49. 番ならではの魔道具作り
魔道具科の工房の外には、製作した魔道具を試すための試し場がある。
そこに職員会議を終えた教師達が合流してきて、今日の打ち合わせが始まった。
紗良には短剣を依頼していた。
共に戦うと決めてから初めての依頼だ。
今の自分達の関係でどういう魔道具が作れるのか、俺の魔力との相性はなどを初めて確認することになる。
まずは一振り……狙いたいところにまっすぐに魔力が届く。
休む間なく幾度も繰り出すが、魔力は滞りなく、そして途切れることなく素直に繰り出せた。
「うん。良いと思う」
傍らで見ていた紗良がホッとした表情を浮かべる。
魔道具科の教師達も満足そうだ。
そこに戦闘魔術科の教師から注文が出た。
「風祭。短剣をそこに置いて、まずは詠唱で魔力を出して。そして短剣を召喚して振ってみろ」
「はい」
戦闘魔術科の教師達は、俺が学生時代に世話になった人達ばかりだ。
外で会うと独立した戦闘魔術師として尊重して扱われるが、学園の中で俺だけの時はついつい教師と生徒の関係に戻りがちになる。
その教師達は俺が各部隊長に指摘されてきたことを報告書で目にしているのだろう。詠唱から魔道具への切り替えを見たいようだ。
詠唱で魔力を放ち短剣を召喚。手の中にあることを確認して、魔力を右手に流して──。
「……遅い」
教師の言葉に反論できない。
俺自身が分かっている。
正直なところ、魔道具を使うか分からない状況でも最初から手に持っていた方がましなんじゃないかと思うくらいだ。
「あの……」
黙って見ていた紗良が声をかけてきた。
とことこと歩いてくると、俺の前に立つ。
「あの。見ていると、召喚する瞬間に魔力が右手に集まっています。
でも魔道具を体で認識するためなのか、一度魔力が胸元に戻って体内を一巡しているみたいで」
控え目な口調ではあるけれど、突如俺の体内の魔力の動きの解説を身振り手振りで始める。
そんな紗良を教師達が注視した。
「一巡したあとにまた胸元から右手に魔力が向かってます。この魔力の動きをもう少し簡略化できれば、かかる時間を短くできるかも……」
「……秋月。お前、風祭の体内の魔力の動きが見えるのか?」
「……?はい。見えます」
紗良が戸惑ったように答えて、俺を見上げる。
「俺も、秋月の体内の魔力は見えています。」
「えっ。私の魔力も見えてるんですか?私の魔道具を風祭さんが使っているからではなくて?」
「ああ。俺がお前を見る時は結界を張る時だから、体の内側から外側へと放出するような動きだけどな」
「ええぇ……人の体を見るなんて……」
「おい、人を犯罪者みたいな言い方をするな。お前だって見てるだろ」
「だって見えるんですもの」
「俺にだって見えるんだから仕方ないだろ」
「ええぇー」
「これが番か……」
言い合う俺達をよそに教師達が呟いている。まあそういうことなのだろう。その言葉に肩をすくめるしかない。
でも魔力がそんな無駄な流れをしていたら繰り出す時間が遅くなるのも無理はない。
自分の体内の魔力のコントロールは学生の頃から学んできているとはいえ、それは意識して動かすということ。
戦闘中にそちらに意識を取られるということは命に直結する問題だ。
どうしたものか……。
考え込んでいると、研究魔術科の教師が口を開いた。
「秋月、風祭の手を調べろ」
■ ■ ■
「秋月、風祭の手を調べろ」
研究魔術科の先生の言葉に私は首をかしげました。
風祭さんの手を?
「風祭はまず手で魔道具を召喚するだろ。その時にお前の魔道具が風祭の手にすぐに馴染めば、風祭は全身に魔道具の出現を伝えなくても良くなるんだ。戦い方が変わることを全身に伝えなくても良くなる。だから、その手がどういう手なのか探れ。どういう手がお前の魔道具を持つのか」
どういう手……「失礼します」と風祭さんの手を両手で取ります。
どういう手……観察して、握ってみて、押してみて、そっと指を曲げてみたりして。
今まで手をつないだことは何度もありますが、こういう風に観察対象にしたことはありませんでした。
グーを作らせてそれを私の両手の中でギュウギュウしている私に、研究魔術科の先生がまた声をかけてきます。
「観察したか?感触を覚えたな?それを魔道具に伝えろ。お前の感じた風祭の手を魔道具に教えるんだ」
魔道具に私の感じた「風祭さんの手」を伝える……。
剣を手に取ります。
そしてその柄を両手で持って、目の前に掲げて。
まだ手に残っている風祭さんの手の感触を流し込んでいきます。
番の紋がほんのりと熱を帯びて、そこから生まれる私の魔力に風祭さんの手の記憶を乗せます。
大きさ、暖かさ、そして握りながら感じた風祭さんの手に満ちた彼の魔力を、私の魔力に乗せて──。
「あ……」
カチリ、とした気配を剣と私の間に感じました。
「伝えらえました」
嬉しくなり風祭さんを見上げると、風祭さんが目を細めて私を見ていました。
「うん。お前の魔力が首筋から剣に流れていくのが見えた。……綺麗なもんだな」
私の魔力の流れが、ということでしょうか。
……分かります。私も風祭さんの体の中の魔力の流れを見るのが好きだから。
激しく流れたり、ゆっくりと循環したり。
風祭さんの命の源流を覗かせてもらった気持ちになるのです。
「さて」
研究魔術科の先生の声で私達は我にかえりました。
「試してみよう。剣をそこに置いて。風祭、詠唱の後に召喚だ」
「はい」
先ほどと同じ手順を繰り返します。風祭さんが何も持たずに詠唱を唱えて魔力を発出し、剣を召喚して、そしてあらためて剣から魔力を──。
「早い!」
先生達から感嘆の声が上がりました。
先ほどより確実に時間が短縮されています。
「秋月、風祭の体内の魔力の流れはどうだった?」
そう尋ねられて、見たものを正確に答えます。
「魔道具を召喚する時に右手に集中していたのは変わりません。そして召喚した後に少しだけ胸の方向に魔力が戻りました。具体的には右手の肘くらいまでです。
でもその後胸元までには魔力は戻らず、右手に戻って魔力が放出されていました」
「なるほど。その戻りをなくせば更に時間は短縮するな」
「魔道具と戦闘魔術師の相性がこんなに分かりやすく出るとは」
「番だからこそだとは思うんですけどね。ここまでじゃなくても、他の魔道具師と依頼主の間でもできないかな。研究したいな」
私達2人の周りに色々な科の先生が集まって、皆で意見を出し合います。
「2人とも分かったと思うが、魔道具を作る時に秋月の中の風祭の情報を魔道具に伝えろ。そうすると風祭に馴染みやすい魔道具になる」
「風祭を改めてよく観察した方が良いだろうな。どういう戦い方をするのか、どういう体なのか、どういう人物なのか」
研究魔術科の先生方の言葉に私達は顔を見合わせ頷きました。
魔道具の可能性が広がるならば、ぜひ試したいところです。
「あと。これは一応の提案なんだが……もし機会があれば……魔力の交換をしてみると、お互いの魔力の理解が進むと思う」
研究魔術科の先生が少し言いよどむような感じでそんなことを言ってきました。
「魔力の交換ですか?」
そんなことができるのですか?
「まあお前達なりにできればで良いんだが……もしできれば、更にお互いの理解は進むだろう」
できないこともあるということですね。
でも私は誰かと魔力の交換をしたことがありません。
多分習ったこともないと思います。
どうすれば良いんだろう。
「すみません、それは習ったことがあるでしょうか?どうすれば魔力の交換はできますか?」
「……魔力の交換は、授業では教えていないな」
やっぱり、習っていませんでした。
風祭さんを見上げると鼻の頭にしわを寄せて変な顔をしています。
「風祭さん?」
変なお顔になっていますよ?
「ああ、いや……先生……」
風祭さんが困惑したような、咎めるような声を研究魔術科の先生にかけました。
「ああ、その……あまり魔力の交換は一般的ではないんだ。ただ、番はできるらしいと聞いている」
なるほど。
「試してみましょう。それで更に馴染んだ魔道具ができるなら、それだけ安全に戦えます」
私は風祭さんの両手を取ってみました。これで交換できるでしょうか。
「風祭さん、私に魔力を送ってください。私も送ります」
「紗良……うん。また今度にしよう」
「でも、今試せば先生方に見ていただけます」
「うん」
歯切れの悪い風祭さんに、先生達も同調しました。
「魔力と言うのはデリケートなものだから」
「また落ち着いた時に少しだけ挑戦してみろ。少しだけな」
「もし交換できなくても、先ほどのやり方で十分時間は短縮できているから気にしなくても良い」
先生方もそう口々に言うので、流れとして今日は交換をしないということになりました。
「では、また今度……」
試せなくて残念ですが、私以外の全員がそう言うのなら従うしかありません。
「風祭、もし試すときは外で、ですよ。軽くね。少しだけですよ。密室などは許しません」
「分かっていますよ。変な想像をしないでください」
「まだ生徒ですからね。未成年です」
「分かってるって言ってるでしょう。大体俺から言い出したことじゃないですよ?」
風祭さんは戦闘魔術科の先生から何か注意を受けています。
「素材を」
仕切りなおすような声で魔道具科の主任先生がコホンという感じで呟きました。
「秋月、お前は素材を自分で探しに行くだろう?今度、風祭にも一緒に行ってもらえ。2人でいる時だから反応する素材があるかもしれない」
──風祭さんと素材探し!それは、とても良い考えのように思えました。
今までの経験で、番ならではの反応や効果を私達は実感しています。
素材を見つけるところからその効果を発揮できれば、より風祭さんになじむ魔道具を作れるでしょう。
「風祭さん、もしよろしければ是非一緒に探しに行ってほしいです!」
少し興奮して訴えると、
「うん、行こう。俺も興味ある」と笑って言ってくれました。
今日はもう夕方になっていますから、近々探すことになりました。
ああ、楽しみです……!




