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4. はじめまして

今日、魔術学園は年に一度の少し特別な日を迎えています。

祓いの最前線にいる現役の戦闘魔術師達が、学園に来て模擬の戦闘を見せてくれるのです。

そのせいで、皆ソワソワ。


まずは戦闘員達の普段の得意な戦い方で戦い、その後に魔道具科の生徒達が作った魔道具を使って戦ってくれます。

そのため戦闘魔術科と魔道具科の生徒は特に落ち着きがありません。

訓練場は既に熱気に満ちています。


私はその熱に圧されてしまって、魔道具が用いられるまでは少し避難していようと訓練場の外のベンチに座っていました。


すると

「秋月、お前そんな後ろで何してるんだ。そろそろ魔道具が使われるぞ。さっさと来い」

先生が私を見つけて訓練場の中へ押し込まれます。


「今日来てる面々はすごいんだぞ。ベテランや次期エースに目されてる人達が来てくれている。  

 この機会を逃してどうする。それに、お前の魔道具も今日試されるだろ。 

 先輩の魔道具も自分の道具も、どう使われるかをちゃんと見ておけ」

もっともなご意見です。


「よし、生徒試作の魔道具はまだこれからだな。

 自分のも、先輩方のも。プロがどう使うのかちゃんと見ておけよ。」

はい。


とは言え、最前列は熱心に見る戦闘魔術科の先輩方が詰めているのでそこに割って入る勇気はありません。

私は訓練場の端に踏み台があるのをみつけ、そこに乗って見学することにしました。

いつもより少し高いところから見る景色は随分と視界がひらけて、新鮮に感じます。


『これより魔道具科の試作を使用していただく。

使用されるのは高等部3年生全員の試作と、1・2年の成績上位2名ずつ。』

アナウンスが響きます。


今回は3年生だけでなく下の学年の成績上位者の魔道具も使ってもらえます。

作り始めてまだ1年も経っていない私達のものも試してもらい、モチベーションに繋げてほしいという先生方の思惑があるのでしょう。


そうです、私は1年生の成績上位2位に入っているのです。

2位で、1位ではないんですけどね。

そして1年は7人しかいないのですけれど、でも選んでもらえました。


3年の先輩方の魔道具が使われ始めます。

今日来てくれている第6部隊の年長戦闘員から対戦していくみたいです。

隊長対副隊長、その次は分隊長対その次席という感じですね。


3年生の魔道具科首席の先輩は、双剣作りが得意な方です。

1本1本にも魔力が備わりますが、その2つをある一定レベルの魔力持ちの魔術師が使うと2本の間に共鳴が起き、力が倍増されるとのこと。

どれくらい距離が縮まれば剣がお互いを対だと認識して共鳴するのか、興味深いところです。

例えば戦いのさなかに敵に1本を投げて貫き、そのまま逃げられたら戻ってきてくれるのでしょうか。


……ちなみに1年生が作る剣は散々な見た目ですが、3年の先輩方の作る剣はちゃんと、いわゆる剣の形をしています。

2年後にあれが作れるようになるとは思えないレベルのかっこ良さです。


模擬戦闘が始まりました。

隊長と副隊長の戦いは動きも早く飛び出す魔力量も凄まじくて、ハラハラしてしまいます。


模擬戦闘が1つ終わると、今の取組の説明と魔道具の講評が行われるようです。

第一線の方達から講評していただけるのはありがたいこと。

私はここに引きずられてきて良かったと思い直しました。


「よう、そろそろだな」

「里中くん」


いつの間にか隣に男の子が来ていました。

彼は里中くん。

同じ魔道具科1年生で、この彼が学年1位です。

私達の魔道具は同じ対戦で使われることになるのです。


「ドキドキするね」

「俺はワクワクだな」


彼はとても明るくてポジティブな人です。

こういう時に緊張よりも楽しみだと思えるその自信が羨ましい。


2年の先輩方の魔道具が取り出されている時に

「ねえ、結局何をしたの?」

と尋ねると、

「すぐに分かる」

里中くんは晴れ晴れしいほどの笑顔で答えました。


───学年最後の課題作品を作り始めようとする二ヶ月前、彼から『なあ、俺目立つものを作って良いか?』と尋ねられたのです。


『???作りたいものを作れば?』

『いや、どうせ俺と秋月のが選ばれるだろ?もし秋月が上にアピールしたいと思ってるなら、俺も抑えめにした方が良いよな?』


彼は明るくお調子者な人ですが、無神経な人ではありません。

その場にいる人達の気持ちをちゃんと推し量ることができる人だというのはこの1年で分かっていました。


『私はアピールしたいとも思ってないし、里中くんのやりたいものを作りなよ』

そう答えるとガッツポーズをしていたのを思い出します。

……何を作ったんだろう……。


『次で最後の取組です。先ほど負傷者が出たため、代理の華岡(はなおか)隊長 対 風祭(かぜまつり)隊員。魔道具は1年の里中広翔の大剣と、同じく1年秋月紗良の錫杖』


その紹介にウオオオォ!という声が観戦している戦闘魔術科から上がりました。


え?何?


「お!俺のを隊長が使ってくれるんだな。風祭さんはすごい勢いで出てきてる人だし、こんな注目の組み合わせに使ってもらえるなんてラッキーだよな!」


なるほど。隊長さんが注目を浴びるのはもちろんですが、私の魔道具を使ってくれるその風祭さんという方もエース候補で注目の方なのですね。

見ると、遠目ですがほっそりとした背の高い方のように見えます。


その後ろ姿が私の錫杖を手に取ったその時──。


「──っ。」


私の首筋がチリッと痛みました。

痛んだというか、熱を感じたというか──。

思わず手で押さえましたが、特にケガをしているとかではなさそうです。


それより、試合が始まる!


慌てて目を戻すと、風祭さんがこちらを見ていました。

何を見ているんでしょう。

キョロキョロしましたが、周りには他には誰もいません。

先ほどまで傍にいた里中くんはどこかに行ってしまっています。


ああ、錫杖の作り手を見たのだと気付きました。

先生から私が作り手だと教えられたのかもしれません。


……使ってくださりありがとうございます。

その思いを込めてペコリと頭を下げると、少し考え込むような感じで頷かれました。


さあ試合が始まると思ったその時。


「お待ちください!」


いつの間にか一番前に移動していた里中君の声が響きました。


「すみません、その大剣にミスがあったことを思い出しました。魔道具の交換をお願いできないでしょうか」


………ん?


「交換?」

「はい。こちらの魔道具に。」


里中君は焼き物のような器を出しました。

……んん?


「………なんだ、これ」

「片口です」


片口ってなんでしょう……そう思ったのですが、先生達が慌て始めました。


「おい、里中!お前……!」

「酒を入れて飲むと、飲み手の魔力が増強される片口です」


あ、片口ってお酒を入れる器のことですか?


「………体内に取り込む系のものは事前に聞いておきたいものだが」

華岡隊長が渋っています。


「酒じゃなくて水にしろ!」

先生が叫んでいます。


「酒にしか反応しないように作りました」

「なんだそれは……!」

「ダメですか?」

「だめに決まっているだいるだろう!!!」

里中くんが残念そうに言いますが、先生達は混乱しています。


「まあ学生が魔道具を現役の戦闘魔術師に試してもらうのはそうない機会だからな……」

華岡隊長が片口に手をかけたところで、慌てて副隊長が割って入りました。


「お待ちください。どういう効果があるか分かりません。隊長に何かあってはいけませんので私が代わります」

そう言って、副隊長がグイと片口から中に入っている液体を──恐らくはお酒を──飲み干しました。


「うぇ……この酒強い……!」


副隊長が顔を顰めています。

里中くんはガッツポーズ、先生方は般若のような顔をしています。


「副隊長、大丈夫ですか?」

「いいから、さっさとすませよう、風祭」


副隊長と私の錫杖を使ってくれる風祭さんが何やら話し合っていますが、試合は副隊長対若手エース候補で取り組まれるようです。


旗が振り下ろされました。

さあ、対戦です!


副隊長も風祭隊員も、すぐにぶつかるようなことはしません。

距離を取りながらそれぞれ魔力をその手に、そして魔道具に流しているはずです。


あら?


私は目をパチパチとさせました。


私の錫杖を持つ風祭さんの体の中の魔力が見えるのです。

モヤモヤとした魔力の波が風祭さんの体の中に渦巻き、錫杖を持つ手に流れています。

その魔力は手から錫杖に流れ、錫杖が光り始めました。


風祭さんの体にはまだ沢山の魔力が渦巻いていて、彼が全ての魔力を流しているわけではないことが分かります。


先ほどから見学していた他の人達の戦闘では外へと放出される魔力は見えても、このような体内の魔力の流れは見えませんでした。

今の対戦相手の副隊長の体内の魔力も見えません。


自分の作った魔道具ではこんなものが見えるなんて。

今まで他の人に使ってもらったことがなかったので、知りませんでした。


自分の作ったものが誰かの役に立っているのだということをこんな風に感じられるなんて、この模擬戦闘を観られて良かった──そう思った瞬間、錫杖が光り。


田野上副隊長が腕を振り下ろし発動した魔力を、風祭さんの錫杖が受けて横に流します。 

片方が魔道具を実装していないと、模擬戦では距離を取ったままで戦うのですね。

実戦では接近したりもするのでしょうけれど。


ところで、今の距離を取った状態だとどうやって勝ち負けが決まるのでしょう?

先ほどまでの先輩方の魔道具を使う模擬戦は、双方共に手に魔道具を持っていてどちらかが魔道具を弾かれて勝ち負けが決まっていました。

今回は副隊長さんはお酒を飲んだだけなので何も手には持っていません。


私の錫杖を持ってくれている風祭さんという隊員さんが勝ってくれると良いな。


皆の歓声を聞きながらそう思ったのですが……。


「うわ、ヤバい……!」


副隊長の動きが止まり、うめき声が響きました。

そして、副隊長の身体から膨大な魔力が溢れ出しました。


──すごい魔力の量です……!空間が支配される……!


皆がざわめき、

「風祭、俺を抑え込め!」

副隊長の苦しそうな言葉に風祭さんと隊長の2人が動きます。


………気付いた時には副隊長の魔力の放出はおさまり「水持ってこい!」という怒声が交わされていました。


何が起きたんだろう………。

いつの間にか隣に来ていた里中君を見ると「まずい」という顔をしています。

確かに、絶対にまずいことになっています。


「………里中広翔。出てこい。」

地を這うような声は、魔道具科の主任先生のものです。 


「やっべ。怒られるかな……」

……怒られるでしょう……。


まずいなあとボヤきながら隣から離れる彼に

「が、頑張って……」

と声をかけると「おう!」と返事が聞こえます。

怖くないんでしょうか。


「里中広翔です!」


ざわめきが大きく広がる中。先生方と第6部隊の方々を前に堂々と立つその姿は尊敬に値するくらいの清々しさです。

しかし、そんな確信犯にカミナリは容赦なく落ちるのでした。


「お前は!!!魔道具を作る上の大原則を忘れたか!!!」

「覚えています」

「言ってみろ!!!」

「使うのは戦闘魔術師!」

「分かってるならこんなものを作るなーーー!!!目立つために戦闘員の身を危険にさらしてどうする!!!」


先生のお怒りが伝わってくる、すごい声量です。


「俺は、俺にしか作れない魔道具を作りたいんです!」

「それと戦闘員を危険にさらすのは別問題だ!!!せっかく模擬戦闘を演じてくださる先輩方に申し訳ないと思わないのか!!!」


先生の怒りは止まりません。

けれども、そこに

「まあ試そうかと言った俺にも非がある」

と華岡隊長が口を挟みました。


「空間を掌握させようとしたのか」

「はい。その通りです。」


そうなのです。

一瞬でしたが、あの時場の空間が一変していました。

副隊長さんの魔力が大量に放出されて、一気に空間を塗り替えようとしていたのです。

あれは副隊長自身の普段の戦い方ではなく、里中くんの魔道具で変化したお酒の効力だったのでしょうか。


……空間を塗り替えるなんて、私の錫杖ではできません。


隊長は里中くんが作った広口を手に取り眺めていましたが、

「……里中。副隊長の魔力を強制的に放出させた腕は見事だ。

だが戦闘魔術師にもプライドがある。自分の意思を捻じ曲げられるような魔道具を好む者はいないだろう。

お前が今後 魔道具師としてやっていきたいなら、他者への敬意を学べ。

それができるようになって初めて、お前は魔道具師として他の者から認めてもらえるだろう」


その言葉と共に今日の模擬戦闘はここまでという意志を示しました。


「……はい……」


里中君は神妙な顔で聞いていましたが

「……里中。来い……!」

という主任先生に連行されていきました。


私は自分の魔道具がどのような使い方をされるのかを最後まで見ることができず、残念だけれど仕方ないなあと思っていると……。


首筋がまたチリッとしました。なんでしょう……。


「失礼」


静かに声をかけられ振り返ると、私の魔道具を使ってくれていた隊員さん──風祭さんが立っていました。

フワフワとした髪の毛の、背の高い方。

耳にピアスが沢山あいています。


「この魔道具を作ったのは君かな?」

「はい。」


びっくりして小さい声になってしまいましたが、名乗ってご挨拶をした方が良いかもしれません。


「……魔道具科高等部1年の秋月紗良です。今日は、私の魔道具を使ってくださってありがとうございます」


風祭さんが頷きます。


「模擬戦闘が中断して魔道具の講評ができなかったので、個別になってしまうけれども」


わざわざ感想を伝えにきてくれたようです!

諦めていたので私は嬉しくなりました。

私は気をつけをして風祭さんを見上げました。

風祭さんは背が高いので、首がクイッとなります。


風祭さんはそんな私にフッと笑うと、

「思っていた以上に良くできている。」

と言いました。


「これほどまでに作り手の魔力のクセを感じない魔道具は、そうあるもんじゃない。 

 おかげで、私は自分の魔力を思うようにこの魔道具に伝えることができたよ」


そう言われると嬉しくなります。

私はできるだけ自分の色を出さないように注意しながら魔道具を作るようにしているのです。


「あと、この核の石はなんだろう?初めて見た」

錫杖の頭の部分の石のことですね。


「これは、歩いていて見つけたのです」

「……歩いていて?学園から支給されたものではなく、君が自分で材料を調達したということ?」

「はい。歩いていて気になるものは持って帰るようにしています。この石は錫杖に良さそうだと思ったので、錫杖を作りました。」

「材料から考えるのか……」

「はい」


風祭さんはじっと考えていましたが

「この錫杖を借りることはできる?」

と訊いてきました。


「今日、これを使って戦うことができなかったのが残念なんだ。現場で試させてもらえないかな?」


驚きました。


「あの、私はまだ魔道具作りを習い始めてから1年も経っていないのです。それなのに実戦で使うのは危なくはないでしょうか?」


嬉しいことではあるのですが、不出来な道具で戦ってしまえば使い手の命に関わります。


「もちろん、使うかどうかその時にちゃんと判断する。とにかくこれを試してみたいんだよ」


そう言われると自分の作った道具の出来を知りたくなります。


「そうしたら、先生が良いと言ってくれるならお願いします……」


小さい声で答えると、風祭さんは「ありがとう」と穏やかに微笑んでくれました。


「じゃあ、先生に許可を取ってしばらく借りるよ」

そう言うと去っていきました。


優しく親切そうなお兄さんです。

それまでずっと首筋が熱くなっていたのに、その熱が彼がいなくなるとスッとひいたのは気のせいかな?と思いました。


でも私は自分の魔道具を祓いの現場で使ってもらえるということに興奮して、首筋の熱のことなんてすぐに忘れ去ったのでした。

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