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33. 一筋の光

初夏──季節の移り変わりに見せる山の顔の中で、私はこの季節の山が一番好きな気がします。

春の芽吹きや花の時期を終え、一斉に瑞々しい透明な緑の葉を木々が芽吹かせて。

その透明な緑の葉を通して伝わる日の光が、大きな木々の下を明るく照らすのです。

そこは何かこれから良いものが起こるのではないかという希望を感じさせる清らかで静謐な空間でした。


でも私はここで魔道具の素材を探しながら、心は沈んでいました。

素材は見つかるのです。

相変わらず光りながら私に語りかけてくれる。

でも。


「秋月、見せろ」

短剣を作っている私に、魔道具科の先生が声をかけました。

内心の暗い気持ちを隠して刃渡り30センチほどのそれを見せます。

最終学年の3年生になった私は随分と剣らしい形の剣を作ることができるようになっていますが、先生が見たいポイントはそこではないのは分かっています。


先生は短剣を手に持つと、ひとこと「だめだ」と言って私にそれを返しました。


……分かっています。

私の作る魔道具は今、魔道具として機能していません。

使い手がその体から出す魔力を受け止めて更に外へ放出する、という役割を果たさないのです。

魔力が魔道具へ伝達していないのです。


つまり、私は剣の形の張りぼてを先生に見てもらったということ。


「秋月、ちょっとこちらに来い」

「──はい」


周囲で聞き耳を立てていた同級生達が息をのんだのが分かりました。

里中くんは顔を強張らせて立ち上がっています。


昨年の夏休み前から作れなくなってしまった魔道具。

──ついになんらかの決断が学園から下されるようです。


石の力を引き出すことができるから魔道具科に残りたいと大見栄を切ったものの、全く結果を出せていません。

ここまで先生方が見過ごしてくれたのはもったいないくらいの温情ですが、いい加減に見切りをつけないといけないのでしょう。

強大な敵の出現が予測される中、学んだことを活かせない者にいつまでも手間はかける訳にはいきません。

でも魔道具師としての私に価値はなくとも、番としての役割が私には期待されています。

いよいよ、戦闘魔術科への編入を命じられる時が来たのです。


……首筋に触ってみますが、そこは熱を持っていませんでした。


半年ほど前に風祭さんとお別れをしたあの10月以来、私達は連絡を絶っています。

その直後には日に何度も熱や痛みを訴えた番の紋は、近頃はひっそりと気配を沈めています。


つらくても離れる、自分自身で頑張る──2人共にそう決めたことです。


互いの消息はたまに聞こえてくる噂や魔術庁からの通達などで知るのみです。

私達は、単にお互いに名前を知る戦闘魔術師と魔道具師候補生という関係に過ぎなくなりました。


寂しいです。

でも、決めたことだもの。


先生方の話を聞いてきますね──番の紋に久しぶりに話しかけて、私は席を立ちました。


* * *


私が呼ばれたのは工房の隣にある講義室ではなく、中央棟の小会議室でした。

集まっていたのは魔道具科の担任の先生、主任先生、戦闘魔術科の主任先生、そして学園長先生です。


「秋月、今日呼ばれたのはなぜか分かるか?」


魔道具科の主任先生から尋ねられたので、正直に答えます。

「もう1年近く、魔道具を作ることができていないからです」

「そうだ。お前はこの状態をどう思っている?」

「……せっかくご指導をいただいているのに結果を出せず、申し訳なく思っています。ずっとどうしてうまくいかないのか分からなくて工夫してきましたが、どうしても作ることができません」

「そうか。今日はその件で、学園長先生からお話がある」

「──はい」


戦闘魔術科への転科のお話なのでしょう。

もうしばらく前から覚悟はしていました。

お母さんとの繋がりを失いますが、魔道具を作れていないのですから同じことです。


「秋月」


学園長先生が組んでいた腕を解き、机に乗せました。

それだけで私だけではなくその場にいた他の先生方の背筋も伸び、一気に場の空気がピリッとなります。


「私達は、本来なら君が3年生に進級するタイミングで戦闘魔術科への転科を指示するつもりだった。しかし、風祭隊員が直前に第6本部を離れ君との合同訓練なども組めない状況になったため、状況の見極めのために転科を見送ったんだ」


「はい……」

私もこの春に転科することになるだろうと思っていたのです。


「はっきり言わせてもらうが、今の君に求められていることは魔道具師になることでも戦闘魔術師になることでもない。風祭隊員をアシストする番として役に立つことだ」


学園長先生は相変わらず容赦がないです。

でもその通りですよね。

分かっています。


「だが単独での防御の学びは順調に進んでいる今の君を戦闘魔術科に移しても、風祭隊員が各部隊を転々としていてはアシストするための合同訓練は組めない。かと言って君は魔道具を作れない。

そこで、君には別のことを課題として課す」


別の課題?


「私の手元に過去の番達……ああ、如月の番ではなく更に前の番達のことだ。

その過去の番達のデータがある。 

如月以前となると戦後すぐだから随分前だが、あの頃は混乱がひどくて80組ほどの番が誕生していた。 もう死んだ者達も多いし残っていてもかなりな高齢だが、本人やその遺族の中には体験を話しても良いとの言葉を預けてくれている者達もいる」


 戦後の混乱は聞いたことがあります。 

それまでの抑圧から解放され、その反動で人々のやり場のない悲しみと恨みと怒りと不満が噴出したのです。日本各地で強大な瘴気が渦巻き、10年近く本当に大変だったと。 

その際は各都道府県に1組どころではない数の番が誕生し、復員してきた魔術師達も合わせて激しい戦いを繰り広げたと聞いています。


 「ほとんどが戦闘魔術師同士、あるいは戦闘魔術師と治癒魔術師の組み合わせだが、中には戦闘魔術師と魔道具師の組み合わせの番もいた」


……戦闘魔術師と魔道具師!

  私達と同じ組み合わせです!


「残念なことにその番は2人共にもう鬼籍に入っているが、遺族が必要なら後世のために話はいつでもすると言ってくれている。 

そこに話を聞きに行きなさい。その組み合わせの番がどのように関係を築き、戦ったのか。 

やり方を変えるんだ。今の君に必要なのは、工房や訓練場にこもることではない」


思いもよらないことを言われて、私はすぐには言葉が出てきませんでした。


今の私にできることがある……!

それは行き詰まっている私の前に現れた一筋の光でした。


先生方も初めて聞いたようで驚いた顔をしていました。もしかしたら、先生方の間では転科の話をするということになっていたのかもしれません。

それでも新しい課題の話をきいて、皆こちらを見て頷いてくれています。


「──はい。そのご遺族に話をうかがいたいです」


久しぶりに番の紋がほのかに温かくなるのを感じながら、私はしっかりと返事をしました。 

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