41. 風祭の帰還
風祭彬を来週より第6部隊に戻す──。
その通達を受けた時、第6部隊隊長の華岡は嬉しく思った。
半年近く前に秋月武明の元で修行をしながら全国の部隊で訓練を付けてもらおうと送り出した時は、こいつは大丈夫だろうかと不安に思ったものだ。
風祭は新卒で第6部隊に配属されて以来、異動を経験していない。
人間関係が下手な方ではないと知ってはいるけれども、それでも癖のあるやつらも多い戦闘魔術師だらけの各部隊でやっていけるのか。
そんな華岡の心配をよそに、各部隊長より定期的に上がってくる報告からはなんとか食らいついている様子が伝わってくる。
報告は容赦がないため厳しいことが羅列してあっても、必ず改善のためのアドバイスも書いてあった。
それは秋月武明も目にして訓練の参考にされたようで、次の派遣先からの報告書には少しの成長が記されていた。
部下はどれほど成長して帰ってくるだろう……そう嬉しく思っていたのに。
「秋月紗良と組ませて訓練を行う……?」
弓削戦闘魔術師長からの今後の方針を聞き、華岡の声は固くなる。
「二宮学園長との今後の打ち合わせによるが、恐らく近々そういう方向になるだろう。秋月が出入りするようになると思っておいてくれ」
「ちょっと待ってください。それは風祭や秋月の意思は確認しているのですか?」
「風祭からは拒否はされていない。秋月は、二宮さんが確認するだろう」
「拒否はしないって、それは拒否できないのでは?それに秋月にとってはかなり繊細な問題で……」
「華岡!」
弓削の厳しい遮りに華岡は身を正す。
「第2や第20の部隊長達からの報告を読んでいるだろう。あいつは次の訓練に移る段階に入っている。魔術師長である俺も自分の目で見て、そう判断した。そもそも隊員に何を課すかというのは上の者が判断すること。風祭本人の意思を問うことではない」
戦闘魔術師のトップにそう言われると一部隊長にすぎない華岡が何かを言えるはずもない。
だが番による能力強化を部下は本当に受け入れているのか……確認しなければならない。
* * *
「長らく留守にさせていただき申し訳ありませんでした。本日よりまたよろしくお願いします」
第6部隊に戻ってきた風祭が部隊員達に深々と頭を下げると、隊員達は暖かい笑顔で迎えた。
部隊の中では年少の部類に入る風祭は、番という大役に選ばれようが、年長者に気に掛けられながら見守られる立場であることに変わりがない。
「風祭」
華岡は皆に取り囲まれている風祭を呼び出す。
「秋月紗良と組んで訓練をするという指示を受けているのか?」
尋ねると、風祭は表情を変えずに
「そのように伺っています」
と答えた。
「今度秋月に会うことになっていて、そこで話してからになるでしょうけれど。私の方から頼もうと思っています」
「お前から……番の力を借りると言うことで良いのか?」
その質問は若い戦闘魔術師には少しひっかかるものがあったようだ。
風祭の表情が一瞬硬くなる。それでも次に言葉を発する時にはまたいつもの穏やかに微笑みを浮かべた顔に戻っていた。
「この1年半ほどの間にお互いが培ったものを一度試してみたいと思っています」
「だがな、風祭」
「……隊長?……魔術師長のご指示では秋月との合同での訓練をとのことでしたが、隊長は違う考えですか?」
風祭が確認するような問いを投げかけてきた。
いけない、隊長と魔術師長が違う指示を出せば下に就く者は混乱する。
……いや、そもそも自分は違う指示を出したいのか?本人も番との訓練を望むならそれで良いのでは……。
だが番と組ませれば、これまで努力してきた風祭個人の能力の伸びが止まってしまうのでは……。
そして風祭と秋月が強大な敵の前に放り出される道が確定してしまう……いや、それはそもそももう確定している話ではあって……
華岡は「俺も魔術師長と同じ考えだ」と答えながらも自分の中で自問を繰り返していた。




