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12. 若者の背中は未だ青く

秋月武明はひとり中央棟の外に出て、若者を待っていた。


自分達が通っていた頃にはボロい木造だったのが、今は建て直されコンクリート造のしっかりとしたものになっている。

とは言え他に民家など見当たらない山の奥。

周りを囲む木々を通り抜けて吹いてくる冬の風は、相変わらず身を切るように冷たい。


目をつぶると、学生時代が目に浮かぶようだ。

自分と華岡と、片桐と。

あの時共に6年を過ごした仲間のうち1人は未だ現役で隊長を務めているけれど、1人は亡くなり、1人は魔術庁を去った。


月日が経った──このまま、時が流れ過去の出来事も静かに埋もれていくと思っていたのに。

まさかまた向かい合うことになるとはな……。

秋月はタバコに火をつけた。


程なくして、まだ年若い青年が出てきた。


風祭彬。

学園を卒業してまだ3年。21歳という若さながら突出した魔力と祓いの能力で目覚ましい結果を出しているらしい戦闘魔術師。

先ほどの打ち合わせの際の、立場を弁えながら主張はする姿勢はクセの強い戦闘魔術師達の中でもうまく立ち回れていることを感じさせた。


「お待たせしました」


きれいな礼をする。


「いや。ここ数日、紗良が迷惑をかけたようで申し訳なかった。紗良が無事に帰って来られたのは君がいてくれたからだ。ありがとう」

「とんでもないです」


微笑むその姿は如才がない。


ひとまず連絡先の交換を終えると、風祭の方から

「秋月元副隊長。少しお話を宜しいですか」

と言ってきた。


「元副隊長は要らない。秋月で良い。話は、もちろんだ」

「では、秋月さん。少しだけ」


校舎から少し離れたベンチにかける。

風祭は長い脚を少し開き、そこに前のめりで両手の肘で体重をかけた。 


「番というものを知らなかったので、少々面食らってます……………すみません。正直なことを、言わせてもらいます。 

16歳の女の子の前で言うことではないな、ということもあるので、今ここで」

「ああ、そうしてくれ」

思い浮かぶ姪の姿は、共に暮らしていた12歳の時の姿をしている。

今日浮かび上がった物事を何の心構えもないまま突きつけられるには、その姿は幼すぎる。


「自分としては、今問題となるのは紗良さんが私のところに跳んで来ることだと思っています。学園でも戦闘のことを習っていない紗良さんは、祓いの場で余りにも異質で無力です」


そうだろうな、と思う。

もし自分が現役の頃にそんなことが何度もあれば、イラついて学園へ抗議しただろう。

祓いの場は学びなどと言ってる場所ではないのだ。


「そのため、何をおいても跳ばない方法を突き止める、あるいは生み出さないといけないと思います。もし番とかいうものであるから跳んでくるのだとしても、そこを抑える何かを探さなければいけません」

秋月は頷いた。  

「そして、それが見つかり跳んでこなくなった後のことですが」

少しトーンを落とした風祭のその声に、目をやる。


「先ほども言ったのですが。

私としては、その後に番としての効果を期待することは無いのではないかな、と思うのです。 

一応自分なりに祓いをやれていると思っていますので、今のところ魔力の強化は望んでいません」


風祭はそこで言葉を切ったが、何かを言いあぐねているような気配を感じる。


「魔力強化を望まない以上は、先ほどうかがった紗良さんの父君とその番のような結びつきを私は求めないと思うのです。もし紗良さんが明日のお話の際に嫌悪感を示されたら、私がそう思っているので心配ないと伝えていただけませんか?」


なるほど。紗良のことを思いやった言葉には聞こえるけれど、裏を返せば、番などと言われても知ったことではないという意味にもとれる。

父親のことでつらい記憶が呼び起こされてもケアまではできない、とも。

本人はそこまで冷酷な言葉で思っているわけではないかもしれないが。


まあこちらとしてもまだ16歳の姪に成人男性が言い寄るなんて事態を看過するわけにはいかないので、そのような腹づもりでいてもらえるのはありがたいことではあるが。


……ただ。甘いな、と思う。


この20そこそこのお坊ちゃんは未だ体験したことがないのだ。

自分の魔力の限界を知り壁にぶち当たった時の、戦闘魔術師としての焦燥も。

人格すら捻じ曲げるほどの番への渇望も。


そうなった時、この目の前の涼やかな男が変わらずにいられるのか。

そして魔術庁という巨大な組織が、強大な力を発揮すると分かっている番が番わないまま放っておいてくれると思うのか。


──本当に、何もかもが甘い。


だが秋月武明はそんなことは口にしない。

風祭は秋月が庇護すべき存在ではないし、何より他者が外から言ったとて分かるはずもないのだ。


全てこれから先にこの若い青年が、そして更に年少の姪が自分達で知り、苦しみ立ち向かわなければいけないことだ。


だから秋月はそんなことは何も心配していないというように礼を言う。


「紗良への配慮をありがとう。では明日そのように言わせてもらおう。もし呼び出せなかったとしても、紗良の様子は夜にでも連絡させてもらう」

「恐れ入ります。では、また」


しっかりとした足取りで踵を返す、一見しっかりしているが実はまだまだ未熟な青年の背中を見送ると、秋月はこれからのことを思いタバコの煙を深く吐いた。

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