。


「軽い」

俺の言葉に紗良も持って「あら、本当に軽いですね」と驚いている。


「すごくキラキラしてますね……」

黒い土にまみれた岩を見ながら、紗良はうっとりしたように言う。


「キラキラしてるか?」

「はい。とても。風祭さんはどう感じてますか?」

「キラキラは見えない。でもすごく強い力を石の内側から感じる」

「それが風祭さんの素材の感じ方なんですね」

そうなのか。


「何を作りましょうね。使い手になる風祭さんがピンとくるものがあったら、それがその素材のあるべき姿だと思うんですよ。風祭さんが呼び寄せた石ですからね。

これだけ軽ければ核にするだけじゃなく、石の剣なども作れると思います」

紗良は抱えられた土まみれの岩に頬ずりしかねないくらい、ほうっとしながら顔を近づけている。


何を作るか……。

強大な敵というのがどういうものかにもよると思うんだよな……。


一般的な瘴気は人から生まれて、そのままその人を依り代にするけれど。

強大な敵は長年たまったものが急激に成長すると聞いている。

それは実体があるのか。如月の時は実体がなかったようだけれど、それでも片桐副隊長の胸を物理的に貫いている。それは実体ではないのか?


俺が考え込んでいると、

「では、どういう戦い方をしたいですか?」

と紗良が視点を変えるように尋ねてきた。


「向かってきた瘴気を受け止めて切り裂きたいか、それとも流しながら昇華させたいか。どういう感じの戦い方が合っているでしょう?」


そう尋ねられると……自分はそもそもは直接戦う方ではないので、流しながら昇華させる方が合っていると思う。

そう答えると、


「では、杖のようなものにしてみますか?」と言われた。


杖……。


「この石を核にして……いえ、これだけ軽いですからこの石だけで1本の杖を作って。あまり長くなく手の一部のように使えるようなものを」


頭の中でイメージしてみる。

手の一部のように振るえる杖。

魔力を出すことも、瘴気を受けながらも流しながら祓える魔道具……。


「杖が良い気がする」

そう答えると「かしこまりました!」と紗良が笑った。


──魔道具が決まった……。


近くを流れていた川の水で石を洗い、大切にカゴにしまう。

その時に、山に礼を言うように紗良に言われた。


「石をありがとうございます。大切に使わせていただきます」


こんなにも力のある石を、俺と紗良に与えてくれた。

きっと良い魔道具になる。

力になってくれる。

本当にありがたいことだ。

俺は心から礼を言った。

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