第15話 研究所へ潜入
3日かかる道のりは、カバのような動物、プラットに荷物を乗せ進んで行く。が、砂漠ばかりで決して楽ではなかった。暑くも寒くもないけど、見渡す限り砂のため、四人は精神的に疲れていた。
(みんな疲れてるな〜…私はプラットくんに乗ってるから、まだ楽だけど…)
――すると、砂埃の向こうに光の点が見える。
「ぷきゅーきゅきゅー!」
「どうしたの?」
「きゅ、きゅ。」
パニルの指刺す方向を、目を細めて見る三人。
「あれ、あれ!帝国じゃない!?」
「ほんとだ!光が見える!」
「きゅんきゅん」
「もうすぐだね!」
「あそこの大きい岩で、野宿するか。」
「そうだね。魔物に気をつけて。」
「でも、ほんとにこの石魔物が寄ってこなくて、すごいな!」
「そうねー。でもこれから帝国にもっと近づくし、油断できないわよ。」
手際よく野宿の支度をすると、見張りをする者休息する者と、分かれた。
「…テュセ」
岩の上で見張りをするテュセに、レイチェルが話しかけた。
「家族の事も何かわかるといいわね。」
「…うん。…でも少し怖いな。
オアシスの瘴気だって、研究のせいかもしれないでしょ?」
「それは…もしそうでも、おじいさんたちが関わってるわけじゃ…もう10年以上前の事なんだし。」
「それでも…――そうね!行って確かめればいいのよ!」
「ふふ。テュセは強いわ。何かあっても皆がそばに居るから。ね!」
「うん。ありがとう。」
テュセがレイチェルの肩に寄りかかる。
夜は一層更けていき、それと同時に、彼女の体の重みがゆっくりと増していった。
やがて、ぴたりと動かなくなる。
日の出と共に帝国へ出発すると、魔物が容赦なく襲いかかってきた。
「石の効果が効かない魔物なのね…」
「まぁ、でも俺たちの敵じゃあないな!」
(全然余裕って感じ…やっぱりみんな強いなぁ。)
目の前の魔物を一掃して行くと、高くそびえ立つ壁と、てっぺんが見えないくらいの煙突が並ぶ、広大な帝国に到着した。
ここでもパニルを隠すため、レイチェルの鞄の中に入ると、門番の所まで行く。
「なんだお前たちは。」
「冒険者をしてます。魔物のレアアイテムを探していて、今日は宿をとりたいと…。」
「んー…」
鋭い眼光で門番は三人を見定めた。
三人は緊張と警戒で、何も言わず、ただ時間が過ぎるの待った。
「……行っていいぞ。」
「ありがとうございます。」
「――待て!」
呼び止められると、三人は体が強ばりながら、ゆっくりと振り向く。
「っ!?」
「はい?」
「プラットは中までは行けない。入って右の小屋に預けておけ。
そのまま真っ直ぐ行けば、冒険者用の宿屋が並んでいるから、行ってみるといい。」
「親切に、ありがとうございます!」
アランは冷や汗を流しながら、悟られないよう礼を言うと、三人は門を足早にくぐり抜けた。
「……大丈夫、だよな」
アランが小さく呟く。
「油断はできないわ。」
レイチェルはプラットを、小屋の主に預けながら周囲に目を走らせ、声を潜めた。
行き交う人々。高くそびえる建物。
賑わっているはずの街並みが、どこかよそよそしく感じる。
「早く宿に入って、様子を見ましょう。」
「ああ。潜入経路も確認しないとな。」
宿の一室。
パニルは、やっと自由だ。とばかりに、レイチェルの鞄の中から飛び出した。
そして、テュセがそっと紙を広げる。
「……これ、おばあちゃんが描いてくれた研究所の地図。ずっと変わってないから、今も同じじゃないか。って。」
机の上に広げられたそれは、簡素ながらも要所はしっかりと記されていた。
「ここが門で――」
指でなぞりながら、テュセは小さく続ける。
「目的の場所は、この辺り。」
「随分、奥だな……」
アランが眉をひそめる。
レイチェルはしばらく地図を見つめたまま、やがて口を開いた。
「正面からは無理ね。隠れそうな場所がないわ。」
「裏道か……」
「それか――」
指先が、細く描かれた路地に止まる。
「ここ。ダクトって書いてあるから、入れるかも。」
「……よし、ここから入ろう。」
四人は早く休むと、まだ夜が明ける前に行動に移した。
まだ薄暗いせいか、人の気配はない。
地図の通りに行くと、人が通れるくらいのダクトがあった。
四人は素早くその中へ身を滑り込ませた。
狭い通路を、息を潜めながら進む。
何度か分かれ道に迷いながらも、足を止めることはできない。
かすかに空気が変わった。
(変な臭いがする…。)
「っ!?何、この臭い。」
いち早く臭いに気づいたのは、パニルとエルフのレイチェルだった。
地図に記された位置。
目的の場所に辿り着いたはずなのに、誰一人として安堵の表情は浮かべなかった。
「ほんとだ。臭い。」
鉄のような、生温い臭い。
アランとテュセも臭いに気づく。
ダクトの出口の先は、暗く沈んでいた。
アランは静かに身を乗り出し、誰もいないか下を確かめる。
「よし、行くぞ!」
音を立てないように、床へと降り立つ。
「いいぞ!大丈夫だ」
続いてテュセ、パニルを抱えたレイチェルも順に降りる。
そこには、目を疑うような光景が広がる…。
つづく。




