第23話 レイチェルとテュセ
翌朝。
テュセと母親の口論する声で起きる。
(何事?)
ウトウトするパニルをよそに、レイチェルとアランが部屋を出る。
「――ダメよ!」
「なんで!?私だって、パニルの事心配だもん!」
「それでも、今度の旅は長くなるのよ!?エルフの里はここから1ヶ月かかるの!」
「っ!?待ってください!忘却の森が何処にあるかなんて、人間がわかるはずないわ!」
思わずレイチェルが口を挟む。
「……私の祖父はエルフなんです。」
「え?帝国へエルフが行くなんて…
――もしかして!」
「そう。戦争時に、負傷してそのまま帝国に残ったエルフは数人居ました。祖母は看病していく中、その一人と恋に落ちました。」
レイチェルは一つの望みをかけて、言葉をつなぐ。
「そのエルフの、名前…聞いても、良いですか?」
「…コーウェンよ。」
「っ!!」
レイチェルは名前を聞くと、泣き崩れ、それをアランが受け止める。
「レイチェル。そのエルフって!」
「…うぅ…ええ、そうよ。戦争に行った、叔父さん。」
勢いよく顔をあげると、母親の肩を掴んだ。
「叔父さんは?…叔父さんは生きてるんですか?」
「…それが、祖母が亡くなって1週間たつと、何処かへ行ってしまって…それきり音信不通なの。」
「そんな…。お父様も心を痛めているんです。」
「祖母の事を、すごくすごく愛していたので…亡くなって憔悴しきっていました…」
「…まさか!?」
「それはないと思います。でもあなたならエルフの波長を感じとれるのでは?」
「そう。ですけど…そんな広範囲はわからないので、帝国に行っただけじゃあ…」
「待って!じゃあ私とレイチェルは親戚って事!?」
テュセが大声で割り込んだ。
「ぎゅ!?」(え?テュセとレイチェルが親戚?)
あとから加わるパニル。
「そうよ。血は薄くなってるけど、あなたにもエルフの血が流れてるわ。
だから弓が得意なのかもね。」
「……。」
思ってもいない事実に固まるテュセ。
オロオロする母親。
悲しみに浸るレイチェル。
何とも思ってないアラン。
(カオスだ…。)
パニルは起きて来なければ良かった。と思った。
そんな空気を破ったのは、祖父だった。
「良いんじゃないか。みなさんが居るんだ…迷惑かけるかもしれないが、よろしくお願いします。」
頭を下げる祖父に、母親は何も言えなかった。
「迷惑だなんて。な!
パニル、レイチェル!」
「きゅんきゅん」
「ええ。」
笑顔でテュセの手を取るパニルと、複雑な表情のレイチェル。
対照的だが、気持ちは同じだった。
数日後に出発する事にした四人。
ひとりパニルは、フェンリルの居る山頂を見つめていた。
(フェンリルさん…お願い。返事をしてください。)
念のようなものを送り続けるパニル。
(……。フェンリルさん、聞きたい事があるの。)
閉じた目から涙が滲むと、頭に直接声が聞こえる。
(…パニル……)
(フェンリルさん!)
(本当は、こういうのは…)
フェンリルの言葉を遮り、パニルは続ける。
(夢で女の人に会って、私がした事も…みんな運命って言われたんです。何か知りませんか?)
パニルは目を閉じたまま、祈るようだった。
(……それは多分、女神だ。
だが、わしからはそれ以上は言えない。あの方が話してない事までは、言ってはいけないのだ。すまないパニル。)
(女神さま…)
(わしから言えるのは、運命からは逃れられない。逆らえばどうなるか…。)
(……そうですか。ありがとうございました。)
それ以上聞けず、会話は途切れた。
(……あとはエルフの里の文献か…)
パニルは期待と不安で眠れずにいた。
旅支度を終えて、別れも惜しみながら、四人はテュセの家を後にした。
「今回は長旅だな。」
アランは改まって言う。
「きゅぷぷ」(エルフの里はどこなの?)
レイチェルの腕の中に居るパニルが、見上げる。
「ん?…あ、エルフの里がどこか聞いてるのね?最初にパニルを鑑定してもらった、神殿を過ぎて、その先の森と山を…長いわね…」
「ぷきゅきゅ…」(1ヶ月だもんね…)
「のんびり行くかー!」
「私、色んな街寄りたい!村周辺しか行ったことないの!」
まるで旅行へ行くかのように、テュセが手を挙げて提案した。
「そうね。パニルが良ければ。」
「きゅう。」(すぐに何かある訳じゃないもんね…)
しばらくは何事もなく旅は続いた。
美味しい物食べて、ひと部屋しか借りれなくて、ぎゅうぎゅうになって寝たりと、どこかの街のカーニバルに参加した。
パニルは楽しくて、不安は段々と薄れていく。そして、このままみんなと居たい。と心から思っていた。
ひとときの安らぎなのも知らずに…。
つづく。




