42. 私の望む生き方は
綿貫さんのお宅から帰ったその翌日から、私は戦闘魔術科の訓練に休みをもらって裏山散策と魔道具作りに全ての時間を注ぎました。
今の私はこれからの自分の人生をどう考えるのか──それを考えたくて。
魔道具作りに向き合いたくなったのです。
手元にはこれまで拾っていた素材がいくつかあったのですが、それを一度山に返しました。
これらを集めた時の私と今の私では、少し違うものになっていると思うので。
「恵みを与えてくださりありがとうございます。一度お返し致します。また与えても良いと思われましたら、どうかその時にまたお恵みください」
丁寧にお礼を言って返しました。
それからまた山に入り、今の私が目を留める素材を探しました。
最初の散策では光る素材はなかなか見つかりませんでした。
今の私ではだめなのかと暗い気持ちになりかけていたところに、朽ちた木の横に微かに光る小さな石を見かけた時は思わず涙ぐんでしまいました。
その最初に見つけた小さな石を大切にいただき、工房の椅子に座りました。
掌の中の小さな石を磨いていきます。
私の個性を消すなど考えず、お母さんに語りかけるなどもせず。
魔力を流し込みながら、石に「あなたの力を教えて。あなたの力を貸して」と語り掛けながら磨いたのです。
カチリ、と久しぶりの音を自分の中に感じて磨く手を止めます。
そして短い杖を金属でかたどる時にも「あなたの力を貸してほしい。力を伝えてほしい」と願いながら。
そうやってできた小さな石と短い杖を魔力で付ける時。
私が願ったのは──「どうか、使い手の力がこれで思う通りに出せますように」という思いでした。
その願いを抑えることなく私の魔力に乗せて杖に流し込みます。
材料同士を付けるというより、願いを込めることに集中しました。
どうか、使い手の力がこの杖で思う通りに出すことができますように──。
どうか、この杖で瘴気を祓うことができますように──。
「あ、できた!」という感覚がポンっと私の中に入り込んできました。
これまでは材料同士の抵抗を感じなくなれば完了だったのに、完成の感じ方が変わっていました。
私の手にちょうど良いくらいの、小さな石のついた細い杖。
おそるおそる、それを手に持ってかざしてみます。
魔力を流してみます────流れた……。
横で見ていた先生方にも試してもらいました。
「よく、できている」
主任先生の言葉が聞こえた途端、隣でずっと立っていた里中くんが床に蹲って号泣してしまいました。
彼はずっと、自分の言葉のせいで私が魔道具を作れなくなったと責任を感じていたのです。
里中くんのせいではないのに……。
そんな里中くんに「ずっと心配をかけてたよね。ごめんね。ありがとうね」とお礼を言いながら、杖を見つめました。
──お母さん。
私、また魔道具を作れるようになりました。
お母さんとの対話の時間ではなくて、瘴気を祓うものを作りたいって思いで、使い手が使いやすいようにって願いながら。
お母さん、ごめんなさい。
私はお母さんと同じものを共有する生き方よりも、使い手のことを考えながら魔道具を作る道を望んでいるみたいです。
過去よりも、未来を向く人生を進みたいようです──。
お母さん、ごめんなさい。
去年の秋。保護者達への説明会で皆が「番がしっかりしてくれていれば!」と叫んだ時に。
あの時、私はお父さんのことを思ってしまったんです。
あの人もあの当時こんなプレッシャーを受けていたのか……って。
そして今の私達よりも経験を積んでずっと上の地位にいたあの人は、私達よりももっともっと、周りから頼られっぱなしだったんだろうって。
そしてそれはきっと、とても孤独だったろうと……。
そんな思いやるようなことを、あの人に対して思いたくなかった。
……でも、思ってしまった。
もう思いを寄せるようなことはないと、切り離そうと思っていた人に心を重ねてしまうことが、私にはとてもつらかった。
でも、お母さん。ごめんなさい。
過去は過去として、私はお母さんへの思いもお父さんへの思いも区切りをつけたいと思います。
慕い縋る心も、憎む心も、すべての思いに区切りを。
起きたことはなかったことにはできない。
でも、私はいつまでも暗闇で膝を抱えていたくないのです。
私は魔術師としても、そして一人の人としても、これから先に待つものから目を背けたくない。
光に向かって生きていきたい。
だから、お母さん。
これからもあなたに語り掛けることはあるだろうけれど。
あなたに謝るのは、今日で最後にしますね……。
腕の中の小さな杖をそっと抱きしめて。
私は長かった子供時代に別れを告げたのでした。




