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サイバーファンタジーの異世界で本気出す  作者: 南田華南
完結編

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第66話 イメージしろとは進化しろという意味である

 ジンは、ナジュリに教わった部屋の扉を開け、瀕死のジュリアを必死に探した。


「どこだッ!? ジュリア、返事しろッ!!」


 真紅の髪、褐色の肌、緑の迷彩服に身を包んだジュリアが横たわっていた。


 ジンは駆け寄ると、力強く彼女を抱き上げて、脱出路を確保するために

 部屋から廊下へ飛び出す。敵はいない。今なら「飛行甲板」へ辿り着き、

 ジュリアを自分達が乗ってきた航空機に乗せ、離脱できると確信した。


 ジンが廊下を疾走していると、別れたばかりのナジュリから量子通信が

 入る。廊下を走るジンの脳内へと、ナジュリの切迫した声が響き渡る。


「ジンか!? すまん・・・グッドマンを・・・取り逃がしたッ!!」


「なんだってッ!! 奴はどこにいるんだ!?」


「竜となって天井を突き破り、今は上空だ。私の不手際だ。これより公務省へ

 連絡し、ミドロワ空軍に攻撃を要請する。――ジン、ジュリアは無事か!?」


「ああッ!! お前のおかげで何とかジュリアと出会ったぜッ!!」


「それなら安心だ。彼女は、ロズノフに襲われていた。ジン、お前に

 相談したいことがあったのを思い出したんだ。意見を聞かせてくれ。」


「ん? グッドマンのことじゃなくてロズノフのことか?」


「私は、ロズノフを結界に閉じ込め、奴が老化で死ぬのをこの目で見た。だが。

 私は、ロズノフが生きている可能性を感じた。奴は、『多元宇宙の自分』を

 並列化し、演算させると言っていた。つまり、ロズノフは何度でも復活する。」


「マジかよ・・・。オレが島で見たのと同じか。あいつはナージャに撃たれても

 次の瞬間無傷だったんだ。量子化じゃなくて、多元宇宙の魔法なのかよッ!?」


「ああ。いきなり手の内を明かした時は罠かとも思ったが、奴は私の目前で

 分身してみせた。だが、奴らと弾丸は滅びた。別の宇宙から来た存在でも、

 奴らが『物質』である以上、この宇宙の『加速時間』からは逃れられない。」


「弾丸のエネルギーと、加速時間のエネルギーが衝突したのかもな。」


「私の結界が強いた加速時間は、内部構造を直接破壊し、風化させられる。

 私なら奴を制止できる。だが、奴を復活させるプロセスは止められない。」


「・・・長期戦になれば、ロズノフの勝ちだな。奴が別宇宙から魔法を唱え、

 こっちの世界で復活するのか・・・多元宇宙を壊さないとダメみてえだな。」


「ふむ。そこでだ。クーロンに頼もうと思う。」


AerospaceXエアロスペースエックスのクーロンか? 確かにあいつは宇宙にめちゃくちゃ

 詳しいが、宇宙を壊すなんて出来るのか!?」


「あの男は、ブラックホールの蒸発にさえ耐える量子ナノマシンを開発させ、

 事象の地平線をすり抜けて『地球』を目指している男だ。ブラックホールから

 ホワイトホールへ。その果てに、未知の領域が広がっていると私は踏んでいる。

 クーロンなら何らかの解答を用意できるはず。ふむ・・・私も変わったな。」


 ナジュリはクーロンを頼ろうとする自分自身の心境の変化に、驚いていた。


 MRBのスパイであるナジュリは、クーロンは排除すべき危険

 人物であった。あの時、ジンが止めなければ、この可能性にも

 気づかなかった。過去の自分を捨てるように、ナジュリは言った。


「クーロンなら、AIbirthエーアイバースに頼んでアミを助けることができるッ!!」


 その瞬間、ジンに希望がいた──クーロンが語っていたAIbirthエーアイバースとの繋がり。

 魔法生成AIの開発元を知る彼ならば、全損したアミを救えるかもしれない。

 ジンはクーロンに連絡しようとする。その頃、ロズノフ一味も動き出した。







 海上都市国家『ロズノア』 飛行管制塔 統合モニター室







 モニタールームの巨大なメインモニターには、『電脳神エーアイゴッド』の群れが形成する

 量子ネットワークが、無数の光の点となって、稼働状況を映し出していた。


 電脳神エーアイゴッド。10億分の1メートルのサイズの機械に量子ゲートという素子を

 組み込んだ『情報生命体』である。一つ一つは微細な粒子に過ぎないが、

 カイザー・ロンが開発した量子OSによって、数兆個の個体が連結した時、

 それらは物質を原子レベルで分解・再構築し、この星に顕現けんげんできるのだ。


 カイザーとヌスカ博士は、『神』の光の波形が整然と刻まれるのを見つめた。

 彼らはシステムが正常であると確認し、あとはロズノフの帰還を待つだけだ。


「ロズノフ様が戻られません!!」


 オペレーターの女性が悲鳴に近い声を上げた。


 カイザーが完璧なデータから顔を上げた瞬間、隣の監視モニターの映像が、

 格納庫へと切り替わる。辺り一面に巨大戦車の残骸ザンガイ瓦礫ガレキが広がっていた。


「あ」


 絶句するカイザーの目前で、モニターは無残な光景を映し出した。そこには

 変わり果てた姿で転がるロズノフたちがいた。それはまるで、数百年もの時を

 加速させられたかのような、腐乱死体だった。カイザーと博士は青ざめた。


「第二甲板の通路で侵入者を発見。赤い服の女の姿を確認ッ!!」


 間髪入れず、別のオペレーターの男性が叫ぶ。


「ナ、ナジュリ!?」


 真紅の軍服をまとうナジュリを見て、カイザーは気が動転した。

 モニター越しの彼女は、何者かと密かに連絡を取り合っていた。


 完成した『電脳神エーアイゴッド』の稼働データの横から、突如現れた『時の魔女』。

 カイザーの理性が一気に飛んだ。保身を考える彼は、博士に命令した。


「いますぐ弾道ミサイルに量子ナノマシンをつめ込んで発射しろッ!!

 証拠になるものは全て消せッ!! ミサイルを準備しろ、博士!!」


「落ち着いてください。量子状態というものは、空気中の粒子と衝突し、

 観測が確定した瞬間に、その性質を失って消滅してしまいます。ロン様、

 あなたは我々の同志でしょう? ロズノフ様がこの場所に帰還されるまで、

 軽挙妄動けいきょもうどうつつしむべきです!!  今のあなたは判断がおかしいですッ!!」


 カイザーは赤い丸眼鏡を指で直し、笑いながら語った。


「おい、ハゲ。お前、誰に命令しているんだ? 僕は世界一のソフトウェアを

 作った男だぞ!! お前のような、搾取される立場じゃない。僕は資本主義で

 頂点に立つ存在だ!! たかが量子の機械だ、また作ればいい。だけどね、

 僕のように『選ばれた特別な人間』は限られているんだ。人工知能のような、

 誰かに作られた『商品』と違い、僕の脳ミソは替えが効かないんだよッ!!」


「な、なんという・・・品位も知性もないけがれた『サル』なんだ・・・ッ!!」


 博士は、傲慢ごうまんなカイザーの言動に激怒した。


 カイザーの乱をよそに、空では漆黒の翼を打つ黒い巨竜が静かに構える。

 ドラゴンに姿を変えたエドワード・ラ・グッドマンは、次なる一手をる。


「ナジュリめ。ワシの狙い通り、偽の手榴弾しゅりゅうだんを見て、時を止めたわ。

 助かったわい。ロズノフと合流し、ナジュリを仕留めるか。それとも、

 奴らが乗ってきた飛行機を粉砕するかの・・・ムムッ!?」


 突如、背後を刺す異様な気配。グッドマンは、振り返って接近する『正体』を

 見た瞬間、驚愕きょうがくした。10代の頃、初恋の人が男に口づけした過去を思い出した。


 現れたのは、青黒い光沢を放つ巨大クワガタに乗り、高笑いする量子操作

 魔法使い――ベンジャミン・ベーコンである。昨日、即死魔法をびる

 寸前、量子化で自害したはずの青年は、巨虫を操り、悠然と立っていた。


「ベンッ!! 貴様、どうやって量子化から復活したッ!? 自己量子化の

 状態から元に戻す魔法など、この世に存在せぬはずだぞ! ありえん!!」


 黒髪にオッドアイを輝かせ、白いタキシードと靴が特徴のベンジャミンは、

 ポケットに手を突っ込んだまま、即死を狙ったグッドマンに種を明かした。


「フハハハハハハッ!! やぁ、エド。いや、『愚民』と呼ぼう!!

 僕は気づいたんだ★ 僕は『自己愛』によって観測できることに

 到達したッ!! 『粒と波』に分解されても、自己の再現を愛で

 乗り越えるッ!! 『愛情表現』とはッ!! 『魂の表現』!!」


 生命賛歌は愛の賛歌。そう思うベンジャミンはグッドマンが放った脳内の

 電気信号を遮断する『死の電磁波』を、自ら『量子分解』させることで、

 死を無効化した。本来、量子状態は、空気中の分子と衝突した瞬間に観測が

 確定し、元の存在は消滅するリスクがあった。それは、科学の常識だった。


 だが、量子コンピュータに匹敵する計算速度を持つ魔族である彼は、脳が

 量子ビット状態のまま、自分の肉体を『表現』する演算を続けていたのだ。


 ブラックホールに放り込まれても、自分を愛で取り戻す究極の自己観測主義エゴイズム

 その肥大化した自己愛が、彼を現宇宙へと繋ぎ止め、観測と演算で、自らを

 物質化させた。現宇宙の物理法則を上書きする奇跡を成し遂げたのである。


 ベンジャミンは優雅に手をかざす。


「顕現せよッ!! 僕の愛で現世につながる、『脳内の同僚』たちッ!!」


 次の瞬間、彼の背後に三体の亡霊ゴーストが出現した。それは会議室にて、

 グッドマンの魔法で、非業の死を遂げた『彼の部下達』であった。


「な、なにィイイ!! バ、バカなッ・・・なぜこいつらが生き返るッ!!」


 ホログラムのように透き通った彼らは、言葉を発しなかった。グッドマンを

 悲しい目で見つめた。ベンジャミンの魔法は、もはや量子操作のいき逸脱いつだつし、

 消えた『情報』を『イメージ』で強引に戻す『表現魔法ファンタジー』へと進化を遂げていた。


「僕が『愛する』からです。僕の愛で『存在』を観測し、『表現』しました。」


 ベンジャミンは愉快に指を鳴らす。


 彼の演算を起点に、亡霊たちの瞳が赤く輝き、一斉にグッドマンを指差す。


「させんぞォッ!! 滅殺最熱波ロナ・フレアッ!!」


 グッドマンが放つ殺意の光――極大の熱線が、空母の上空を白く染め上げる。


「無駄だよ★ 重力加速グラビティ・アクセラレーションッ!!」


 一体の亡霊による重力操作が、光のベクトルをあるじへと強引にねじ曲げた。


「何ィイイッ!!」


「愛ですよ。僕のいとしき『同僚』ッ!! 愛するセイコは、お前を絶対に

 許さない。そう言っていると思う!! ほころびのラバーストリームゥゥ!!」


「ウグァァアアアアアアアアアアッ!!」


 逆流した質量の塊が直撃し、暗黒の竜の化身はよろめいた。グッドマンは、

 ベンジャミンを恐れた。積み上げた年月もあざ笑う、天才の逆襲が始まる。

次話は4月25日の土曜日21時に投稿します。ご愛読ありがとうございました。


追記 見直したら『出会った』を『出会た』と書き間違えていました。本当に申し訳ありません。修正したことをご報告させて頂きます。

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