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サイバーファンタジーの異世界で本気出す  作者: 南田華南
完結編

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第63話 電子操作使い VS 女テロリスト

 全てはベルザの戦略だった。幻覚魔法により、クライドと民間軍事会社

『ケルベロス』を共倒れさせる。クライドの白い髪に、男の唾液だえきが不気味に

 こびりついた。クライドは、即座に王の死体を飛び越えて、襲撃者との

 距離を取る。襲いかかってきた敵の正体を目にした瞬間、彼は驚愕きょうがくした。


「・・・!! お前達、何があった!! おい、しっかりしろ!!」


「ウゥゥゥ・・・ダウギュウウウウウ・・・ガァアアアアアアッ!!」


 そこに、誇り高き傭兵の姿は微塵みじんもなかった。白目をむいたまま、彼らは

 迷いなく銃の引き金に指をかけた。次の瞬間──銃弾の雨が降り注いだ。


 王の死体もろとも、放たれた無数の弾が室内を切り裂いた。クライドは魔法で、

 周囲に磁力を展開し、迫りくる金属製の弾丸を磁力で強引にらしていった。


 磁力で軌道ベクトルじ曲げられた弾丸は、発砲した部下の手足を撃ち抜いた。

 致命傷こそ免れたが、部下達は激痛にのたうち回り、床に転げ落ちる。


「なぜだァ!! なぜ私は、いつも大切なものを守れないんだァッ!!」


 クライドが叫ぶと、冷淡れいたんな声が扉の向こうからひびいた。


「それは、あなたが自分の恋人を巻き込み、死のふちへ追いやったからよ。」


 黒髪で、深くんだ青いひとみ。胸の谷間が見えるボディスーツを着た女。

 ベルザは、クライドをゴミでも見るかのような目で見下ろしていた。


 彼女の顔を見た瞬間、クライドの過去が激しくフラッシュバックした。


「お前・・・ッ! あの時の手術で、私に魔法をかけた女かァ!!」


 驚愕するクライドを見たベルザは、医師として白衣を着ていた過去を

 思い出した。かつて彼女は、クライドの機械化手術を手伝っていた。


 ベルザはプライドシティの病院で魔法医として働いていた。専門は「精神の

 安定化」で、彼女は機械化手術を受ける患者の凄まじい苦痛をやわらげるため、

 患者の脳に幻想的な夢を見せる『幻覚魔法』を開発した。彼女は医療現場で、

 ひたむきに患者と向き合っていた。ベルザは、魔法が命を救うと信じていた。


 職場で再会したアカイチとは、大学時代からの旧知の仲だった。アカイチは

 当時、世界初となる『人工身体じんこうしんたい』という新しい医療機器を発明した。それは

 魔法のような技術だった。ベルザは彼を食事に誘い、アカイチに告白した。


 だが、アカイチの返答は、残酷なものだった。彼には既に、深く愛し合う

 『男』がいた。彼女はアカイチの愛する対象が男だとは夢にも思わなかった。


 それがクライドだった。彼は男だが、『本物の』女性としての体を望んでいた。


 アカイチは、男性のクライドも愛していたが、最終的にはクライドの夢を

 叶えるためにすることを決めた。アカイチは、食事の席でベルザに頼んだ。


「僕は彼氏として、クライドに望み通りの人生を贈りたいんだ。彼女が痛みを

 感じないまま、手術を成功させたい。これは、世界で初めての移植手術になる。

 君にしか頼めない。僕らで、手術を成功させて世界を変える。お願いだ!!」


 アカイチは真っ直ぐな瞳で、青い目のベルザに訴えた。だが、ベルザの胸中は

 複雑だった。なぜ自分が、好きな人を奪った『男』のために魔法を使うのか。


 だがアカイチのため、ベルザは、魔法医として手術に立ち会う。幻覚魔法で、

 クライドが『痛み』を感じることはなかった。アカイチと同僚の外科医が

 手際よく、脳と脊髄せきずいを取り出し、人工身体へと移植していく。手術は無事に

 成功し、院長は彼女の功績をたたえた。次の日、ベルザは病院を立ち去った。


 ベルザは、心理カウンセラーとして独立した。やがて、月日が流れた。


 突如アカイチが殺害されたことを量子通信網ネットワークのニュースで知った。ベルザは、

 車を飛ばし、すぐ遺体安置所へとけつけた。横たわるアカイチの顔は判別

 不能なほどに破壊されて、もはや原形を留めていない。彼女は泣き崩れた。


「バカヤローッ!! なんで・・・どうしてこうなったのよッ!!」


 その後、アカイチがクライドと共に「革命」の活動に身を投じていた事実を

 知り、ベルザの中で怒りが爆発した。あの男がアカイチを危険な革命へと

 誘惑し、最終的にアカイチはあんな風になった――ベルザはそう確信した。


 そして、絶望の淵で『銀髪の悪魔』ロズノフと出会ったのである。


 その頃には、ベルザは仕事を人工知能(AI)に奪われていた。心のケアの

 役割もAIが取って代わり、顧客は彼女よりも、24時間対応で最適化された

 『相談カウンセリング』を行うAIを選んだ。借金を返せないベルザは困り果てて、つい

 世界有数の投資家として名をせるロズノフと面会することとなった。


「ベルザ・デュパンさん。あなたは、『空売り』されたんですよ。」


「・・・はぁ?」


「我々の世界では、価値の高い銘柄めいがらを売り崩し、意図的に暴落させて利益を

 得る方法がありましてねぇ。クライドたちは、あなたの価値が将来的に

 下がると見込み、あなたの人生を空売りして、暴落させたのですよ。」


「私の価値が下がる? どういう意味ですか?」


「あなたは彼の手術後、『無価値』になります。それに病院もかつては

 魔法医を高待遇で雇いましたが、現在ではAIが魔法を生成するので、

 価値は下がりました。あとAIは無給で、休まず働きます。あなたが

 病院に戻っても、彼らはあなたを安い金で買い戻すでしょうな。」


「・・・」


「病院を辞めようとする君を、なぜ誰も引き止めなかったのかね?」


「そ、それは!!」


「価値がないと思われ、孤独を感じているな? 復讐したいと思わないか? 

 ベルザ。クライドは、お前の悲惨な状況を作り出した『元凶』なのだよ。」


「!!」


 ロズノフはベルザに憎悪を注ぎ込み、彼女を「テロリスト」として育て上げた。

 彼女を薬漬けにし、彼女の戸籍を金で消した。彼女は世界と戦うことを選んだ。


 ベルザは、薬物依存で心を壊され、ロズノフのコマとして怪人六面相に近づき、

 幻覚魔法を使い、彼に空間魔法の強化コードを渡した。怪人六面相はベルザに

 惚れたが、ベルザはアカイチ以外の男に関心を持たず、『純愛』をつらぬいていた。


 ベルザは、部屋で自分を見つめる諸悪の根源、クライドを激しくののしった。


「このブタ野郎ッ!! お前のせいで・・・私はアカイチを失い、人生も

 狂った!! ふざけんなッ!! お前の大切な仲間も狂わせてやる!!」


 彼女は口から泡を吹き、言動もおかしくなっていた。薬の禁断症状が出て、

 もはやベルザは幻覚魔法を受けた状態だった。彼女は両手を広げて唱えた。 


細菌変異バクテリア・リライトッ!!」


 その瞬間、クライドの周りで、青白い光の玉がパチパチとはじけた。


 彼女の白い肌、純白のドレス、美しい銀髪に、まるで無数の虫に

 食われたような穴が開き始めた。強烈な悪臭も辺りに立ち込めた。


「イ、イヤアアアアアアアッ!!!!」


 ベルザは、ボロボロと崩れ落ちる、クライドの端正な顔を

 満足げに見る。ひたいに手を当てて、狂ったように叫びだした。


「私は魔法の進歩のため、あらゆる微生物を研究してきたッ!!

 そして辿り着いたのが、この死素細菌デステリアだァ!  お前の電子を

 エサに、体中の化合物をドロドロに溶かして、腐らせるんだよッ!!

 みにくく死ねッ!  アカイチはお前を選んだから不幸になった!!」


 死素細菌デステリアは容赦なくクライドを侵食した。強化プラスチックで構成された人工

 皮膚を次々と破壊し、むき出しのチタン合金が腐食の音を立てて崩落していく。

 駆け巡る電子を細菌に吸い取られ、神経回路は断末魔のような火花を散らした。


 美しき機械化人間サイボーグのクライドを、醜い鉄くずの『人形』へととしていった。


「ハハハハハッ!! これで・・・あ・・・あ、あ・・・アカイチッ!!」


 勝利を確信し、狂ったように笑うベルザ。その刹那、彼女の胸元が

 開いたボディスーツを背後から放たれた雷撃が容赦なく、貫いた。


廻転雷槍スピニング・ランスッ!!」


「ウガァァアアアアアアッ!!」


 青い電弧アークを撒き散らし、ドリル状に回転する雷槍が、ベルザの豊満な

 胸を突き抜ける。床に倒れたクライドの頭上を凄まじい雷の衝撃波が

 通り過ぎて、背後の壁に巨大な風穴を開けた。彼女はえぐられた胸を

 右手で押さえ、口から血を流すと、激痛に耐えながら脳内で演算した。


瞬間復元インスタント・レストレーション!!」


 強制活性化したベルザの細胞が、超スピードで傷を修復し、開いた穴をふさぐ。

 不意打ちを食らわせた襲撃者を、彼女は殺意のもった眼光でにらみつけた。


 そこに立っていたのは、白い髪と赤い瞳、迷彩服に身を包んだ少女だった。


「 ソニア!? なぜ戦闘に参加している!!」


 瀕死のクライドは、突如現れた妹の姿に驚く。ジン達のサポート役として

 後方にいると思っていた妹が、いまは民間軍事会社『ケルベロス』の制服を

 着用し、最終決戦の場、巨大空母ロズノアに、自分を救いに現れたのだ。


「お兄ちゃんから・・・離れろォオオ!!」


 彼女もまた、兄であるクライドと同じ電子操作魔法の申し子だった。かつて、

 火炎使いジュリアの会話を盗み聞きしたこともある。最前線で腕を磨いた

 兄とは対照的に、彼女は『電子の海』の中で、その感性を研ぎ澄ませてきた。


死地迅雷ウォーキング・ボルトッ!!」


 ソニア――現在はミシェルと名乗る電子操作の達人は、自身を雷速へと

 加速させる魔法を発動。ベルザの前から消えた刹那、拳を構えて現れた。


「鬼神流ッ!! 猛魅雷タケミカヅチッ!!!」


 繰り出すのは、同僚のゼンから伝授された格闘術『鬼神流』。雷の速度を乗せた

 ミシェルの連打が、ベルザの顔面と腹部へ叩き込まれ、青白い火花が散った。


 拳の雨がベルザを襲い、彼女は防御すら取れずヒザを屈した。そこへミシェルの

 非情な膝蹴りが食い込む。ベルザの顔が衝撃で歪み、その体ははじかれたように

 吹き飛んで壁に激突した。ベルザは倒れるが、ミシェルの追撃は終わらない。


 ミシェルは、鼻血を出すベルザの黒髪を左手で強引につかみ上げ、

 右の拳を硬く握りしめた。ベルザは体を揺らしながらおびえた。


昇雷鳴拳ライジング・ナックルッ!!」


 ミシェルの雷光をまとう拳が、ベルザのアゴを真下から撃ち抜く。


 妹はこれほどまでの高みに達していたのか――。クライドは負傷した肩を

 押さえながら、ベルザを空中へと突き上げる、ミシェルの勇姿を凝視ぎょうしした。


 ミシェルは軽やかに旋回し、『白鳥』のように優雅に着地した。対極的に、

 ベルザは、頭から激しく床へ叩きつけられた。失神したベルザの股間コカンから

 黄色い汚れが広がり、黄金水を放出していた。ロズノフの仲間に加わり、

 テロリストに誇りを持つベルザは、兄を愛する妹によって無様ブザマに負けた。


 こうして、過去の因縁を賭けた戦いは、兄妹の勝利で幕を閉じた。

次の話は4月22日の水曜日の21時に投稿します。ご愛読ありがとうございました。

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