第16話 残酷な覚醒
残酷な描写があります。
――そこに広がるのは…。
「な、なんだ、これ…。」
魔物の研究。
解体はもちろん、人間と魔物の交配。魔物を人間に移植。またその逆も。
そして、魔物の物なのか、人間の物なのか分からない臓物から滴る血が床を濡らしている。
「っ!」
「いやーーー!!こんなの!
おばあちゃん…おじいちゃん…」
取り乱すテュセ。
「テュセ!見ないで!落ち着いて。」
子供をあやすように、レイチェルはテュセを抱きしめる。
「…惨いな…。
レイチェルは、テュセについててくれ。」
アランは薄暗い部屋の先へ、パニルを抱いて進んでいく。
「た、タスけて…」
半分魔物半分人間の、足枷の付いた小さな子供が、視界の隅から入ってくる。
(え?…この子右半分は人間なのに、左半分が…っ!)
同じような子供が数人、こちらを見ている。
「なんだ?この子はっ!どういう事だ?」
部屋が明るくなり、研究員たちが入ってきた。
「なんだお前たちは!?」
「っくそ!もう来たのか!」
「この子たちは、父親が魔物、母親が人間。やっとここまで形になったんだよ〜」
研究員の後ろから、自慢げに博士が入ってくる。
上記した顔で、レイチェルを見る。
「君たちはお客さん?じゃないよなぁ。
まぁいい。エルフと魔物もやってみたいと思ってたんだよな〜」
「――っ!
なんの権利があって、こんな事!!」
アランが声を荒らげる。
「くくくっ。我々は強い人間。…兵器になる人間が欲しいんだ。戦争のためにな。」
くつくつと喉を鳴らす博士を見て、パニルの中で何かが弾けた。
一瞬だけ、すべてが止まる。
「……っ」
抑えきれない何かが、体の内側から噴き上がる。
(なに……とまらない……)
黒い力が溢れ出し、パニルの小さな体が、軋む。
「っ……パニル!?」
無意識にアランが名前を呼ぶ。
パニルのからだは膨れ上がり、形が変わっていく。
「グギギゃーーー!」
空気を震わせる雄叫び。
同時に、口から稲妻が走る。
よく分からない機械も、可哀想な者たちも研究員も、目の前のものは、全て丸焦げになる。
「おお!なんという強力な魔物!実に欲しい!!」
興奮する目でパニルを見る博士に向かって、口を開けると、轟とともに辺りは眩しく光る。
博士と周りのものは、跡形も無くなった。
「おい!パニル!どうしたんだよ!」
龍の動きが止まり、ギラつく瞳がアランを捉える。
「グルルっ!」
低く唸る。
口を開ける。
――だが、放たれる様子はない。
「…パニル?」
その声に、瞳が僅かに揺れる。
沈黙が長く感じる。
そして。
「…アラン。…とめ、て…」
誰も聞いた事のない声。
瞳から涙が零れる。
「パニル…お前…。」
アランは、震える手で杖を握る。
いつかの決意。
「俺が、…止めてやるから…」
ぽたりと、涙が落ちた。
龍を見据える。
――その瞬間。
「アラン!やめて!」
レイチェルの声が響く。
「だがっ!」
「その子はパニルよ!」
言い切る声。
「…やめて、アラン…」
レイチェルの後ろで震えるテュセが、かすかに首を振る。
しばらくすると、鈍い音と共に地面が揺れた。
巨体は倒れた。
龍の体が淡く光ると、輪郭が揺らぎ、牙も大きな爪も、溶けるように消え、ゆっくりと縮んでいく。
そして小さな見慣れた姿が、あとに残った。
「……パニル…っ!」
アランは震える声で呼び、滑るように駆け寄ると、そっと抱き上げた。
その小さな胸は、かすかに上下する。
騒ぎを聞きつけた、皇帝と帝国兵が研究室に流れ込んでくる。
「なんと言うことだ!せっかく未来が見えてきたと言うのに…誰がこんな事…」
咄嗟に瓦礫に隠れる四人だが、見つかるのも時間の問題…と、思っていたが、自由になった魔物と半人半魔が、帝国兵を襲う。
「――ぐはっ!」
「下がれ!陣営立て直せ!」
指揮をとる皇帝に側近が近づく。
「陛下!ここは危険です。市街地に出ては、被害は更に拡大します。」
「…そうだな。」
外へと続く通路の奥から、悲鳴のような音が響いてくる。
「魔物が外へ出るぞ」
アランが低く呟く。
「ここも危ないわ…」
レイチェルの顔色が変わる。
「それに……」
テュセの視線の先には、チリチリと焼ける資料と、砕けた装置。
「…パニルのこと、調べるだけのはずが…」
「……全部、壊しちまったな」
誰のせいでもない。
けれど、取り返しはつかない。
遠くで再び魔物の咆哮が響いた。
「この間に、逃げよう。」
「そうね。テュセ、走れる?」
「うん。…私、帰っておばあちゃんたちと話さなきゃ。」
「そうだな。帰ろう!」
三人は、パニルが壊した壁の穴から外へ出る。
不安をよそに、魔物は市街地には出てきてはいなかった。だが、研究所と城半分が崩壊していた。
「っ……。」
混乱の中、プラットの背にパニルを乗せて、来た砂漠を戻っていく。
沈黙が続く。
最初に口を開いたのはレイチェルだった。
「…あのね。…エルフの里の、図書館にあった古い文献で見たの。
パニルに似た龍が、描かれていた。」
「エルフの里に行けば、わかるって事か?」
「少なくとも、龍の事なら…確信はないけどね!」
「…行ける、のか?」
何か含んだように、アランが聞く。
「うん…説得は、してみる。」
「何かあったの?」
テュセが不思議そうに聞いてみる。
「ん、道中長いからな。歩きながら話すよ。」
アランは、ゆっくりと、懐かしそうな顔をしながら話し始めた。
つづく。




