第7話 フェンリルとの戦い
「パニル、来い……!」
低く、切羽詰まった声でアランが怒鳴る。
背後では、フェンリルの唸りが大気を震わせ、黒い靄が辺りを覆う。
「きゅッ!」(許さない!)
小さな体は、逃げるどころか一歩前へ出る。
「……っ、馬鹿――!」
(怖い…けど!
訳もわからず、やられたくない!
私だって、二人の役にたちたい!)
その瞬間――パニルの周りが淡い紫色に光り始めた。
「これは、キノコの時と同じ…」
「でも、相手は神獣…無理よ!」
フェンリルが再び牙を剥き、黒い靄を収束させた。だがその直後、パニルの光りが更に強くなり、黒い靄がゆっくりと引き寄せられ、パニルの体へと吸い込まれていった。
「…グルァーー!!」
フェンリルが、今度は雄叫びをあげると、更に黒くなった靄が渦巻く。
「……っ!」
レイチェルが思わず息を飲む。
(そっか。フェンリルさん…苦しいんだね…)
パニルは小さな両手をかざすと、黒い靄が両手へ吸い込まれていく。
(うっ…!さっきより、凄い…手が熱い!)
「よせパニル、無茶だ!」
アランの制止も届かず、パニルは一歩、また一歩と前へ進んで行く。
すると黒い靄がほどけていく。まるで溶けるように、跡形もなく。
やがで、フェンリルは白い光に包まれ、本来の神獣の姿へ戻っていった。
「すごい…」
「今度は、浄化、した?」
完全に正気に戻ったフェンリルは、パニルを見ると一瞬目を見開き、三人に事の説明を始めた。
「最近、闇の力が強くなっているようだ。
私は、操られた狼たちに隙をつかれて、弱ってる間に心を蝕まれてしまった。情けない…そして感謝する。」
「あなたは、昨晩、話しかけてきた?」
パニルの体は思うように動かず、その場に倒れてしまう。それをアランが優しく抱き上げた。
「ああ、自我が少し残っていたから…
誰かに、聞こえて欲しいくて…」
「そう、ですか…救えて、よかった…」
そう言うと、パニルは意識を手放した。
「…その子を守ってくれ。」
フェンリルは静かに告げる。
「今日の出来事は、いずれ波紋のように広がっていくだろう。
そして、そなたたちの旅路はこれまで以上に厳しくなる。――だが」
言葉を続けかけたが、フェンリルは目を細めて飲み込んだ。
「わかりました。て、もうパニルは仲間なので!守るのは当然です!」
「それに、守ってもくれるんです…小さいのに、頼りになるんですよ。」
二人もまた、目を細めてパニルを見つめていた。
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パチパチと言う音と暖かさで、パニルは目覚めた。
(ん、ここはどこ?)
「あら、パニル起きてたのね」
レイチェルが薪を持って、部屋へ入ってきた。
優しくパニル撫でながら、ここがテュセの村で、テュセのベッドの上だと言うことを、説明してくれた。
(テュセの所に行くって約束してたもんね!おじいちゃんはどうだっただろう?)
「きゅ、きゅきゅんきゅん、きゅきゅきゅきゅきゅ?」
「……。」
「…………。」
「あはははは!パニル!何言ってんかわかんねーわ!」
レイチェルとテュセは目が点に、アランはお腹を抱えて笑っていた。
この光景が、いつしかパニルには居心地よくなっていた。
「ごめんね、パニル…」
(あ、ジェスチャーなら!)
パニルはテュセを指さし、その後寝そべり、レイチェルを指さした。
「あはははは!」
大笑いするアランの頭を豪快に叩くと、レイチェルはパニルを抱き上げた。
「テュセのおじいちゃんの事でしょ?」
そう言うと、テュセと共に祖父の部屋へ向う。
パニルの心は期待と不安が入り交じっていた。
つづく。




