第55話 王の秘密と太陽の力
クーロンは、ジンが株式会社『ケルベロス』と共にパラメディオの
量子科学研究所を襲撃したことを知っていた。そこでナージャが、
MRBのスパイとしてロズノフを殺したことをクーロンは言ってきた。
「まさか、ケルベロスにもスパイを潜り込ませるとはな。夕闇?」
「その言い方は辞めろ。ナジュリと呼んでくれ。分かったよ、
確かに私は、MRBのエージェントだ。全ては世界のためだ。」
「やっと認めたか。その女がスパイなのは知っていたのか?」
「いや・・・初めて知った。私は、全ての情報を知らされていない。
しかしMRBがブレインデータを取り返すのは理解できる。我々は
世界平和工作が任務だ。ロズノフがやるテロを見過ごせない。」
「ミドロワが魔物を改造したのは、働き蜂計画の一環だろうが。
ブレインデータは優先事項じゃない。あらゆる生物を機械化し、
生殖能力がない働き蜂のように労働力の確保が目的だぜ!!」
「それは・・・私も知らない。・・・確かにやり過ぎだ・・・。」
ナジュリは目の色を変えた。ジンはナジュリに心変わりが
あると感じ、動揺しているナジュリに向かって言った。
「なぁ、もう王に従うのは辞めないか。オレ達と一緒に仕事しよう!!
ナジュリ!! お前の生き方はもうお前のもんだろうがァ!!」
ジンがナジュリに言うと、クーロンも同調して言った。
「ジンの言う通りだ。そんなに恐ろしいか。王の力が。ナジュリ。」
「おい、クーロン。・・・王って、一体どんな奴なんだ!?」
「前にも言ったが、欲深いんだよ。そして王は、世界で唯一、
大量に人々を虐殺できる魔法を『二つ』持っているんだ。」
「二つだと!? 何の魔法だ!! それは!!」
ジンの問いを聞いたクーロンは神妙な面持ちで言った。
「核だ。王は、核を魔法で撃てるんだ!!!!」
聞いたジンは固まった。ナジュリもうつむき、しばらく沈黙が続いた。
やがてクーロンが静寂を破るように王の魔法について説明を始めた。
「まず、核の魔法は50年前に王が手に入れた。それを知ったジョナスは、
王に進言した。当時の記録によるとジョナスが生まれた国で核爆弾が
作られ、それがどこかの国で使われたようだ。ジョナスは、核の魔法が
使われることに反対した。その後、ジョナスは行方不明になった・・・。
王が消したとしか思えないな。おそらく遺体もこの星にはないだろうな。」
「!! クーロン、王はヒトを消滅させる魔法も使うのか!?」
「もう一つの、王の魔法は『反射』だ。」
「? 反射とかどうやって計算するんだ!?」
「実は、魔法生成AIなんだ。王だけの特別仕様で『エネルギーや物質を反射する』
魔法だ。AIが代わりに計算するから、もし王が無意識でも発動する。だから王は
近くで核を撃っても放射能は受けない。王は、歩く大量破壊兵器なんだ!!」
王の魔法は『核攻撃』と『自動反射』だった。至近距離で核攻撃しても、
王には全く効かない。むしろ放射能も反射し、敵へのダメージは倍になる。
続いて、クーロンはロズノフがなぜ蘇るのかをジン達に説明した。
「ジンのAIが残した映像データを、うちのCTOが解析した。99%、ロズノフの力は
『量子化』だ。あいつの『死』を観測したら、復活するようだ。量子と同じで、
ロズノフは『生きている』と『死んでいる』が混在している状態なんだよ!!」
「な、なんだってッ!?」
「信じられん!! ありえん!!」
ジンとナジュリも、信じられない様子だった。クーロンは言った。
「俺もそうだよ。アーデルマイトにも言ったが、蘇生魔法を予約設定で
発動させたんだろと言ったら、蘇生魔法なんて未発見だと言われたぜ。
まあ、それがあれば医療業界も大慌てだろう。アーデルマイト曰く、
ロズノフは魔族で、自分で計算しているとな。だが、デコーヒレンスの
中で量子状態を維持できるのかと疑問が残る。量子化じゃないのかもな。」
ジンはクーロンが言った『デコーヒレンス』について質問した。
「デコーヒレンスってなんだよ?」
「ここに、炭酸飲料の缶があるとしよう。ふたを開けると外の空気に
触れた瞬間、液体から炭酸が逃げる。しばらく放置すると、炭酸が
抜け、ただの砂糖水になる。外から影響受けて普通になることだ。」
するとナジュリがクーロンに質問した。
「魔法生成AIでロズノフは量子状態から復活しているのでは?」
「いや、ユーザーを量子化させるなんてAIbirthは規約で禁止している。
蘇生も同じで、死んだ人間を生前に戻すのは、不可逆性で無理なんだ。
量子コンピュータと同じ計算速度を持つ魔族も体がバラバラになった
状態で自己観測できるのか? まるでブラックホールの中で勉強を
やるもんだぜ? 超自己中心的な奴じゃないと不可能な魔法だ。」
「まぁ・・・うちの量子操作魔法使いも、自分を量子化したことはないな。」
「それは自分を消滅させる行為だからな。だからロズノフについてはお前と
ジンが頼りだ。お前が時空操作で、ロズノフを止め、ジンは物体錬成
魔法でロズノフを量子状態から実体化。初めて奴を殴れるという訳だ。」
「オレが奴を実体化させるなんて出来るのか?」
「出来るぜ!! お前のAIのデータにあったが、ロズノフは
お前は量子操作で、相性が悪いと言ってたぜ。つまりお前か、
ナジュリが言っている『量子操作使い』なら、倒せるぞ!!」
「ベンジャミンか・・・。あ、そう言えば思ったけど、王はどうするんだ?」
「安心しろ。そこは考えてある。AIbirthに頼んでおいた。王のアカウントを
一時的に凍結させ、反射魔法を封じる。すると王は核攻撃が出来ない。王は
通常魔法で戦うことになる。それで勝てば王も諦めるようになるだろ!!」
クーロンが言っていることに若干不安を感じるジンだった。
一方、ナジュリは王に逆らうことに悩んでいる様子だった。
クーロンはジン達に明後日しかチャンスがないことを言った。
「いいか? 核と反射の王、不死身のロズノフが揃うのはその日だけだ。
新国家ロズノアはAIとヒューマノイドの国だ。明後日、世界各国から
王族や貴族、政府の要人が集まる。ロズノアをシティの代わりになる
『世界の工場』にすることで、世界初の人件費ゼロの投資先が誕生する。
あと、王とロズノフは『お互い手を出せない』状況だ。何でだと思う?」
ジンはクーロンの言っている意味が分からず、尋ねた。
「お互い手を出せない? どういう意味だ?」
「王はロズノフを殺せる。ところが、ロズノフは死なない。ロズノフは王を
殺したくても反射で攻撃は通らない。つまり、膠着状態に陥るって訳だ。」
「なるほど。だから直に会っても平気なのか。」
最強の戦闘力を持つ王と、最強の生命力を持つロズノフ・・・。
両者がロズノアという、超巨大空母に集まる。顔見せで終わり、
次の日からは最終戦争の準備になると、ジンは心の中で思った。
「おい、ジン。お前は、どうするんだ? 俺達とロズノアに行くか?」
「やるしかねえな!! ナージャの仇もあるし、あとオレが知り合った
女子高生も被害を受けた!! ロズノフは絶対ぶっ飛ばす!! 王も
本当に地球侵略しようとするなら、オレがぶん殴って止めるぜ!!」
その発言を聞いたナジュリは急に険しい表情になり、ジンに言った。
「それ以上、陛下への侮辱は辞めろ!!」
「!!」
「おいおい!! お前はまだMRBの犬か──」
次の瞬間、クーロンのアゴにナジュリが拳銃を突き立てていた。
ナジュリは時空操作を使い、拳銃を取り出してクーロンを威嚇した。
ジンは慌てるが、クーロンは堂々とした態度でナジュリに言った。
「お前、太陽にならないのか!?」
「・・・・・・。」
「今のお前は王と言う星の衛星だ。本当のお前は誰よりも輝ける!!
王を超えて大統領を目指せ!! 権力者を振り回す太陽になれ!!」
「血迷ったか・・・陛下は神の代行者だぞ!! 陛下の命令は神の言葉だ!!」
「王が神の代理人と誰が決めたんだ!? お前が信じるのは何だ!? 神は
お前を救ったのか!? 違うだろ!! お前が世界を救う太陽になれ!!
立て!! そのデカい胸は王のモノじゃねえ、お前の心はお前のモノだ!!」
「黙れセクハラ宇宙バカがァ!! 死ねッ!!」
ナジュリが引き金へと指をかける、その刹那。ジンはナジュリの頬を叩いた。
「何やってんだよ、お前ッ!! 目を覚ませよォォオ!!」
ジンは機械化人間であり、その威力とは人間の張り手よりも強い。不意に
叩かれたナジュリはバランスを崩して、地面に倒れた。ナジュリの白い頬は
赤くなり、彼女は生まれて初めて、ぶたれた。31年間、ナジュリは任務で
人を殴ることはあるが、自分は殴られたことがなかった。彼女は、泣いた。
泣き叫ぶナジュリを見たジンは、急いで謝る。
「ナジュリ、ごめんな!! 痛かったか!?」
その光景を見たクーロンは大爆笑して言った。
「ドワハハハハッ!! 最高だぜ、お前ら!! ナジュリ、お前は世界一の
金持ちである俺を脅した。その度胸を活かして這い上がってくるんだ。
権力者の重力に逆らってみろ!! 宇宙で一番自由な女になれ!!」
ナジュリは床に両手をつき、感情が爆発した。自分が好きな男から殴られ、
みっともない姿を晒している。彼女はこれまで他人の前では涼しい顔でいた。
6歳からチヤホヤされ、30過ぎた後は、周りは恐れおののき、そして恋人が
いなかった。同性の部下に慕われるが、男性の部下からは距離を置かれた。
そんな彼女は、ジンのことが気になっていた。この男なら、自分の孤独を
和らげてくれるかと思っていた。だが、まさか自分の思い通りに動くと
思った男に殴られると思わなかった。その後、彼女は泣き止み、部屋を
出て行く。ジンはマズイと思った。ナジュリを泣かしたこともそうだが、
このままでは会社経営にも支障が出るのではと思った。クーロンが言う。
「気にするな。あの女は俺達と一緒に戦う筈だ。なぜなら王に一番近い!!
王に対する不信感は、増長している。明後日、あいつが来るのを待つ!!」
ジンは、クーロンのデカさが分からなかった。元々彼は体格も大きかったが、
何よりも態度もデカかった。どうしてそこまで楽観的に物事を考えられるのか。
ビジネスで成功したクーロンの強みは、他人を振り回す力なのではないかと、
ジンは思った。クーロンなら、たとえブラックホールの中でも平気だろうと。
次の日、ジンは知り合った女子高生から病院に来てほしいと連絡が入った。
ブレインデータを盗まれた親友の体が回復し、ジンにお礼を言いたいから
会ってほしいと彼女は伝えた。ジンは地下鉄に乗ると、病院へと向かった。




