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サイバーファンタジーの異世界で本気出す  作者: 南田華南
完結編

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第61話 甘き死に至る魔法

 ジンが走っていると艦内通路が激しく揺れた。ジュリアの荷電粒子砲ジャガーノートによる

 衝撃波が、ジンがいる所にも届いた。どこかで戦闘が始まったと思った。


 ふと、ジンは誰かに名前を呼ばれた気がした。突然、脳内で魔法生成AIの

 アミがジンに話しかけた。揺れている通路で、ジンはアミの通信に応じた。


「ご主人様、AIアグニから連絡を確認しました。ジュリア様が危険です。」

「なんだって・・・クソ、すぐジュリアの場所を特定してくれ!!」


 ジンは胸騒ぎを覚えた。この震動、もしかしてジュリアの身に何かトラブルが

 起きた可能性がある。ジュリアを心配する彼の背後で聞き覚えのある声がした。


「ジン、ここに居たのか。探したぞ。」


 女性の声だ。ジンは立ち止まり、振り返ろうとする。即座にアミが制止した。


「ご主人様!! 後方から非常に強力な電磁波を探知・・・シ・・・離レ──」


 アミの声が聞こえなくなった。ジンは電磁波が照射されたのかと、再度脳内の

 アミに呼びかけるが応答しない。ジンの背後で再び女性の声が聞こえてきた。


「どうした? 私だ、ナジュリだ。お前を探していたんだ。」


 ジンは、サッと後ろを振り向いた。金髪碧眼で真っ赤な軍服が特徴の女性。

 昨日話した時とは全く違い、ナジュリはいつも通りのドヤ顔で彼を見ていた。


「ナジュリ!! お前立ち直ったのか!!」


 ナジュリは、自信満々に笑みを浮かべ、両手を腰に当てて立っていた。


「待たせたな。私は、お前に勇気づけられた。」

「そうか!! よし、早速王とロズノフを探しに行こうぜェ!!」


「・・・やっと・・・お前のおかげで・・・私は目覚めたんだ。」

「? どうした、ナジュリ。先、行くぞ?」


「お前に叩かれたおかげで、私には性癖フェチがあると確信したんだ。感謝する!!」


「は? お前何言っているんだ?」


「もっと・・・欲しいんだ。・・・お前の・・・お前の・・・暴力を!!

 父にもぶたれたことがなかった。それが・・・男の愛なんだと知った。」


 彼女の様子がおかしい。ジンは叩かれたことを喜ぶナジュリに違和感を

 感じた。やがてジンはほほを赤らめるナジュリに近づいた。顔を見ると、

 彼女にノイズのようなものが走っていることに気がついた。その刹那。


最終審判ドゥームズデイッ!!」


 突然背後から男の声が聞こえたと思った瞬間、ジンは氷のように固まった。

 重力に引き寄せられるように鉄板床デッキに倒れた。ジンは全く動けなくなった。


 ジンの周囲には何かが黒光りする現象が起きていた。数秒後にそれは消えた。


 ナジュリは、倒れていたジンを見つめていた。ニヤリと笑い、消失した。


「あっけないのう。人生と同じじゃな。どんなに時間をかけて努力しても、

 誰も関心得られずに、ひっそりと終わる物語と同じじゃ。認められずに、

 孤独な死を迎える。その他大勢にも入らないんじゃよ。涙が出るじゃろ?」


 それは白髪と白いヒゲ、黒い戦闘服に身を包んだグッドマンだった。


 グッドマンは指をこめかみに当て、ロズノフに報告した。


「ワシじゃ。いま、例の異世界転生者を殺した。もう、あんたに勝てる

 量子操作使いはおらん。あんたの夢である神の『吸収』を邪魔する奴は

 みんな死んだ。これで、ワシも満足して『神の一部』になれるようじゃ。」


「素晴らしい。さすが、私が認めた男の仕事だ。では、君は残りの連中も

 片付けてくれ。私は魔法で第四甲板に侵入した『猿』を始末するかね。」


「了解じゃ。・・・戦車のお嬢ちゃんが無事だといいのう。」


「フッ。では、行動を開始してくれ。」


 ロズノフはザッキーのことには答えず、グッドマンとの通信を切った。


「あんなに一緒だったのに冷たい男じゃ。・・・そろそろ廊下に出てきても、

 大丈夫じゃ。もう即死魔法は解除されておる。あれは何度も使えんのじゃ。」


 グッドマンがそう言うと、通路の角から黒髪で碧眼の女性が現れた。

 胸元が開いた白いボディスーツで、透き通った青い瞳が輝きを放つ。


「・・・まさか、私と同じ方法で『即死魔法』を完成させるとは驚いたわ。」

「ベルザよ。逆位相じゃよ。波をぶつけることで打ち消されることもある。」


 グッドマンの即死魔法は半径3メートル圏内の生物の脳を攻撃出来る。

 その範囲は特務省ジャッジ・オフィスの会議室の広さに相当し、ベルザはそれ以上の

 距離から幻覚魔法『記憶改葬メモリー・リベリアル』を発動させ、ジンを惑わせていた。


 彼女の魔法は半径1キロ圏内に効果が及んだ。魔素細菌マナ・バクテリアで調整した周波数の

 電磁波を照射して、『側頭葉そくとうよう』と呼ばれる脳の部位を刺激する。記憶をつかさど

 側頭葉は、ベルザの電磁波による『電気信号の改変』で、ナジュリの幻覚を

 ジンに見せていた。その幻覚は、ジンの脳内が作り出す『偽情報フェイク』だった。


「・・・そう。それよりもグッドマン。侵入者の二人、幻覚で争わせることに

 成功したわ。私のもう一つの幻覚魔法『狂乱開花バーサク・ブルーム』で、匂いをいだ者は

 一定時間、周囲の生物を襲うわ。今頃、彼らは強制戦闘状態に突入している。」


「匂い? 匂いを嗅いだだけで? どういうことじゃ?」


「『メスカリン』と言ってね。人工バニラ香料のバニリンという化学物質から

 作れるの。メスカリンを食べさせた魔素細菌マナ・バクテリア毒素細菌メスカリン・バクテリアを部屋に充満させ、

 敵に匂いを嗅がせたわ。実は鼻から侵入させる方が脳を直接刺激できるのよ。」


「ほぉ。面白いのう。もっと聞きたいが、仕事を始めようかの。ワシは

 第二甲板の迎賓室げいひんしつにいる二人の青年をるぞ。お主はクライド社長を

 始末してくれ。彼奴あやつは電子操作の使い手じゃ。電磁波による幻覚魔法は

 おそらく防がれるな。また機械化人間サイボーグじゃから匂いも効かないじゃろ。」


「客に攻撃させ、その隙を狙うわ。じゃ、エド。また会いましょうね。」

「ふむ。お互い『神に吸収される』前に死んではいが残るからのう。」


 ベルザとエドは互いに背を向け、艦内の通路を走り出した。そして床に

 放置されたジンの死体は別の場所に量子通信で連絡していた。それは、

 調理スタッフに変装したジンへの通信だった。グッドマンが殺したと

 思っていたジンの『死体』の正体は、特務官ジャッジナイトオハギ3佐が開発した、

 高性能偽体ディープフェイカーだった。時間が足りず、ジンだけが特別に用意されていた。


「なるほどね。・・・即死魔法には1日で使える回数制限があるようだな。」


 ジンが独り言をつぶやいていると、突然力強い声が割り込んできた。


「よぉ!! ジン、調子はどうだァ!! もう、ナジュリと会えたか!?」

「クーロン。悪い。ナジュリは・・・残念ながら来なかったようだ。」


「まだ諦めるな。『太陽』は沈んでねえだろ?」

「は? そりゃ日没まで時間はあるだろうが。」


「いいか、ジン。ナジュリは必ず来る。まず王がこの空母にいる以上、

 王を崇拝すうはいするように教育されたアイツは、王を見捨てることは出来ない。

 もう一つは、あいつは特務官ジャッジナイトだ。組織犯罪を見過ごす訳にいかない。

 太陽が沈まない限り、あの女を信じろ。きっと俺達を助けに来る。」


「・・・分かった。クーロン、ナジュリを信じてみるよ。オレはゼンが

 居る場所に向かう。また何かあったら連絡してくれ。それじゃあな。」


「おう!! 戦闘で困ったら、俺とレミスターがアドバイスするぜ!!」


 クーロンは、ジンが通信を切る前に切断した。相変わらず、クーロンという男は

 一方的な性格だ、とジンは思っていた。ジンは厨房ちゅうぼうから脱出することを決めた。


 蒸気が立ち込める厨房の中、ジンは被っていた見習い用の帽子に手をかけ、

 一気に脱ぎ捨てると、帽子に抑え込まれていた金髪があらわになる。


「おい!! どこへ行く気だ!? さっさと持ち場に戻れ!!」


 シェフの声を背中で聞き流すと、ジンは無言で厨房から出て行った。


 ジンは、白衣を更衣室のカゴに入れ、ゼン達が居ると思われる迎賓室に

 向かった。ジンは走りながら、ゼン達の洗脳を解く方法を考えていた。








 海上都市国家『ロズノア』 第二甲板 迎賓室








 一方その頃、ベルザの毒素細菌メスカリン・バクテリアで混乱するゼンは、獣人の魔法使い、

 ロニに襲いかかった。ゼンの目が異様に大きく見え、瞳は光に反応せず、

 焦点しょうてんが合っていない。ゼンの鋭い眼光はヒョウの顔をした氷結魔法使いを

 凝視ぎょうしした。ロニのことをキュメロス島で戦ったベヒーモスと思いこんだ。


「鬼神流・・・九沙那儀クサナギッ!!」


 ゼンの指が青白く輝き、電子と光子を衝突し、光の刃を形成していった。

 鋼鉄の甲冑かっちゅうすら切断する手刀がロニを襲う。突如ロニは魔法名を唱えた。


絶対零度連結アブソリュート・ゼロ・リンク


 ロニはてのひらから氷の鎖を作り、天井へ逃れた。ゼンの斬撃を回避したロニは、

 天井に張り付くと、ゼンの後ろに向けて『氷の道』を一気に張りめぐらせた。

 そのまま真っ直ぐに、ロニは鎖を握ったまま、ゼンの背後に高速移動した。


 ロニも毒素細菌メスカリン・バクテリアの影響を受けていた。彼の瞳孔どうこうは開き、心拍数も急上昇し、

 襲ってくるゼンに対し闘争本能が刺激された。普段は冷静に戦場を分析できる

 彼は迫りくる脅威ゼンおびえていた。一気に戦闘を終わらせる魔法をAIに指示した。


砕氷烈覇ダイヤモンド・スマッシャー!!」


 空中で巨大な氷塊を出現させ、彼は思いっきりゼンに蹴飛ばした。砕かれた

 無数の氷の氷柱つららはゼンに直進する。ゼンは拳を握り、そして力強く言った。


「鬼神流・・・数殺殴スサノオォオオ!!!!」


 次の瞬間、ゼンの拳を青白い粒子が包み込み、荒れ狂うような連打を放つ。

 視認不能な速度で繰り出される連撃は飛来する無数の氷柱を正面から砕き、

 破片も消え去った。ロニの砕氷烈覇は、ゼンの前で蒸発し、きりになった。


 天井にぶら下がるロニは、氷の鎖を解除した。着地すると、ゼンを肉弾戦で

 倒そうと本能で判断した。ロニは魔法生成AI『ヨトゥン』にプロンプトした。


冬将軍化ウィンター・ジェネライズッ!!」


 ロニの足元から、青い魔法陣が浮かび上がり、魔法陣からあふれ出る光が全身を

 氷の甲冑でおおった。顔が兜と頬当ほおあてで隠された。氷の鎧武者に変貌したロニは

 ゼンにタックルした。ゼンは、極低温の甲冑に吸い付くように凍着とうちゃくした。


「うぅぐぐぎゃぁあああああああああッ!!」


 もはや言葉のていをなさない絶叫が響く。ゼンは正気を失い、背後にある

 壁に叩きつけられた。骨が悲鳴を上げ、衝撃と共にヒビが入った。ロニの

 鎧に吸着したゼンは、あらがう力も残っておらず、満身創痍まんしんそういで意識を失った。


 だがロニは止まらない。彼はすでに狂っていた。白目をむき、

 口からよだれをらし、ただ驚異ゼンを圧殺せよと脳が命令した。

 壁に埋まりゆくゼンの体が、砕け散ろうとしたその刹那――。


深淵展開ワールド・イズ・アビス


 どこからともなく、響いた声に応じるように、世界が漆黒の闇に飲まれた。


 暗黒に視界を奪われたロニは、驚異ゼンを見失い、いきなり雄叫びを上げた。

 だが、その呼吸が荒くなるほどに、彼の意識が遠のいていった。氷の鎧が

 音を立てて崩壊し、ヒザから崩れ落ちる。ゼンも寄りかかるように倒れた。


 それは光子を奪う『黒体空間』だった。奪った光子を魔法で酸素に変換し、

 この結界では、空気そのものを毒――『高濃度酸素』へと変異させていた。


 闇から現れたのは、ジンだった。彼は暴走する二人を救うために、空間内で

 酸素濃度を調整し、軽い酸素中毒にさせ、この二人の『狂宴バトル』を終わらせた。

次話は4月18日土曜日の17時に投稿します。ご愛読ありがとうございました。


追記 読み直していたら、『開発者した』と誤字を発見し、修正しました。何度も投稿しておいて、書き間違える作者で本当にごめんなさい。

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