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19. 転科のすすめと戦闘魔術訓練

春です!

中等部へ入学した新中学1年生が親元から離れた寂しさでトボトボと歩いていた4月。

それが段々と学園に慣れ友達ができて、元気を取り戻していく姿を学園全体で見守るのが全寮制ならではだなあと毎年思います。


私は高校2年生になり魔道具師候補生として更にもうひと段階上へ──と言いたいところですが、少し前から特別なカリキュラムに追われる身となっています。

日中は魔道具科の授業、朝の授業前と夕飯までの放課後は個別の戦闘魔術科の授業、という感じに。


実は新年度が始まる前に、私と学園の間にひと悶着がありました。


学園から、1つ下の学年に留年して戦闘魔術科に転科しないかと言われたのです。

新高校1年生と共に戦闘魔術を基礎から学ばせたいということで。

魔術庁が私に対して求めているものは魔道具を作ることではなく、戦闘現場に怪我をすることなく留まることだから。


ただ、それを受け入れるわけにはいきません。

魔道具作りが性に合っているというのもありますが、それ以外にももう一つ。

私にとって魔道具を作り出すことはお母さんとの繋がりを確認することで、決して手放したくないことだからです。


先生方との話し合いの最中に番の紋が熱くなり風祭さんから電話がかかってくる事態になりましたが、私は通話をつなぎ風祭さんに話を聞いてもらったまま、先生と話をつけました。


「私は小さい頃から石の力を感じてきました。そして私は自分の魔力の個性を殺すことが得意で、使い手となる戦闘魔術師の能力を抵抗なく引き出せる魔道具を作ることに長けていると思っています。

この能力を磨くことが、国の利益に反しているとは思いません。

大きい戦いが終わった後のことも見据えて、私の専攻は魔道具科のままでいさせてください」


お母さんのことは口にしませんでした。

そういう個人の感情が通るほど魔術庁が甘くないことを私は知っているからです。

そんな理由では絶対に通用しません。

だから、とにかく国のためを全面に出して主張しました。


それを聞いた学園長先生が、転科はせずに朝夕の戦闘魔術科の個別授業を受けるということであっさりと許可を出したのです。


「その主張が今後も通じるかは、自分の努力にかかっている。励みなさい」

というひと言と共に。


先生達との交渉が終わったあと、電話越しに「よく頑張ったな」と風祭さんに褒められました。

「そうでしょう?」と笑いながら答えた私が少し泣いていたのを、うまく誤魔化せたかは自信がありません。



そういう訳で魔道具作りの腕を磨きつつ新しく戦闘魔術を学ぶ私は、もう本当に忙しいのです!

朝は7時半からホームルーム開始まで座学を学び。

そして放課後は夕飯の直前まで訓練場でマンツーマンで防御の実技を学んでいます。

座学はともかく、この実技の訓練がとにかく大変です。

何しろ戦闘魔術科の先生がやる気に満ちていて、私に向かって魔力をビシバシと放ち攻撃してくるのですから。


「ほら、防御を取りなさい!その体の中の魔力はなんのためなの!?」


体の中の魔力を循環させることにはもう手慣れたものでしたが、それを防御のために自分の周りに放出させつつ一定の膜のように纏い続ける──つまり結界を作るのは、それまでやったことがなかったため私にはなかなか……本当になかなか難しいことです。


「理屈は教えました!さあ、実践よ!」

スパルタ!!!


* * *


『今日もしごかれただろ?』


夜10時。

風祭さんのからかうような声を聞きながら、私はミニ冷蔵庫からオレンジジュースを出してベッドに座りました。

ちょうどシャワーから出てきた時に着信があったのです。


「あれ、お知らせがいっちゃいましたか?」

『ああ、17時半くらいかな。少しだけチリッと』

「すみません」

『別にいいよ』


今日のように多少のストレスを感じた時、番の紋の辺りがチリッとなることがあります。

熱をどんどん持つようなことはなくて、少しだけ痛みを感じるような。


それはどうも風祭さんにも伝わっているみたいで、その後に紋にフワッと暖かい気配を紋に感じることが増えました。

風祭さんがなだめてくれている……そう気付くのは容易いことでした。

そういう日は夜に電話がかかってくるようになりましたから。


『大丈夫か?』

「はい」


私はストレスの内容を詳しくは話しません。

いちいち話していたらきりがないほどの頻度でしたし、その訓練を受けると了承したのは自分ですから、意地でもあります。


だから、話題は訓練とは全然関係ないものを。

「今日の学食のエビフライがものすごく大きくて、驚きました」

『あー、あれすごいよな。数年に1回来るんだよ、でかいエビフライ。男子には大好評だったろ』

「もう女子だって皆、大喜びですよ。もっといつも出してくれれば良いのに」

『あの量の揚げ物を頻繁に食ってたら胸焼けするだろ』

「そうですか?風祭さんは他はどんなメニューが好きでした?」


こういうなんでもない話をして、

「おやすみなさい」

『おやすみ』

穏やかに挨拶をする。


こういう一連の流れは私がストレスを受けた時だけではなくて。

風祭さんが何らかのストレスを感じた時にも私の紋がチリッとしたので分かり、私は自分の首筋にそっと指を這わせて心を寄せて。

そして、夜に電話をする。


こんな感じで、結果として週に何回か電話をし合う仲に私達はなっていきました。





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