28. この日の転移が暴くもの1
「……番はどうなってるんですか!?番がしっかりしてくれてれば私達も安心できる!」
その言葉はテントの中にいた私の耳にまっすぐに届きました。
保護者達は「そうだ……!」と同意し始めます。
「如月の時は番の2人が倒してくれただろ!?今ちゃんとうまくやってんだろうな!?」
「高い金っていうならあいつらこそ相当金もらえんだろ!?」
自分の体が硬くなるのが分かりました。
番への期待は……期待というよりも糾弾のように感じるほどに大きい。
こんなに、責められるような期待を押し付けられるなんて……。
「紗良……」
伯父さんがこちらを心配そうに見て、保健の先生が私の肩を抱いてくれます。
『番に関しては、学園の我々にも情報は入ってきていない』
学園長先生がそう言いましたが、また誰かが叫びました。
「うちの子は、番の一人が学園の生徒なんじゃないかって言ってたわよ!」
本当か!?というざわめきが一気に大きく広がりました。
ああ、話はやっぱり広がっている……。
「その子を出せよ!今学園にいるんだろ!」
私を探してる……。
でも出たらきっと詰め寄られる。
「秋月、大丈夫です。私達が守ります」
戦闘魔術科の先生が手を握ってくれますが、番の紋が急速に熱を持ち始めました。
「その辺で見てる子達!その中にいるのか!?おい、ちゃんと番とヤってんだろうな!?」
男の人の大きな怒鳴り声.。
「おい、聞いてんなら黙ってないで出て来いよ!今どうなってんのか説明しろ!」
怖い。怖い……!
『やめないか!子供達が見ている前で恥ずかしくないのか!』
あのこえ……にげなきゃ……またあのおじさんたちがくる……。
「国のためなんだぞ!」
「そうよ、私達のためじゃない、国民のためよ!」
くにのため、って、そんなことをいわれてもしらない……。
じぶんでのぞんだわけじゃない……。
がんばれって、おまえならできるって……。
おまえならまかせられるって、あんしんだって……。
いつのまにか、そんなやくわりをおしつけられて、あんなにつよい、てきの、まえに……。
────これは、誰の気持ち…………?
「おい、聞いてんのか!?」
おねがい、おこらないで。
こわいこえでおこらないで。
おかあさん、なかないで……さらがいるから、だいじょうぶだから……なかないで……。
「紗良!」
「秋月、息をしなさい!」
「風祭に電話を!」
「それが、今第6が厄介な現場にあたってるみたいで連絡がつきません……!」
「番が戦ってくれさえすれば国民も子供たちも安心なんだから!」
つがいなんてきらい……!
おとうさんがこわくなって、おうちをでていって。
こわいおじさんたちもきて、おかあさんがいつもないて。
つがいなんてだいきらい……!!!
息ができない中、首筋に鋭い痛みを感じながら熱くなるのを止めることができず。
────ああ、跳ぶ……!
私の周囲の景色が歪みました。
* * *
「あき、づき……」
顔を上げなくても分かります。
私は跳んでしまったのです。
風祭さんの腕の中に。
私はその体に躊躇うことなく腕を回し、抱きつきました。
服の下にあるはずの、見えないはずの番の紋の光を感じて。
私はその風祭さんの胸の番の紋の辺りに頬を寄せます。
ああ、やっと、息ができる……。
ついさっきまで恐慌状態だった心が安らぐのを感じて、もっと頬を摺り寄せました。
──もう大丈夫。この人の腕の中にいれば、怖いことは何もない……。
風祭さんの胸にも温かいものと魔力が一気に湧きおこってきているのを感じます。
良かった……。
2人でいれば大丈夫。
考えたくないことも全部忘れて…………忘れて………。
え…………?
摺り寄せた頬の動きが止まりました。
──忘れるの……? あの時の悲しみや苦しみを?
父親だった人がああなってしまった原因の番というものに甘えて?
番と抱き合って見たくないものから目を背けて。
同じになるよ?あの人と。
それで、良いの……?
その瞬間。
ものすごい嫌悪感が私を襲いました。
──良いわけがない……!
あの人とおなじものになって、お母さんの悲しみも苦しみも考えたくないって切り捨てる。
そんなこと、良いわけがない。
そんなこと、許せるわけがない……。
番という存在も、そんな自分自身も……!
我に返り、体を離そうとしたのですが。
風祭さんが私の首筋の制服の上に唇を寄せました。
……それだけで、体が震えるのに。
「………………あっ……!」
歯を、立てられた……。
番の紋から体中に魔力が駆け巡り、その熱に思わず上げてしまった声。
その自分の声にはっきりと艶を感じて、そのことが体の熱とは正反対に私の心を急速に冷やしていきます。
……何!?今の声は……!
「風祭……!」
怒号が聞こえました。
ハッと見上げると、私の肩を抱きながら苦しそうに見下ろす風祭さんと、その周りに渦巻く大きな瘴気の渦が見えました。
やられる……!
でも、風祭さんが私を抱えていない方の腕をばっと振った瞬間。
その瘴気の渦は消えたのです。
一瞬で。
しばらくの沈黙ののち、「すげえ……」という誰かのつぶやきが聞こえました。
「これが、番の能力強化……」という声も。
でも風祭さんはそんな声には何も答えず、腕の中の私を目を細めて見つめています。
その顔には、これまでの彼は一度も見せたことがなかった感情が浮かんでいました。
ひと言では言い表せないけれど……。
──苛立ちや苦々しさ、そして嫌悪。
そんな感情が。
そして、私の表情にも同じ感情が出てしまっていたと思います。
──番というものへの誤魔化しようのない拒絶の思いが。




