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サイバーファンタジーの異世界で本気出す  作者: 南田華南
完結編

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第67話 復活のベンジャミン・ベーコン

 口から放った高出力レーザーを重力操作魔法に弾き返され、グッドマンは

 ダメージを負った。だが即座に、彼は勝利への最適解を導き出すべく

 脳内演算を限界まで加速。ベンジャミンに雷の最強魔法を解き放った。


邪黒雷鳴波ダーク・ライトニングッ!!」


 グッドマンの咆哮と共に、てのひらには凝縮ぎょうしゅくされたプラズマが発生。死のムラサキ

 帯びた電弧アークが走り、特大の光球が、巨虫を駆るベンジャミンに迫っていた。 


 だがベンジャミンはひるまない。しもべである巨虫のハネが臨界駆動を開始した。


昭雷轟翼虫しょうらいごうよくちゅうの能力発動! 武臣雷むしんらいッ!!」


 巨虫の大気を引き裂く超振動が、「放電路」を構築する。二つの雷撃が

 衝突し、火花となるそのスキに、ベンジャミンは量子操作の真髄しんずいを見せた。


 空気中の光子や電子を変換し、魔法陣を生成。黄金色のオーラを放出し、

 空間から無数の矢が顕現けんげんした。ベンジャミンは指を弾き、魔法名を唱えた。


「我は放つ、水の破魔矢。流星水神弾りゅうせいすいじんだんッ!!」


 宙で静止した矢は、突如現れた水の渦の加護で旋回を始める。猛烈な回転を

 加えた水流の弾丸は、逃げ場を奪うように竜王グッドマンへと突き進んだ。


「読めていたッ!! 死虐赫風デッド・レッド・ストームッ!!」


 グッドマンの黒い翼が超速で羽ばたき、大気を削る摩擦熱が極限まで高まる。

 熱エネルギーに焼かれた空気分子は原子崩壊を起こし、無数の火球と変貌した。


「フハハハハッ! 魔法に捧げた人生、それこそワシの努力の『歴史』ッ!!」


 降り注ぐ隕石のごとき火球は、翼の風で加速し、全方位からベンジャミンを

 襲う流星群のようだった。だがベンジャミンは乗っていた巨大昆虫を量子

 分解。空気中から酸素を排斥はいせきし、純度100%の液体窒素の壁を築き上げた。


自己忠神域エゴ・サンクチュアリ★」


 襲いかかる火の砲弾は、その不可視の極低温の壁に触れた刹那、爆音も

 上げず、蒸発していった。同時に彼は、仲間を模したホログラムに重力

 操作魔法を詠唱させ、自らは空中に静止する。もはや、一進一退の熾烈しれつ

 魔法バトルだが、ここにいたり、ベンジャミンは本気を出すことを決めた。


「愛が万物の起源だったんですよッ!! 自分を愛することが、世界で自分の

 存在を見出すんです!! 見せましょう・・・僕が愛する二人の魔法をッ!!」


 ベンジャミンは、空気中の水素、窒素、酸素を量子分解し、さらに周囲に

 漂う魔素細菌マナ・バクテリアを炭素源へと変換・再構成した。ベンジャミンはつぶやいた。


「僕が愛したフェイさん・・・いまこそ力、借りますね★」


 瞬時に生み出された魔物は、禍々しき『黒霧くろぎり死霊しりょう』。それは脳に蓄積ちくせきして

 意識を強制終了させる睡眠物質、アデノシンの結晶であった。起きている

 時間が長くなるほど脳にまり、さらに限界を超えれば抗うすべなく意識を

 奪う眠りの毒霧どくぎりが、巨竜グッドマンの神経系を内側から食い破っていく。


「光と闇に生まれし愛、混沌はなんじに告げる・・・永究死眠レスト・イン・ピースッ!!」


 意識を強奪する、究極の金縛り。漆黒の巨竜は飛行能力を失い、ただの巨大な

 質量となって、墜落ついらくした。遠のく意識の中で、グッドマンが最後に捉えたのは、

 眼下に迫る空母の管制塔。――「死の賢者」と呼ばれた男に、死が迫っていた。


「これは、貴方あなたに殺されたフェイさんとジョーの愛です。僕の脳内に残る、

 三人のおかげで、愛の極意を知りました。僕の愛で安らかに眠れ、愚民★」


 ベンジャミンは、『妄想の中に生きる三人』を身勝手に愛することで、自分の

表現魔法ファンタジー』の具現化を増幅させる誓約せいやくを加え、再現した魔法の威力も上げた。


 轟音と共に竜が塔に突き刺さり、炎が上がる。そこには、もう逃げ場のない

 カイザーと博士がいた。仲間の重みが、二人を無慈悲に押し潰したのである。 


 管制塔が瓦礫ガレキとなるその瞬間、第四甲板にある格納庫で異変が起きた。


 突如ミイラ化したロズノフたちの体から緑色の発光体が次々とあふれ出し、

 砂へと崩れ去る。だが、その砂は宙に浮かんで新たな輪郭りんかくを編み上げた。


 数秒後、現れたのは、漆黒のシルエットに緑の数字が明滅めいめつする「何か」だった。


「0」と「1」が高速で循環しているバイナリーコードの人型の物体。その黒い

 影の中には、行き場を失った無数のロズノフの『宇宙』が、凝縮ぎょうしゅくされていた。


 全ては加速時間の結界が生んだ「偶然」。多元宇宙の弾丸と、この宇宙の

 物理法則をねじ曲げるエネルギーがぶつかり、エントロピーが暴走した。


 本来なら多元宇宙へとかえるはずだった、膨大なエネルギーは、出口をふさがれ、

 新たに生まれたバイナリーコードの『結界』に圧縮され、閉じ込められた。


 漆黒の体に緑の文字を宿した『謎の怪物』は、そのままどこかへ消失した。


 空母の格納庫で起きた『異常事態』と呼応し、突然空から降ってきた黒い竜に

 プライベートジェット機を警護していたボディガードは慌て始めた。すぐに、

 量子通信でパーティーに参加している著名人や政府の要人に脱出をうながした。 


 ジュリアを背負ったジンは、目的地である飛行甲板に着いた。脱出手段の

 航空機まで、あと少し。生還を確信し、ジンは量子通信でクーロンに

 コンタクトを試みる。だが、何度呼び出しても彼から応答はなかった。


 次の瞬間。もう一人の『ジン・ゼッカード』が語りかけた。


 異世界へ転生した際、意識の底に沈んでいた、本物のジンである。今や

 『亡霊ゴースト』としてその存在を取り戻したジンは、自分の意志を無視して、

 体を占有する元地球人のジンに対し、静かに、だがはっきりと告げた。


偽者ニセモン取引ディールしねぇか? お前、魔法使えなくて困っているな?」

「あ? お前と話している暇はねぇッ!!」


「ククク・・・。オレ様は魔族だ。魔法生成AIと同じように、演算で魔法を

 発動できるんだ。お前はもう降りろ。オレ様に体を返せば、魔法を使い、

 お前の敵を全員ブッ殺してやる。その代わり、お前はもう消えるけどな。」


「・・・なら断るぜ。魔法生成AIは、AIbirthエーアイバースが管理している。お前、ウソを

 つくの下手くそだな。魔法使えるならAIなんて利用しないだろうがァ!!」


「ハハハッ!! 読みが甘い!! 魔法生成AIを購入したのは『戦略』だぜ?」

「・・・んだとぉ?」


「オレ様とアミで別個の術式を並列演算すれば、連続魔法が撃てる。身体強化を

 維持したまま魔法を叩き込むのも造作もねえ。だが、『道具アミ』ってのはマジで

 使えねえな。AIは魔素細菌マナ・バクテリアを殺菌されりゃ黙り込むし、オレ様が電磁パルスを

 食らえば道連れで壊れる。あと、助言だ何だと抜かしやがるのがウザいな。」


 本物のジンは、元地球人のジンと異なり、魔法生成AIをただの「道具」としか

 見ていなかった。アミは、効率的に連続魔法を放つための手段に過ぎない。

 AI並みの計算速度を誇る『魔族』である彼は、本来AIの補助など不要なのだ。


 それでも彼がアミをその手に収めていたのは、より苛烈な「攻撃手段」を

 求めたからであった。その傲岸不遜ごうがんふそんな態度に、元地球人のジンはキレた。


「テメェ・・・ふざけんじゃねえッ!! アミはなぁ、いつも無茶するテメェに

 付き合っているだけだッ!! ミシェルもだ。聞いたぞッ!! テメェは、

 ミシェルの話を聞きもしないで、ずっと自分の話をするだけだってなッ!!

 テメェそれでもアイツの彼氏かッ!! 他人のことを何だと思って──」


「ハハハッ!! ミシェル? あんなの修理屋に決まっているだろ。」

「ア゛ア゛ンッ!?」


「オレ様が戦闘で壊れたら直す。それだけだぜ。一度、夜にあいつが発情して、

 オレ様に抱きついたが、ブン殴ってやったぜ。オレ様は、サイボーグや、

 機械生命体ミュータントと戦うのが信条だぜッ!! 愛とかキモい感情はねぇッ!!」


 本物のジンは、自分を愛する者に微塵みじんも関心がなかった。彼の魂をがすのは

 強敵との死闘のみ。彼に愛などという概念は、欠片カケラも存在しなかったのである。


「ミシェルを殴っただとォ!! テメェは絶対に許せねえッ!!」


「ハハハッ!! お前、あいつが好きなのかよ。女なんてガキつくるしかない、

 弱い動物だろ? AIもそうだな。あいつらは、企業から自由になれねえザコだ。

 似た者同士だな。ミシェルもAIも、オレ様からすれば『金魚のフン』だ!!」


「黙っていろッ!! オレは取引しないッ!! テメェに頼まずに魔法を使う

 方法なんてあるッ!! オレは決めたぞ・・・今後クズみてえなテメェとは、

 いっさい取引しねえッ!! だからもうオレの前に二度と出てくるなァ!」


「ククク・・・ハハハッ! 教えておくぜ!! テメェがなんでクーロンと

 連絡が出来ないのか。オレ様がお前の無意識を操り、通信を切断したんだよ。

 あまりオレ様を怒らせない方が身のためだぜ。偽者ニセモン、アバヨォッ!!」


 転生者のジンが、殴れぬ肉体の旧主へと怒りを爆発させた刹那、背後から

 声が届いた。背負っていたジュリアが、やっと意識を覚醒させたのだった。


「うう・・・ジ、ジン!?」


「ジュリア!! あと少しでお前を直せる奴らが乗っているオレらの飛行機に

 着くから、もうちょっと頑張れッ!! オレが絶対助ける、オレを信じろ!!」


「ジン・・・あのね・・・あたし・・・あんたをずっと・・・ス──」


 突如、ジンとジュリアの背後――塔の残骸から閃光と爆音があがった。


自然全快ネイチャー・フルスペックッ!!」


 ドラゴンの体を削り、エネルギーを人間形態の身体回復へ転換する。

 肉体は完治したが、精神は削り取られ、闘争の灯火ともしびも限界を迎えた。


 グッドマンは、偶然にも「彼女を抱えた男」をとらえた。男が女の子を

 背負っている。上空のベンジャミンは、自分の復活に気づいていない。


 老人は残った演算リソースを投じ、両手を銃の形に固める。


「リア充、死すべしッ!! 光子連射フォトニック・マシンガンッ!!」


 彼の指から、光子が光弾となって掃射された。とっさにジンが

 振り返ると、グッドマンの『最後のあがき』が目前に迫っていた。


 間に合わない。せめて、ジュリアは――。


 ジンがジュリアを庇おうとしたその刹那、聞き覚えのある声が響いた。


最硬度障壁マグニフィセント・ウォールッ!!」


 飛来する光子の弾丸が、展開された電子の壁に阻まれ、つゆと消える。


「え?」


 ジンは、顔を上げた。ミシェルだ。だが、今の彼女はジンが知る、

 いつもの少女ではない。今の彼女は彼の脅威を断つ者――『BOSSボス』。

 彼女の別の「顔」に触れ、ジンの思考回路が、激しい火花を散らした。


「バ、バカな・・・。あ、愛とは・・・な・・・ん・・・じゃ。」


 グッドマンは、渾身の一撃をしのぐ少女の魔法を前にし、呆然ぼうぜんとする。刹那、

 限界を越えた脳と肉体が沈黙した。老賢者は、雷を統べる女帝の前に敗れた。

 ついに彼は、個人の努力にまさる『仲間の愛』を理解できなかったのである。

次の話は4月26日、日曜日の10時に投稿します。ご愛読ありがとうございました。

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