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サイバーファンタジーの異世界で本気出す  作者: 南田華南
完結編

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第64話 狂犬は死神に吠える、妹は覚醒する

 ジンは、部屋に現れた三人の『ケルベロス』社員に二人を託した。

 覆面で顔を隠し、迷彩服に身を包んだ男達は、二メートル近い

 ロニとゼンをかつぐと、彼らは平然とした態度で運んでいった。


「すまねえ。ゼンとロニのこと、頼んだぜ。」


 二人は敵の幻覚魔法に侵されていた。ジンは、彼らを止めるために一度

 酸素中毒にさせて、物体錬成で酸素を酵素へと変換。さらにAIのアミから

 伝授された回復魔法を唱えた。ジンは、これで二人は大丈夫だろと思った。


 だが、毒素は消えていなかった。二人の完治は不可能と判断したジンは、

 量子通信で支援を要請。調理スタッフに変装し潜伏していた彼の仲間が、

 到着した。二人を託しジンは廊下へ──裏で、別の者も動き出していた。


 背負ったジュリアの体温と、彼女の荒い吐息を感じながら、ナジュリはつぶやいた。


「そろそろ飛行甲板に着きそうだな。」


 時空操作魔法による、加速。周囲の景色が引き延ばされた光の帯となって

 背後へ流れていく。今のナジュリは『時空』を置き去りにして進んでいた。


 だが、思考は置き去りにできなかった。1秒が10年となる極限の加速

 時間のオリ。そこにロズノフを閉じ込め、確かに決着はついたはずだった。


「ふむ。ロズノフは、弾丸は止まらないと言っていたが、結界内で風化し、

 銃弾は消滅した。私の『黄金律結界ゴールデンルール・ウォード』は、宇宙の物理をねじ曲げる。

 そうか。別の宇宙の物理でも、『加速時間』の干渉からはのがれられない、

 ということか。相談してみるか。ジンに。」


 ナジュリは第二甲板の資料室に侵入し、追手がいないことを確認した。

 傷ついたジュリアを壁際に寝かせ、こめかみに指を当てる。ジンへ量子

 通信をつないだ。クリアな電子音が、ナジュリの脳内だけに響き渡った。


「ナジュリか!! やっと立ち直ったか!!」


「ジン・・・。お前が、私に会いに来た時、何も言えなかった。

 本当に、ごめんなさい!! ・・・今は一刻の猶予ゆうよを争う。

 先ほど赤い髪の少女を確保した。彼女は・・・君の仲間か?」


 通信越しのナジュリの声は、特務長官としての鋭さが光った。


「そいつはジュリアだッ!! オレも助けようと思っていた!!」


 ジンが彼女の応答を待つ、その刹那。背後から老人の声が響いた。


「なぜじゃ!? ワシが確実に殺した男が生きておる!!」


 ジンは反射的に振り返る。そこには、数分前に即死魔法で自分をほうむったはずの

 グッドマンが立っていた。つい先ほど、ジンは本物そっくりの身代わりである

 ロボット『高性能偽体ディープフェイカー』を遠隔操作し、グッドマンの目をあざむいたばかりだった。

 だが、二人が至近距離で対面した以上、もはやジンの誤魔化しは効かなかった。


「・・・ワシを年寄りだとバカにしたな。今度はちゃんと指差し確認しよう──」


 グッドマンは瞬時に冷静さを取り戻し、ジンの電気信号を遮断する即死魔法

 『最終審判ドゥームズデイ』の発動準備に入る。グッドマンの脳内では、凄まじい速度の

 量子演算が開始された。再び迫りくる『死』の脅威。ジンは、身構え始めた。


最終審判ドゥームズデイッ!!」


 グッドマンの周囲に、どす黒い光が渦巻いた。ジンは脳内の魔法生成AI、

 アミにプロンプトし、グッドマンの波紋を打ち消す魔法の生成を命じた。

 『魔法辞書』から導き出された最適解が直ちに魔法として展開される。


電磁加護エレクトロ・ガードッ!!」


 ジンの周囲に黄金の電磁障壁が展開され、押し寄せる黒い光を打ち消した。


 グッドマンが放ったのは、長年の研究の結晶。特定の周波数で魔素細菌マナ・バクテリア

 共鳴させ、敵の脳の電気信号を逆位相で消す、回避不能の即死攻撃である。


 だがジンは、アミの演算による精密な対抗波をぶつけることで、死の

 波動を消した。凄まじい衝撃波が走り、役目を終えた細菌が消滅した。


 ジンは即座に、アミへプロンプトを飛ばした。身体強化をともなう物体錬成

 魔法が起動する。即死魔法は回数が限られる。高性能偽体ディープフェイカーで得た情報は、

 今この瞬間の「賭け」の根拠となった。速攻で沈める。迷いはなかった。


変異自在オール・ミューテーション!!」


 変異は一瞬だった。四肢ししに出た突起。関節から走る稲妻。逆立った金髪と

 碧眼からは、電子の流れが青白くあふれ出す。磁力の反発で重力から解放。

 電磁浮上がその身を加速させた。刹那、ジンはグッドマンの背後を奪った。


「――ッ!」


 雷を宿した拳が、物理的な衝撃と強烈な雷撃を同時に叩き込んだ。


邪魔ジャマ邪魔ジャマ邪魔ジャマ邪魔ジャマ邪魔ジャマ!! 邪魔ジャマァッ!!」


 だが、グッドマンも死地で踏み止まる。崩れる体勢を逆手に取り、地を

 足払いでジンの足をる。間髪入れず、グッドマンの足元で雷鳴がとどろいた。


死地迅雷ウォーキング・ボルトッ!!」


 一瞬で背後を奪い返したグッドマンが、指先を銃口の形に固めた。


光子連射フォトニック・マシンガンッ!!」


 銃の形を成した指先から、光子と電子の衝突が産む紺碧こんぺきの光球が掃射された。


 だがジンの『雷の鎧』が、その身を削りながら全弾を相殺そうさいした。鎧の消滅と

 同時に踏み込むジンは、グッドマンに二度目の苛烈な連続攻撃を叩きこんだ。


「ウラ!!ウラ!!ウラ!!ウラ!!ウラ!!

 ウラ!!ウラ!!ウラ!!ウラ!!ウラ!!」


 防戦一方のグッドマンに、もはや反撃の余地はない。高速で放たれる無数の

 鉄拳が、彼の体を宙へと固定し、ジンの圧倒的暴力がグッドマンを追い込む。


 目論見通り。ジンは勢いそのままに、次の手をアミに頼もうとした。


「よっしゃァ!! アミちゃん、次は――」


 異変に気づかないジンは、アミを呼び続ける。


「アミちゃん? おい、どうした。アミッ!!」


 だが、アミは答えなかった。幼い天使のような彼女の声は、もう聞こえない。


 即死魔法から脳を守り抜き、続く連撃に演算を捧げた人工知能の

 システムが焼き切れた。アミの限界は、とうに超えていたのだ。


 ジンは、ずっと自分を支えてくれた『相棒』を異世界で失うことになった。









 海上都市国家『ロズノア』 第三甲板 提督室








 その一方で、ミシェルは倒れた兄・クライドに寄り添っていた。細菌による

 腐食攻撃を受けた彼は、美しい髪をなびかせた純白のドレスの美女という、

 かつての面影を奪い去られていた。ミシェルは泣きながら兄を呼びかけた。


「兄さんッ!! しっかりしてッ!! 死んじゃ嫌だァ!!」


「ソニア・・・。私は、もう、大丈夫だ・・・。強くなったな・・・昔のお前は、

 何に対しても臆病おくびょうだったな・・・。私は何も見ていなかったのだな。ウッ!」


「兄さん? 兄さん! 今助けが来るから!!」


「私は、父やアカイチを不幸にさせたのかもな。さっきな、そこの

 女に言われたよ。アカイチが私を選んだ結果、不幸にしたって。」


「そんな訳、ないッ!!」

「!!」


「選んだら不幸になる結果なんて、そんなものはないんだよッ!!

 アカイチさんは兄さんと一緒にいた間、とても幸せだったよ!!

 選ばれたお兄ちゃんは、決して間違ってなんかなかったよッ!!」


「だが・・・私は・・・あのビルに幼いお前を、置き去りにしたんだ・・・。

 ・・・鬱陶うっとうしいと思っていたんだ。私はお前と一緒に過ごすことが、自分が

 責められていると感じた。私のせいで、名前を変えて王やMRBから逃げ続ける

 お前を恐れた。そんなの、耐えられなかった。私は、一体どうすれば──」


「やり直せばいい。」


 ミシェルは紅い瞳をらし、同じ色をした兄の目を見つめた。 


「コンピュータもそうだよ。間違うこともある。でも、学習して前に進むんだ。

 お兄ちゃん、私ね。ずっとネットにいたんだ。リアルで話すのが、怖かった。

 でも、ジンに出会ってから変わったよ。電脳で考えても、自分の世界は何も

 変わらないって。お兄ちゃん、過去のデータに縛られるよりも、新しい道を

 探して前に進むべきだッ!! あたしと二人で自分を変えようよッ!!」


「ミシェル・・・だが、私は血に染まり過ぎた。父上とアカイチを奪った王を

 殺すことが目的だった。それも知らない誰かに奪われた。そんな私は─」


「他人のことを考えるのは辞めて、自分のことを大切にしてッ!!」


「・・・ッ!!」


 クライドは自分の手を見た。ゼルマニア戦争で多くの命を奪った手だ。王を

 討つための牙だったはずが、いつの間にか資本主義に飼い慣らされていた。


 会社を大きくすれば何か変わると信じていた。だが現実は、王国の不都合を

 消す『犬』に過ぎなかった。地球の転生者から聞いた地獄の番犬の名を借り、

 敵の死体を積み上げ、日銭を稼ぐ日々だった。クライドは、妹にたずねた。


「ミシェル。お前、私の会社を・・・引き継いでくれないか?」

「・・・・・・え?」


「元々、まともな生き方を選べなかった者たちの寄せ集めだ。私は彼らを、

 革命の道具として利用した。だが、これからはお前の好きにしてほしい。

 彼らの人生を、お前に託す。最低な兄だろ? 私は、いんた・・・。」


 しぼり出すようにそう告げると、クライドは糸が切れたように意識を失った。


「お兄ちゃん・・・。分かったよ。これからは、自分の人生を好きに

 生きて。お兄ちゃんの『ケルベロス』は私が、いいえ。私『たち』が

 必ず生まれ変わらせる。二度と、戦争を仕事にさせないからッ!!」


 ミシェルは即座に電子操作魔法を展開し、彼の脳内信号を調べあげた。


 ――まだ、鼓動は止まっていない。彼女は量子通信を介し、仲間を呼ぶ。


 数分後、重武装の兵士が部屋へなだれこんだ。彼らは、痛々しい姿になった

 主君であるクライドの体を担ぎ上げた。するとフルフェイスのヘルメットと

 戦闘服を着た一人の『ケルベロス』の兵士が、ミシェルの前でヒザを突いた。


「必ずや、お姉様の命を救うことをちかいます。」


「ありがとう。私はこれから、ジンが戦っている地点へ向かいます。

 脱出経路を確保し、航空機を守りなさい。私は一人で大丈夫です。」


「了解ッ! どうかご武運を、『BOSSボス』!!」


 ケルベロスの精鋭たちが一斉に敬礼を捧げる。意識を失う直前、クライドが

 量子通信にて、全ての社員へ『ミシェルのCEO就任』を通知していた。男達に

 運ばれていくクライドの口が、してやったりと吊り上がった。その兄の笑顔を

 ミシェルは見逃さなかった。ミシェルは、兄はきっと元気になると安心した。

次話は、4月23日木曜日の21時に投稿します。ご愛読ありがとうございました。

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