3. 魔道具科と魔道具作り
長い説明をしてしまいました。
ようやく今現在の話ができます。
そう、今!
今の私はなんと魔術学園の高校1年生になっています。
しかも高校1年の2月です。1年生ももう終わり。
大きくなりました。
高校から分かれる進路は、私は魔道具科を専攻しています。
亡くなったお母さんと同じコースです。
* * *
「いいか、見た目の良いものを作ろうとするな!どうせ1年目じゃ無理なんだから!それより魔力を素直に溜めて流せる物を意識しろ!」
魔道具科の工房に、先生がこの1年繰り返してきた言葉が響きます。
私達は1年間の成果を作品にする課題が出ているのですが、出来栄えによっては再来週のイベントに使われる可能性があるため急ピッチで仕上げに入っているのです。
先生が言っているのは、デザインを重視せず魔力を流せるものを作れということです。
魔道具科に入った時、私達は夢に溢れていました。
昔からの物語の挿絵や映画で見るようなかっこ良い魔道具をこれから作るんだ!とワクワクしていたのです。
ところが……剣を作るのって、独鈷を作るのって大変なんですね……。
金属を熱して、望む形にして、磨く。………それを私達がよくイメージする「あの形」にするのってものすごく大変なんです。
火に怯えワーワーと騒いで、手の感覚が無くなると言いながら刀を叩いた最初の授業。
出来上がった剣先は──剣の形なんてどこにもない、金属製の重い分厚い板でした。
全員です。全員。
考えてみれば当たり前ですよね。刀鍛冶の方達は一生を懸けて修業を積みながら腕を磨き上げていくのです。
15や16の私達があのかっこ良い刀を作るなんて、すぐにできるわけがありませんでした。
でも、そこで先生に言われたのです。
『お前らが作ろうとしているのは、剣じゃない。魔道具だ。
大切なのは一般的な剣としての機能や美しさではなく、それを使う戦闘魔術師の魔力をうまく引き出してやるものだ。
今は剣の形をしていないことに落ち込んでいるだろう。
でも、それよりも今作ったそれに自分の魔力がうまく流れるかやってみろ。そして、隣のやつと交換して試してみろ。
──どうだ、流れないだろう。
落ち込むなら、そのことに落ち込め。恥じろ。
お前達は魔道具師になるんだ。
自分以外の者が魔力を溜めて放つ道具をこれから作る。これが使命だ。そのことを忘れるな』
その言葉を胸に、私達はこの1年やってきました。
その過程で、自分が作りたい、作りやすい魔道具というのが朧気に見えてきました。
ある生徒は魔道具の種類にこだわり、ある生徒は素材にこだわる、というふうに。
私の場合は、石です。
子供の頃から歩いていると石から呼ばれるような感覚があったのです。
数年前にネックレスを作った石のように、自然の中で静かに光ってその存在を教えてくれるのです。
そういう石をそのまま磨き上げることもあれば、思い浮かんだ道具を作りそれに嵌め込んでみたり。
そういう魔道具作りが向いているような気がします。
今回の課題は、錫杖を作っています。
……物語とかだと頭のところにシャラシャラと輪っかがついていてカッコ良いんですけどね、私はまだそんな複雑な形のものは作れません。
だから、細い金属の棒の頭のところに石をくっつけたものです。
錫杖というか、スティックというか、巨大なマッチ棒みたいな感じです……でも私はこれを錫杖と呼んでいるのです……。
錫杖本体の金属の材料は資材庫にありますので、それを溶かして、杖状にして……。
「いいか、いくら石がお前の得意な分野とは言え、錫杖本体を作る段階から気を抜くな!
魔力を込めていくんだ!それがきちんとできなければ、戦闘中に破壊されるぞ!
使う戦闘員の命に関わるんだ! 逆に魔力がちゃんと込められていれば、どんなに見た目がガタガタで
も使える魔道具になる!いいな!魔力だ!!!」
はい!!!
型に溶かした金属を流しながら
「魔力、魔力、魔力……」
と念じ続けます。
私達は中等部の3年間で自分の中に渦巻く魔力を感じ、それを体内で循環させるトレーニングを徹底して受けました。
高等部でも毎朝毎夕、担任の先生の掛け声で
「はい、魔力体操!魔力を体中にグルグル回せ。
はい、逆回し。次に右腕に全部持っていけ。
はい、全部左足に。次は右足の中指に80%持っていけ。20%は左足に残したままだぞ。
はい、左手小指に集めろ、それを今度は50%ずつ右腕と左腕に!
最後にもう一度全身にグルグル回せ」
というのをさせられます。
そういう感じで自分の体内の魔力はもうかなり自在にコントロールできますので、その要領で型へ流し込む錫杖の材料へと魔力を込めていくのです。
「いいか、魔力を込めろとは言っても、魔道具はお前らのPR道具じゃないんだ!
あくまでも使うのは戦闘魔術師!
戦闘魔術師の魔力が入りやすいような道具を作るんだぞ!」
この辺りがなかなか難しいところです。
私の魔力ではなくまだ見ぬ誰かの魔力が入りやすいようにと計画しながら私の魔力を「魔力、魔力……」と流し込むのですから。
でも実は私はそこは他の生徒より上手らしくて、よく褒められます。
「秋月、個性がないな。良いぞ」
ふふ。
なんとか杖となる部分を作り、次は石です。
石は、この前学校の裏を散歩している時に見つけました。
少し歩いたところに大きな木が朽ちたものが倒れていて、その裏を覗いてみると落ち葉の一角がぼんやりと光っていました。
その落ち葉をどけると、私の拳大くらいの石がキラキラと輝いていたのです。
他の人が見たら普通の石なのだと思います。
でも私にはそれがキラキラして見えるのです。
こういう風に、私は光る石を小さい頃から見つけてきました。
それを持って帰って魔道具の核にするのです。
この石を見つけた時に、これは錫杖に付けよう!とその場で感じました。
「ありがとうございます。大切に使わせていただきます」
感謝しながら石をいただきます。
『自然への感謝を忘れずにね』
お母さんが元気だった頃、石を拾おうとする度にお母さんから言われていました。
だから、石へ、大地へ……そしてもしかしたらいるかもしれない大いなる存在へ心を込めてお礼を言うのです。
石を専用の機械で削り磨いていきます。
魔力、魔力……。
ここでも魔力を指先に込めながらの作業です。
磨いてみると、今回の石は真っ黒の中にキラキラした粒が入ったものでした。
私の手のひらに載るくらいの石。
少しはデザインを意識しても良いよね……ところどころ斜めにカットしてみたりして、宝石感を演出です。
杖と石ができました。
これを魔力で付けます。
接着剤でつけるとかではありません。
魔力です。
戦闘魔術師は、その長い柄の部分を通して先端の石に魔力を溜めて放出するのです。
杖と石の魔力の疎通は同じ素材であるかのように滞りなく行われなければいけません。
それを目指して集中をして2つの素材を手で接着します。
右手と左手で魔力を感じながら待つこと数十秒、反発しているかのような感覚だった両手の抵抗がフッとなくなりました。
できた……!
改めて手に持って魔力を送り込んでみます。右手を通じて杖の部分へ、そして先端の石へ。
念じれば外へと魔力は放出されるでしょう。
……お母さん。私、1年間の間に錫杖を作れるようになったよ……。
杖を掲げると、心の中でお母さんに呼び掛けました。
こうして、私の1年生最後の作品は出来上がったのでした。




