第20話 目覚めと逃亡
パニルは真っ白な砂浜に居た。
(ここどこ?…)
すぐに思い出す。
おぞましい、けど自分の殺戮も。
(――そうだ。私…)
その場にうずくまると、涙がポロポロと止まらない。
(たくさんの人を…殺しちゃったんだ…。)
「…大丈夫です。あれは運命。
あの者たちも、貴方もまた。」
(誰!?)
そこには、輪郭が白く光る、女の人が立っていた。
(あなたは誰なの?)
「私は――。あまり時間が――。みんな貴方を待っているわ。」
(待って!運命って何?私はなんなの!?)
「ごめ――い。―また会えるから。」
女の人が消えると同時に、パニルの意識は現実に戻った。
…ゆっくり目が開く。
「パニル!?」
レイチェルが、その場から弾かれるようにパニルの元へ駆け寄る。
「大丈夫?ここは宿屋よ。全部終わったから。」
(みんな…それでも私は…)
瞳に涙を浮かべる時、アランがパニルを思い切り抱きしめる。
「パニルごめん!俺…ごめんな…」
パニルが涙を落とす前に、アランの涙がパニルを濡らした。
(あぁ、そっか…アランは私を止めてくれようとしたんだ…)
あの時のように声は出ないパニル。
それでもアランを宥めるように、小さな手でトントンと叩いた。
しばらくアランのすすり泣く声が響いていた。
「…パニルは、もう喋れないんだね。」
「きゅぅ…」
「ダメな訳じゃないよ!残念って感じかな。」
「そうね…。でも今だって何言ってるかわかるから、気にならないわ。」
レイチェルはパニルの頭を撫でながら、続ける。
「あのね、あなたの龍と同じ姿の文献を、エルフの里で見たの。」
パニルはレイチェルの手を掴み、見つめる。
「うん。行こう?その前にテュセの家に行くけど。」
「ごめんね。どうしても確かめたい事があるの…」
(おじいちゃんたちの事だよね。)
「きゅうきゅう!」(もちろんだよ!)
「ありがと!」
パニルの目覚めに喜び、あっという間に時間が過ぎた。
朝早く、ドアを叩く音でみんなは起きた。
「なんだ?」
「警戒して!」
テュセが少しずつドア開ける。
「――セリナ!?」
「テュセ。居てよかった!」
「どうしたの?」
「あなたたち、城を壊したの?
ギルドに兵士たちが来て、色々聞かれたの…もちろん知らないって言ったけど、映像にあなたとエルフの人の後ろ姿が映ってて…」
「私と、レイチェルが居たところだ…」
一同は息をのんだ。
「他は?何か映ってた?」
「爆発しているような光が。」
(それって…)
「わかった、もういいよ。」
アランが口を挟む。
「…テュセは友達よ。何があっても、これからも。」
「セリナ…ありがとう。」
「広い通りは兵士が通るから、裏道へ行って。黒いフードを被った、コウモリみたいな格好の女の人がいるから、その人に、雪は降らないみたいです。って言って。」
セリナが話していると、宿屋の外から話し声が聞こえてくる。
「まずいわ…いい?その女性に着いて行けば、氷狼の山へ続く道へ案内してくれる。遠回りになるけど、確実よ。」
「セリナは?大丈夫なの?」
「大丈夫。私はただのギルドの受付よ!」
セリナは片目をつぶって見せた。
「さぁ、早く!」
「ありがとう!」
「ぷきゅ!」
「え!可愛いー!
テュセ、今度私にも抱っこさせてね。」
笑顔で手を振るセリナに、悲しみを含んだ笑顔を返した。
「急ごう。」
物音をたてないように、四人は宿屋を裏から出て行く。
「どっちだ?」
「…こっちじゃない?
向こうは明るいから、きっと大通りよ。」
暗く、かび臭い方へ向かって行く。
黒いマントに、黒いワンピースを着た小さい体の人が座っていた。
「あの人じゃない?」
「行ってみよう!」
その座ってる人の前まで行く。
「あのう…」
「……。」
「すみません。」
「……。」
「あのー!ってば!」
イラつくテュセの肩に、アランは手を置いた。
「ゆきはふらないみたいです。」
その人はスっと立つと、ドアを開ける。
「…こちらへ」
「は、はい。ありがとうございます。」
「パニルは念の為、鞄の中に。」
「ぷきゅ」
外見は古びた家だが、中は山道へと続く洞窟のドアがある。
「すげーな…。」
「……別れ道の所に、老人が居ます。その人に、雪は降り出した。と言ってください。」
「ありがとうございます!」
行こうとした時、表通りのドアを強く叩く音がする。
「っ!早く行きなさい。」
「あなたは?」
「大丈夫。ここは表向きは雑貨屋なんだ。なんもされはしないよ。」
「……。」
テュセは、その人に抱きつく。
「…ごめんなさい」
「お嬢さんは何も悪い事をしていないよ。
私たちは、帝国のやり方に不満を持っている者の集まりだ。…壊してくれてありがとう。」
「…また……いつか。」
「えぇ。いってらっしゃい。」
セリナ同様、笑顔で手を振り、四人を見送った。
「無事に出られますように…」と。
つづく。




