第7話:灰色の休日と、小さな光
土曜日の朝。
カーテンの隙間から差し込む光が、
私を現実に引き戻す。
学校がない日は、私にとって一番「自分の居場所のなさ」を突きつけられる時間だった。
リビングに降りると、叔母さんとその娘……
私の従姉妹の楽しそうな声が聞こえてくる。
「ねえお母さん、今度の連休、原宿行ってもいい?」
「いいわよ、お父さんに内緒で美味しいもの食べちゃおうか」
私がリビングに入った瞬間、その温かな空気は、
すっと霧が晴れるように冷え切った。
「……あ、おはよう、楓ちゃん。
朝ごはん、そこに置いてあるから」
「……おはようございます。
ありがとうございます」
食卓の端に置かれた、
少し乾いたトーストとサラダ。
叔母さんは決して私を虐めたりはしない。
けれど、そこには明確な「境界線」がある。私は彼女たちにとって、突然放り込まれた「預かり物」であり、壊れやすいガラス細工のように、
遠巻きに扱われる存在だった。
「……ごちそうさまでした」
自分の部屋に戻り、ドアを閉める。
この狭い空間だけが、今の私の全宇宙だ。
いつもなら、
ここでただ時間が過ぎるのを待つだけだった。
けれど今日は、なぜか手持ち無沙汰で落ち着かない。
(……あ。クッキー、焼こうかな)
私は台所が空くのを待って、こっそりとクッキーを焼き始めた。
母のレシピ。バターの香りが立ってくると、
少しだけ胸のつかえが取れる気がする。
でも、焼き上がったクッキーを冷ましながら、
私はふと気づいてしまった。
(……これ、誰が食べるんだろう)
今までは、自分が食べるためだった。
でも今は、私の目の前で「うっま!!」と満面の笑みを浮かべ、
バカみたいに美味しそうに食べてくれる、あの顔を思い出してしまう。
――『俺が毎日、全部きれいに食ってやるよ』
陽くんの声が、耳元で再生される。
その瞬間、心臓がトクンと跳ねた。
冷え切った叔母の家で、私は明日ではなく、
明後日の「月曜日」を数えている。
学校に行きたい。
図書室に行きたい。
あの水の匂いと、屈託のない笑顔に、少しでも早く触れたい。
窓の外は、あの日と同じ雨が降り始めていた。
けれど、以前ほど絶望的な気分にはならなかった。
耳を塞がずに、窓を叩く音をじっと聞いていることができた。
私の手にはまだ、あの暗闇の中で彼が握ってくれた熱が、確かな記憶として残っているから。
「……月曜日、早く来ればいいのに」
小さな独り言は、雨音に消された。
けれど、私の心の中には、今までになかった小さな「光」が、ぽつんと灯っていた。
第八話へ続く___




