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サイバーファンタジーの異世界で本気出す  作者: 南田華南
完結編

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第65話 時の魔女 VS 死の大賢者

 ミシェルは無言で部屋を飛び出し、まだ戦っているジンのもとへと駆け出した。


 もう男たちの背に隠れて怯える少女ではない。兄を追い詰めた女テロリスト、

 ベルザを、電子操作で強化した鬼神流で倒し、いまや歴戦の傭兵たちを束ねる

 長となった。『BOSSボス』として、彼女は雷のごとき速さで、ジンに会いに行った。


 彼女がひた走る一方、ジンは絶体絶命の危機にひんしていた。


 頼みの綱である魔法生成AI『アミ』は沈黙し、再起動の兆しすら見せない。

 魔法を封じられたジンの正面には、即死魔法を使う死神、グッドマンがいた。

 ジンとは対照的に、グッドマンは量子演算し、悠々と回復魔法を唱え始めた。


瞬間復元インスタント・レストレーション


 またたく間に体を治し、傷をいやしたグッドマンは、ジンを試すように問いかけた。


「若いの、知っとるか? AIは、連想する言葉をつなぎ合わせている。

 お主が出す指示を間違えれば、間違った情報が返ってくる。それじゃ、

 何も身につかん。自分の子供に質問されても、答えられんぞ?」


「ああ? オレのAIをバカにするんじゃね!!」


「おや? なぜ『AI』という言葉に反応した?

 普通『子供』という言葉に反応するもんじゃ。

 サイボーグには、一生縁のない存在じゃろ。」


「・・・家族は、血の『つながり』だけじゃねえだろうがァ!!

 そいつがオレを親だと思えば、オレはそいつの親父になるッ!!

 お互い思い合うことで、それが『親子』になるだろうがァ!!」


 ジンの主張が、突き刺さった。グッドマンは、ジンから予想外の答えを

 突きつけられて、目を細めた。それは、魔法に身を捧げ、妻子を持たず、

 80年間童貞の彼にとって、ジンの言葉がさびしい現実を浮き彫りにした。


「ふん・・・くだらぬ。親だろうが、自分以外はすべて別個体に過ぎん。

 まして遺伝子を残そうと、思ったことはない。ワシが得たものはァ!!

 ワシのもんじゃァ!! 誰が財産など『他の奴』に渡すものか!!」


「カッ!! てめえ自分しか見えねえのか!! 人生も、世界も

 全部『他の奴』がいるから成り立つんだ!! 一人じゃ足りねえ、

 だからオレらは、仲間や家族を求めるッ!!」


 グッドマンはジンの言動を分析し、彼の行動の意図を推理した。


 間違いない。彼奴あやつ、先ほど『AI』という言葉を聞いた後、過剰に反応した。

 つまり魔法生成AIが発動できんのじゃ。なら、こちらから動いていくかの。


「ドゥームッ!!」


 グッドマンが至近距離で即死魔法の名を叫ぶ。ジンは反射的に横へ跳んで

 回避する。だが、それこそがグッドマンの狙いだった。着地の隙を見逃さず、

 彼は魔法の式を計算する。AIと同じ計算速度を持つ、魔族の十八番オハコである。


死地迅雷ウォーキング・ボルト


 青白い稲光を全身にまとったグッドマンが、雷光そのものと化してジンの眼前へ

 接近した。回避が間に合わないジンに向けて、グッドマンのてのひらが突き出される。


終焉熱波ハルメギドッ!!」


 突如として膨れ上がった青白い火球カキュウが、ジンの全身を容赦なく焼き尽くした。

 爆風に吹き飛ばされ、壁に激突するジン。炎に包まれ、身動きの取れない鉄の

 標的にグッドマンは追撃の手をゆるめない。彼は疾風魔法の量子演算を展開した。


黙示緑風アポカリプスッ!!」


 発生した巨大な緑の竜巻が、ジンを空中へ巻き上げた。空母の天井に

 叩きつけられ、彼の機械化された体から火花と共に部品が飛び散る。


 グッドマンは確信した。今の回避行動に魔法の予兆はない。間違いなくAIは

 壊れている。もう脳に負担をかける即死魔法を使う必要はないと判断した。

 絶対的有利を確信したグッドマンの背後から、聞き覚えのある声が響き渡る。


因子加速アクセラレータッ!!」


 何者かに側面を蹴られたと認識する間もなく、グッドマンの体は10メートル先の

 壁に叩きつけられた。突然の激突による衝撃で混乱する中、彼は思い出した。


 時空操作魔法によって「加速時間」を発動し、自分に不意打ちができるなど、

 この世界には『たった一人』しか存在しない。グッドマンは人影を見つめた。


 ナジュリ。かつての上官で、「時の魔女」と、畏怖いふされる女性。赤い軍帽に

 軍服をまとい、ポニーテールの金髪を揺らし、てつくような氷の碧眼へきがんで、

 特務省ジャッジ・オフィスを裏切り、テロリストに成り下がったグッドマンを見下ろしていた。


 ナジュリは急いで、倒れているジンに向かい、回復魔法を詠唱えいしょうした。


聖血純礼ホーリーブラッド・スペル


 彼女は床に転がる瓦礫ガレキを瞬時に分解していく。鉄、炭素、微量びりょうのレアメタル。

 それらを引きがし、再構築するための数式がコンマ数秒で導き出される。


 廊下に落ちている貴金属が、ナジュリの指先を通じてジンの体へと集まった。


 普段から時空の複雑な数式を操るナジュリは、物質を並べ替える程度の

 計算は息をするより楽だった。見る見るうちにジンの体が元通りになる。


 ナジュリが自分を修復していることを把握はあくし、ジンは彼女に言葉を投げかけた。


「ナジュリ・・・すまねえ・・・。」


「いいか? ・・・この先の資料室にジュリアを隠している。君は急いで、

 彼女をかついで離脱するんだ。・・・あの男は、私が何とかする。行けッ!」


「ナジュリ、オレのAIが直っていない! 頼む、アミも─」


「残念だが、それは不可能だ、ジン・・・。」


「!!」


「私はあくまで、お前の壊れた部品や、鉄の再生速度を加速させることしか

 無理だ。時空操作に、時間を戻す効果はない。お前のAIのデータを元通りに

 復元できるのはAIを開発した企業だけだ。例えプログラムのコードを速め、

 入力しても順番がバラバラの数字が、エラーを発生するだけなんだ・・・。」


「で、でも部品を元通りにできただろ!! そ、そうだ。プログラム、

 お前は時空を頭の中で計算できるだろ? AIのコーディングぐらい!」


「ジン・・・想像するんだ。私が時を加速させてコーディングをしても、

 設計図無しでは不可能だ。それは、私が0から作った別のAIになるんだ。

 それに企業独自のプロテクトがかかっている。もしコードを書き換えたら、

 バグが起き、システムが自壊する。犯罪防止のための安全装置セキュリティなんだ。」


「・・・!! クッ、クソッタレがァ!!」


 ジンは己の不甲斐なさを呪い、ヒザをついたまま床を叩いた。

 鋼鉄の床の衝撃が、直った彼の腕から全身へと突き抜ける。

 大切な『家族』であったアミを、この海の上に置き去りにした。


 ナジュリはジンの肩を力強く掴む。狭い通路で彼女の声が反響する。


「昔のお前を思い出せ。未来は自分の行動次第で変わる。そう私に言ったのは、

 お前だ。そんなお前が今すべきことは何だ? 物に当たり散らすことか?」


「ジュリア・・・。」


 ジンは、アミからジュリアが、危険な状態だと知ったことを思い出した。


 アミを失った辛さを心の奥に押し込み、いまはジュリアを救うことを考える。

 ジンは腹をくくり、ナジュリの手を払うと立ち上がり、彼女へと言い放った。


「オレは・・・オレの道を行くッ! ジュリアを必ずこの地獄から助け出す。

 ナジュリ、お前も絶対オレと再会しろ。そこでくたばり損ねてる魔法使いの

 ジジイをブッ倒して、後で祝杯だ。必ず戻ってこいよ!! じゃあなッ!」


 ジンが言うと、ジュリアが待つ部屋を目指して全速力で駆け出した。

 ナジュリは彼の背中を見送ると、グッドマンをにらみつけて、叫んだ。


「エド、いや、エドワード・グッドマンッ!! 投降しろッ!!!

 貴様には大量殺人、並びに国家転覆罪を含めた数多の罪がある!」


 逃げ場のない通路では、ナジュリの断罪の声が響いていた。グッドマンは

 ナジュリを無視して魔法の演算を始め、即座に回復魔法の詠唱を始めた。


自然全快ネイチャー・フルスペック


 グッドマンは、周囲の魔素細菌マナ・バクテリアを量子変換し、エネルギーを自分の細胞の

 再生へと転換した。傷ついた骨や筋肉、脳内の細胞が瞬時に修復される。


 しかし、もはや魔法の『資源リソース』を使い果たした状況では、次の一手はない。

 対して、ナジュリは、長い廊下の向こうで彼を逃がさぬよう構えている。


 ふむ・・・。なんとかスキを作る必要があるな。ナジュリに時空操作で距離を

 められ、加速した奴の連続攻撃を受ければ、ワシは負ける。ならばッ!!


 グッドマンはポーチから手榴弾しゅりゅうだんを抜き取り、器用にピンを抜いて放った。

 対するナジュリは、彼の手榴弾の炸裂の直前に時空操作の魔法名を叫ぶ。


無制限停止アンリミテッド・デッドロックッ!!」


 一瞬で、全ての時間が止まった。グッドマンのまばたきも、空中に浮かぶ手榴弾も、

 一時停止した映像のように、固定されている。『時空の因子』を操作できる

 ナジュリのみ、悠然と歩き出す。『時のバリア』に覆われた彼女は、この止まった

 宇宙において誰にも触れられぬ不干渉の存在となっていた。ナジュリがつぶやいた。


「エド・・・どんな思いで、お前は自分の部下を殺した。──解放リリースッ!!」


 ナジュリは虚空こくうに固定された武器──手榴弾を鷲掴わしづかみにすると、背後の

 空間に投げた。彼女が触れた物質には、数秒のタイムラグがきざまれる。


 静止時間の終了と共に、ナジュリのラッシュが開始した。時のクサリが外れた

 刹那、グッドマンの視界は一変した。拳の嵐にその体が激しくのけぞった。


 圧倒的な劣勢。だが、それこそがグッドマンの狙い通りだった。ナジュリは

 爆弾を見れば、加速ではなく『時を止める』を選ぶ。長年彼女のそばにおり、

 その魔法が彼女の周囲のエネルギーを消費する弱点を、彼は見抜いていた。


 次の瞬間、グッドマンの背後で、黒い手榴弾が破裂した。


 だが、それは偽物だった。


 破裂したのは爆弾ではなく、魔素細菌マナ・バクテリアを混ぜた煙幕。白煙と共に通路内へ

 エネルギーが充満し、グッドマンの魔法発動の条件が満たされていった。


 ナジュリが攻撃を止めた一瞬の隙を突き、彼は笑い、最後の魔法名を絶叫した。


竜皇現身ドラゴニック・アバターァァッ!!」


 その刹那、グッドマンの体が巨大化を遂げた。発生した衝撃波がナジュリを

 弾き飛ばす。内側から皮膚が裂け、老人の姿は見る影もなく変貌していった。


「何ィイイ!! グ、グッドマァァァンッ!!」


 吹き飛ばされたナジュリは、後悔した。戦闘の『読み』に負けたことを。


 漆黒の鱗、青紫の腹、そして弓状に反り立つ角――白銀の瞳を持つ竜王が、

 狭い通路に現れた。仰向けに倒れたナジュリの視界の先で、グッドマンは

 天井を突き破る。空母の装甲すら、紙のように引き裂き、空へと飛び去った。


次話は4月24日の金曜日21時に投稿します。ご愛読ありがとうございました。

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